Interview
地域の祭りや行事を、どう未来へつなぐのか
――現地の声に耳をすませて
國學院大学 観光まちづくり学部 観光まちづくり学科 准教授
石垣 悟 先生
受け継がれてきた“伝統”に、“現代”の意味を問い直す
私の専門は民俗学です。地域に根差して今日まで受け継がれてきた「伝統的」な祭りや行事を、現代社会の中でどのように位置づけ直し、同時に未来へと継承していくことができるのか(あるいは、できないのか)、という問いに向き合っています。
研究方法としては、2つのアプローチをとっています。1つは、各地の祭りや行事の様相を調査して比較したり、関係する文献資料を読み込んだりして、その歴史性や地域性の特色を明らかにする方法です。もう1つは、その祭りや行事に携わっている人々に、現場で聞き取り調査を行い、地域側の視点に立って、その実態を描き出す方法です。
この2つを組み合わせることで、「どうすれば地域の祭りや行事を現代に合った形で残し、未来へつなげていけるのか」という問いに対する解決の糸口を探っています。さらに、それを実践する手立てとして、博物館などの公共施設を利活用することや、祭りや行事を地域の共有資源「コモンズ」として捉える思考を共有する取り組みなども進めています。
継がれるもの、途絶えるもの――1つの盆踊りから始まった探求心
民俗学に興味をもった最初のきっかけは、大学の卒業論文で取り上げたある地域の盆踊りでした。調査を進めると、近隣にも類似の盆踊りがあり、中断されたもの、一度中断したが復活したものなど、地域ごとの事情で様々な展開があるとわかりました。同じような盆踊りでも、続けたり、やめたり、再開したりする――そこにはどんな論理が働いているのか明らかにしたいと思いました。それは既存の盆踊りに関する研究ではほとんど触れられておらず、自分で現地に足を運んで盆踊りを見て、関係する人々にじっくり話を聞かなければなりませんでした。調査の結果、盆踊りは地域の人々が協力しなければ成り立たないという、「組織」の重要性を実感しました。さらに、その「組織」を構成する一人ひとりのもつ「意識」が集合的に作用していることにも気づきました。そして、この「組織」と「意識」の双方を調べることで、地域の人々が自分たちの盆踊りや歴史をどう捉えているのか、また他の地域のそれをどう見ているのかを明らかにしてきました。その後、社会人として博物館勤務を経て文化庁に長く勤務することになり、そこでは地域の文化を資源として守りながら発信し、未来へと繋いでいく仕事に携わりました。自分の研究と深く関わる一方で、研究と行政の間にある矛盾に、ある種の怖さや悩みを抱いた時期もありました。今は、人文・社会科学系の学術的成果を社会にどう還元していけるか、その可能性の1つとして、この経験を活かしていきたいと思っています。
まるで“お宝”発見!常識を超えた世界との出会い
民俗学の一番の面白さは、自分の常識や当たり前が通じない世界に触れられることです。平たく言えば、世界の見え方が大きく変わります。どの学問にも、そうした魅力はあると思いますが、地域社会との関わりが深い民俗学では、それが特に強いのではないでしょうか。
例えば、民俗学では妖怪もよく研究対象となります。河童をはじめ、小豆洗い、座敷童子、鬼、天狗など、名前を聞いたことのある人も多いでしょう(さすがに見たことのある人は少ないでしょうが)。民俗学者は、こうした妖怪が実在すると信じて一生懸命探しているわけではありません(信じることを否定はしません…)。しかし、妖怪に関する伝説や祭りをもっている地域には、必ずそれを今に伝えている何らかの事情・背景があります。その地域にしかない独自の論理があるのです。それは、地域を取り巻く自然環境や歩んできた歴史、地域内の人間関係や他地域との関係といった社会環境が深く関わっています。それらについて、現場で自分の目と耳を使って調査し、地域独自の論理を探っていくことは、それまで誰も気づかなかったことに自分だけが気づける作業でもあり、とても新鮮で、かつ魅力的です。語弊があるかもしれませんが、お宝を発見したような興奮すらあるのです。
石垣先生からのメッセージ
大学とは、高校までに身につけた知識をベースに、それを一度壊して、自分なりに組み直す場だと考えています。そうすることで、自分自身の人生を歩んでいく上で本当に役立つ知識が身につくはずです。特に大学での調査・研究のような学術的営みは、この破壊と組み直しの作業そのものとも言えるでしょう。
先ほどの妖怪の話は好例です。妖怪は今突然生まれたモノではなく、地域で何代にもわたって受け継がれてきた歴史的なモノです。しかし、歴史の教科書には登場しません。つまり、妖怪を真正面から捉えようとするなら、私たちは歴史の見方そのものを変えなければならないのです。これは、高校までの常識を一度壊して組み直すことに他なりません。ただ、ここで注意しておきたいのは、常識を身につけていなければ、そもそも壊すことも組み直すこともできない、ということです。ぜひ常識をしっかりと身につけ、大学の学びへの準備を進めてください。大学では、問いは与えられるのではなく、自ら立て、解決の可能性を考えるものです。そこで破壊と組み直しができると、世の中の事象・事物を見る目が多角的で逞しいものとなり、様々な問いを立てられるようになります。そして、そこで得られる問いは、必ず大きな成長と未来への可能性を生み出してくれるでしょう。










