Interview
「睡眠」の研究で
アスリートのパフォーマンスや
人々のメンタルヘルスに貢献する
早稲田大学 スポーツ科学学術院 スポーツ科学部 教授
西多 昌規 先生
お昼寝をするとスポーツの
パフォーマンスが向上する?!
私は、睡眠とメンタルヘルス、そして睡眠とスポーツとの関係を研究しています。スポーツというと、日々のトレーニングが重要視されます。しかし、体を動かすトレーニングとは真逆の「睡眠」も、アスリートのパフォーマンス向上や良好な心身の健康に深く関わっています。
私の研究室で行った実験例では、午後にお昼寝をすると、サッカーのパス速度などパフォーマンスが向上しました。また睡眠不足になると、ゴルフのパッティングの正確さが落ちる、剣道の試合では歩数が落ちる、小手が多くなり防御的になる、などの結果がわかりました。
睡眠の問題は、パフォーマンスだけでなく、こころの健康すなわちメンタルヘルスにも関わってきます。良好な睡眠はメンタルヘルスの基本です。皆さんもよく体を動かして疲れた日は、よく眠れると思います。適度な運動を習慣にすると睡眠が良くなり、メンタルヘルスも良好になります。コロナ禍で運動がなかなかしづらかった頃に、自宅でできるゲーム機を使って運動を続けた研究も行いました。結果は目下解析中です。
日本人の5分の1は睡眠に問題を抱えているという調査結果もあり、こころの病を持っている患者数は約420万人にものぼります。そして、スポーツや運動は、アスリートの良好なコンディショニング作りやパフォーマンス向上だけでなく、私たちのこころを健康に保つために、大切な習慣です。睡眠とスポーツ、メンタルヘルスの関係を研究して、アスリートだけでなく、一般の人の健康増進・維持にも役立つ成果を出したいと考えています。
さまざまな要因が関わる睡眠に
興味を持ち、研究テーマに
睡眠を研究テーマに選んだ理由はいろいろあるのですが、一つは、大学病院を中心に精神科医として働いていたときに、精神障害の患者さんはほぼ全員睡眠に関する症状があること、睡眠を改善することが、最も有効な治療の第一歩であることを経験したことです。また、アメリカ留学中に、睡眠中にスポーツや楽器などの技術が向上する脳科学研究を行ったことも影響しています。睡眠には、ストレスや生活習慣など、さまざまな要因が関わってきます。医者になって10年以上経ったところで、体を動かす運動やスポーツも睡眠に影響を与える要因であることに気づき、関心を持ち始めました。
研究者が少ない、謎の宝庫
多くの人々に貢献できる研究領域
スポーツにおいて、トレーニングをまったくしていない、一見するとサボっているように見える睡眠が、スポーツパフォーマンスやメンタルヘルスにとって大切であるのは、意外性があって面白いと思います。トレーニングを激しくやり過ぎて、うつ状態や不眠症になるアスリートも実際にいて、相談に乗ったりもしています。このようなときに、私の経験や研究結果が活かすことができて、悩んでいたアスリートが好成績を収めたときの嬉しさは、何ものにも代えがたいものがあります。また、運動が睡眠やメンタルヘルスに良いことは知られるようになってきましたが、まだ十分とは言えません。運動嫌いの人にどのように関わっていくかという問題もあります。そして私の研究テーマは、国際的にも行っている研究者がまだ少ないです。謎の宝庫とも言えます。研究を通して、アスリートの競技成績が向上する、アスリートのメンタルヘルスが向上する、そして国民の心身の健康状態が良くなれば、すばらしいことだと思います。
西多先生からのメッセージ
自分の経験を振り返ってみると、大学受験が終わって入学してからが、長い道のりの始まりでした。「好きなものをやりましょう」というのは簡単ですが、なかなか好きなものが見つからない、わからない人も多いでしょう。そういうときは、「自分に合わないものは避ける」「比較的苦にならないものを見つける」という、消極的なスタンスでもいいと私は思います。そのうち、私のように「どちらかといえば好きなもの」が見つかって、いつのまにか専門家になれるかもしれません。










