2026年のノーベル生理学・医学賞の受賞者が、10月5日に発表されました。
今年は、カール・ダイセロスさん、ペーター・ヘーゲマンさん、ゲオルク・ナーゲルさんの3人が受賞しています。
受賞理由は、「光で作動するイオンチャネルと光遺伝学(オプトジェネティクス)に関する発見」です。
光を使って特定の神経細胞の活動をコントロールする技術の発展に貢献し、脳の仕組みの解明に新たな道を開きました。
大学入試の面接では、こんな質問をされることがあるのを知っていますか?
「最近気になった医療ニュースはありますか?」
「今年のノーベル生理学・医学賞について知っていますか?」
特に医学部を目指している人は、受賞者の名前だけでなく、「何が発見されたのか」「医学にどんな影響を与えるのか」まで説明できるようにしておきましょう。

そもそもノーベル賞とは?
ダイナマイトの発明で知られる、スウェーデンの化学者アルフレッド・ノーベルの遺言から始まった、100年以上の歴史を持つ栄誉ある賞です。
第1回の授賞は1901年で、2026年は125周年にあたる年です。
受賞者にはメダルや賞状、賞金が贈られます。
2026年の賞金は1部門あたり1,200万スウェーデンクローナで、複数人が受賞した場合は分配されます。
かつては故人も表彰の対象でしたが、1974年以降は原則として亡くなった人への授賞は行われなくなりました。
ノーベルは、強力な兵器の存在が戦争の抑止力になると考えていました。
しかし、彼が開発した爆薬は戦争にも利用され、「死の商人」と批判されたという逸話も残っています。
こうした評価を気にして、自分の死後に人類の発展に貢献する賞を残そうとした、という説もあります。
ただし、ノーベル賞を設立した動機については、はっきりとわかっていません。
元々遺言にあったのは、「物理学」「化学」「生理学・医学」「文学」「平和」の5分野です。
現在は「経済学」を含めた6分野で表彰されていますが、経済学賞だけは1968年に新設されたものです。
正式名称は「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」で、厳密にはノーベルの遺言によって設けられた賞ではありません。
面接によく出てくる話題は?
日本人がノーベル賞を受賞した年は、特に注目される話題です。
『○○さんがノーベル賞を受賞しましたが、知っていますか?』といった質問をされることもあるでしょう。
ただし、「知っています」という確認や、「すごいと思います」という単純な感想を求められているのではありません。
よく聞かれる『最近気になったニュースはありますか?』という質問と同様、そのニュースを知って「自分の考え方がどう変わったか」「どんなことに新しく気づいたのか」ということが大切なのです。
さらに、「この研究は将来の医療にどう生かせると思いますか?」など、一歩踏み込んだ質問をされることもあるでしょう。
焦らずに返答するためには、事前にニュースの内容を理解し、自分なりの意見を整理しておく必要があります。
日本人の受賞者はもちろん、医学部を志望するのであれば、生理学・医学賞についても毎年チェックしておきましょう。
ノーベル生理学・医学賞をおさえておこう!
医学部の面接で、特に押さえておきたいのが生理学・医学賞です。
ただし、医療につながる研究が「物理学賞」や「化学賞」の対象になることもあります。
自分の志望分野に関連する研究については、ほかの部門も確認しておきましょう。
今年の受賞者
2026年 カール・ダイセロス(アメリカ) & ペーター・ヘーゲマン(ドイツ) & ゲオルク・ナーゲル(ドイツ)
今回のキーワードは、「光遺伝学(オプトジェネティクス)」です。
研究の出発点になったのは、意外にも人間の脳ではありません。
ヘーゲマンさんとナーゲルさんは、光の方向に向かって泳ぐ単細胞の藻類を研究する中で、「チャネルロドプシン」という光に反応するタンパク質を発見しました。
このタンパク質に青い光が当たると通り道が開き、イオンが細胞内に流れ込んで電気的な信号が発生します。
そこでダイセロスさんは、チャネルロドプシンを作る遺伝子を神経細胞に導入しました。
すると、光を当てることで狙った神経細胞を活動させることができたのです。
2005年には、培養した神経細胞を光で制御できることを示し、その後は生きたマウスの脳でも実証しました。
こうして発展した技術が「光遺伝学」です。

