Interview
映画館からスマホへ――多様化する視聴環境に挑む音響デザイン
東京藝術大学大学院 映像研究科 教授
長嶌 寛幸 先生
上映開始から130年、変わりゆく映画サウンド
私の専門は「サウンドデザイン」です。もともとは研究者ではなく、「映画音楽家」の立場からアカデミックな世界に入りました。現在は、マルチ・スピーカー環境(複数のスピーカーによる立体音響)、における映画や演劇などの音響作品を作りながら、そこで得られた知見を研究成果としてまとめています。
みなさんも「5.1チャンネル」や「ドルビー・アトモス」などの言葉を聞いたことがあるかもしれません。どちらも、映画館で使われる立体音響システムです。しかし現在は、映画をテレビだけでなくスマートフォンやタブレットで観ることも当たり前になりました。それに伴い、それぞれの視聴環境にふさわしい音響が求められるようになっています。
映画館の歴史は1895年に始まり、今年で130年目です。この間に映画そのものが大きく変わりました。そして、「視聴方法の選択肢が増えた」ことに加え、AIの登場によって、さらに大きく変わろうとしています。私はこうした変化を見据えながら、作品制作、そして学生への指導を行なっています。
10歳の少年と「夢の楽器」の出会い
私が「音」の世界に入ったきっかけは、10歳の時に両親が入門用のシンセサイザーを買ってくれたことでした。「音楽」というよりは「どんな音でも出せる夢の楽器」というキャッチフレーズに惹かれたのです。しかし、当時まだ10歳で音楽の勉強もしていなかった私は、ほとんど何もできずに途方に暮れていました。でもある時から、自宅にあったテープレコーダーと組み合わせて、サウンド・コラージュのようなものを作り始めます。そして高校時代に、それらの作品をある映画監督に送ったことが、映画との付き合いの始まりでした。その後、映画音楽を担当するようになりましたが、始まりが「音楽」ではなく「音」でしたから、常に「音楽と効果音の間」のようなものを目指すようになりました。それが映画音楽だけでなく、映画音響全体に興味を持つようになった理由です。
AIには真似できない人間だけが持つ「創造の可能性」
映画の場合、監督やプロデューサーがいて、彼らの希望にかなうような音楽を作らなければなりません。また、場面とぴったり合うように長さを調整する必要もあります。作る立場からすると、窮屈に感じる面もありますが、そうした制約や他者との関わり合いの中で、時に「自分では思いもつかなかった音」が生まれることがあります。これが集団で作品を作る面白さであり、醍醐味です。そして、この予想外の創造性こそが、AIには真似できない「人間だけが持つ可能性」の一つだと考えています。
高校生に伝えたい、AI時代を生き抜く人生の「鍵」
大学受験の良さは、「ものごとを多角的に考える力を養える」ことです。21世紀も25年が過ぎ、「21世紀的な価値観」が全世界で広がりつつあります。20世紀後半のヒューマニズムからすると、それは「おぞましいもの」かもしれません。しかし、私たちはこの世界で生きていかなければなりません。そのためには、世界の歴史、特に17世紀以降の西欧史を学ぶことをお勧めします。現在の「国家」の基礎となった「近代」がいかに始まり「現在」に至っているかを知ることは、この世界を生き抜くための重要な指針になると思います。
また、芸術を「体験」することも大切です。今はWeb、SNS、動画サイトで、「情報」が瞬間的に手に入る世の中ですが、残念ながら、そこに「体験」はありません。しかし、「体験」こそが、みなさんの「人格」を形成するものであり、今後の人生を左右する「鍵」になります。
そして、何より大切なのは「友達」です。人数の問題ではなく、色々なことを語り合える友達がいることは、人生最大の財産だと思います。
長嶌先生からのメッセージ
世界が大きく変わろうとしている今、大学を目指すみなさんは、これまで以上に大変だと思います。しかし、みなさんはこの時代を牽引していく21世紀人です。そのためにも、人類が築いてきた叡智を学んでください。その学びの中の「何か」が、きっと今後の人生のどこかで「生きるためのヒント」になるはずです。
私が教えるサウンドデザイン領域では、映画音響を学びます。映画音響の構成要素は、大まかに言うと台詞、効果音、音楽の3つですが、特別な経験や技術は必ずしも必要ありません。未経験から2年間の学びを経て、業界で活躍している者も多数います。まずは「映画、テレビ、ゲームの音響に興味があり、それを仕事にしたい」という熱意とひたむきさがあれば大丈夫です。他者との関わり合いの中で、自分でも思いつかなかった創造性を発揮する。ぜひ一緒にそんな経験をしてみませんか。