光遺伝学の何がすごい?
脳の中には膨大な数の神経細胞があります。
これまでも、「脳のこの部分が動くと、ある行動が起こる」と観察することはできました。
しかし、それだけでは本当にその神経細胞が行動の原因なのかを確かめるのが難しい場合がありました。
光遺伝学では、特定の神経細胞の活動を光によって促したり、抑えたりすることができます。
そのため、「どの神経回路が記憶・感情・行動などに関係しているのか」という因果関係を詳しく調べられるようになったのです。
現在では、てんかんやパーキンソン病、認知症、精神疾患などの研究にも活用されています。
また、視覚障害のある人の視機能を回復させる治療への応用も研究されており、実際に人を対象とした臨床試験も進められています。
ただし、光遺伝学を応用した治療は、まだ一般的な治療法として確立されているわけではありません。
医学部面接では「その先」まで考えよう
このニュースを面接対策として学ぶなら、研究内容を覚えるだけで終わらせてはいけません。
たとえば、
「脳の特定の神経細胞の活動をコントロールする技術がさらに発展すると、どんな可能性があるか」
という視点で考えてみましょう。
病気に関係する神経回路の働きを詳しく調べることで、新たな治療法の開発につながる可能性があります。
しかしその一方で、将来的に人間の感情や行動にまで介入できるようになれば、倫理面での議論も必要になるでしょう。
医学の進歩には、「できるかどうか」だけでなく「どこまで行うべきか」という視点も欠かせません。
こうしたところまで自分の言葉で考えられると、医学部面接でもニュースを単に暗記しているだけではないことが伝わります。
近年の受賞者
近年の受賞者を簡潔にまとめます。
気になる研究については、さらに詳しく調べてみましょう。
2022年から2025年については、それぞれ個別の記事でも紹介しています。
2025年 坂口志文(日本) & メアリー・E・ブランコウ(アメリカ) & フレッド・ラムズデル(アメリカ)
3人は、免疫が自分自身の体を攻撃しないようにする「末梢性免疫寛容」に関する研究で受賞しました。
特に坂口さんは、免疫反応の暴走を防ぐ「制御性T細胞(Treg)」を発見したことで知られています。
免疫は病原体から体を守る大切な仕組みですが、正常な細胞まで攻撃してしまうと、自己免疫疾患などを引き起こすことがあるのです。
これらの研究成果は、自己免疫疾患やがんの治療、臓器移植後の拒絶反応を抑える治療にもつながると期待されています。
2018年の本庶佑さん以来、7年ぶりとなる日本人の受賞でした。

2024年 ヴィクター・アンブロス(アメリカ) & ゲイリー・ラブカン(アメリカ)
2人は、「マイクロRNA(miRNA)」という小さなRNA分子が、遺伝子の働きを調節する仕組みを発見した功績で受賞しました。
私たちの体を構成する細胞は、基本的に同じ遺伝情報を持っています。
しかし、筋肉の細胞や神経細胞など、それぞれが異なる役割を果たしていますよね。
その違いを生み出す仕組みの一つが、遺伝子の働きを調節するマイクロRNAなのです。
研究には、体長1ミリほどの「線虫」が活用されました。
小さな生物の研究から、人間を含む多くの生物に共通する生命の仕組みが明らかになったわけです。
この発見は、がんなどの病気を理解するうえでも重要な成果となっています。

2023年 カタリン・カリコー(ハンガリー/アメリカ) & ドリュー・ワイスマン(アメリカ)
2人は、新型コロナウイルスの「mRNAワクチン」の開発を可能にした基礎研究によって受賞しました。
mRNAとは「メッセンジャーRNA」のことで、細胞内でタンパク質をつくるための情報を伝える役割があります。
従来、人工的につくったmRNAを体内に入れると、強い炎症反応が起こるなどの問題がありました。
2人は、mRNAを構成する「塩基」の一部を化学的に変化させることで、過剰な炎症反応を抑え、効率よくタンパク質をつくらせる方法を発見したのです。
この成果が、新型コロナウイルスに対するワクチンの迅速な開発につながりました。
感染症対策において、長年の基礎研究が社会を大きく変えた事例だといえるでしょう。

2022年 スバンテ・ペーボ(スウェーデン)
スウェーデン出身の生物学者であるペーボさんは、絶滅した人類の遺伝情報を研究する「古ゲノム学」という新しい学問分野を切り開きました。
ネアンデルタール人のゲノムを解読し、それまで知られていなかったデニソワ人の存在を明らかにするなど、人類の進化を理解するうえで大きな貢献を果たしています。
また、現在の人類にも、絶滅した人類から受け継いだ遺伝情報が残されていることを明らかにしました。
こうした研究は、人間の体質や病気へのかかりやすさを理解する手がかりにもなっています。

日本人受賞者
2025年の坂口志文さんをはじめ、日本人の研究者もノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
受賞当時の研究内容だけでなく、その発見が現在の医療にどのようにつながっているのかも確認しておきましょう。
2018年 本庶佑(日本) & ジェームズ・P・アリソン(アメリカ)
京都大学の本庶佑(ほんじょ たすく)さんは、がんに対する免疫の働きを利用した新しい治療法につながる研究で受賞しました。
本庶さんが発見した「PD-1」は、免疫細胞の働きにブレーキをかける役割を持っています。
この仕組みを利用して、がん細胞が免疫による攻撃を逃れることがあるのです。
そこで、PD-1によるブレーキを解除し、免疫細胞ががんを攻撃できるようにする治療法が開発されました。
その代表例が、がん治療薬の「オプジーボ」です。
一方、アリソンさんは、免疫細胞の働きを抑える「CTLA-4」というタンパク質に着目し、その働きを阻害することでがんを治療する方法を研究しました。
従来とは異なる方法でがんに立ち向かう「免疫チェックポイント阻害薬」は、現在もさまざまながんの治療に活用されています。
2016年 大隅良典(日本)
大隅良典(おおすみ よしのり)さんは、細胞内の不要なものを分解して再利用する「オートファジー」の仕組みを明らかにした功績で受賞しました。
オートファジーは「自食」とも訳され、細胞の中にある古くなったタンパク質などを分解し、その成分を再利用する働きを指します。
いわば、細胞の中で行われるリサイクルのようなものですね。
この仕組みがうまく働かなくなることは、さまざまな病気と関係していると考えられています。
現在も、がんや神経変性疾患などとの関連について研究が続けられており、新たな治療法の開発につながることが期待されています。
2015年 大村智(日本) & ウィリアム・C・キャンベル(アイルランド/アメリカ) & 屠呦呦(中国)
北里大学の大村智(おおむら さとし)さんは、寄生虫感染症の治療薬につながる研究で受賞しました。
大村さんは、土壌に生息する微生物の研究から、寄生虫に効果のある物質を生み出す菌を発見しました。
その後、キャンベルさんらとの共同研究によって「エバーメクチン」という物質が見つかり、寄生虫感染症の治療薬「イベルメクチン」の開発につながったのです。
この薬は、アフリカや中南米などで多くの人々を苦しめてきた寄生虫感染症の治療に、大きな役割を果たしています。
なお、同じ年に受賞した中国の屠呦呦さんは、マラリアの治療に使われる「アルテミシニン」の発見が評価されました。
いずれも、新たな薬の開発によって世界中の人々の健康に貢献した研究です。
2012年 山中伸弥(日本) & ジョン・ガードン(イギリス)
京都大学の山中伸弥(やまなか しんや)さんは、「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」の研究によって受賞しました。
iPS細胞とは、皮膚などの細胞に特定の因子を導入することで、さまざまな種類の細胞に変化できる能力を持たせたものです。
一度役割が決まった細胞でも、その状態を変えられることを示した画期的な成果でした。
一方、ガードンさんは、カエルの卵細胞に、別の細胞の核を移植する実験によって、一度役割が決まった細胞の核でも初期化できることを明らかにしました。
これらの研究成果は、再生医療や病気の研究、新薬の開発など、幅広い分野で活用されています。
そして2026年3月には、パーキンソン病と、虚血性心筋症による重症心不全のそれぞれに対して、iPS細胞を利用した再生医療等製品が日本で条件・期限付きの製造販売承認を取得しました。
今後も安全性や有効性の検証が必要ですが、長年の研究が実際の医療へとつながった、大きな一歩といえるでしょう。
今では当たり前に受けられる治療法も、最初の発見と、その後に続く多くの研究によって成り立っています。
ノーベル賞の受賞研究を知ることは、医学の進歩だけでなく、研究を積み重ねることの大切さを理解する機会にもなりますね。
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