大麻は違法か合法か ――「犯罪」を通して見る社会の仕組み

東京女子大学 現代教養学部 社会コミュニケーション学科 准教授
David Brewster(デイビッド・ブルースター) 先生


犯罪を犯罪と決めるのは誰なのか

私は「犯罪学」を研究しています。犯罪学は、18世紀から続く長い歴史をもち、海外では非常に人気のある学問です。大きな特徴は「学際性」にあります。社会学や法学、政治学、心理学、生物学、歴史学、地理学など、様々な分野から活発に議論されるため、「rendezvous subject(出会いの場となる学問)」とも呼ばれています。私は主に社会学の視点から、2つの側面に注目して研究を進めています。
1つは「ルールを破る」面です。なぜ人は犯罪を行い、それを続け、そしてやめるのか。犯罪が生まれる社会的背景を考えます。2つめは「ルールを作る」面です。どのような行為が犯罪と見なされ、社会がそれにどう対応しコントロールしてきたか、を考えます。
中でも関心が深いのは「違法薬物の統制」をめぐる問題です。日本では大麻の使用が犯罪とされていますが、世界に目を向けると、刑罰を緩和したり、合法的に規制したりする国も増えています。なぜ、国ごとに対応が異なるのでしょうか。その背景を考えるには、「社会が大麻をどう捉えているのか」「どのような議論や意思決定を経て、法律や政策が変更されていくのか」そして、その対応には「社会の価値観や文化がどのように反映されているのか」という問いが重要になります。また現在は、このような国際比較に加えて、日本国内の刑事司法政策が地域によってどのように異なるのかを、都道府県ごとの再犯防止の取り組みを比較しながら分析しています。

「日常」であり「別世界」でもある犯罪

私が犯罪学に興味をもったきっかけは、高校で社会学を学んだことです。私は子どもの頃、住宅侵入の被害に遭ったことがあり、学校でも飲酒や違法薬物に関わる人を目にするなど、犯罪を「日常」の一部と感じていました。一方で犯罪は、普段自分が生きている世界や価値観とは全く異なる「別世界」のようにも感じられます。そのような二面性をもつ犯罪を、学問として考えられることに面白さを感じました。
犯罪は、自分が直接被害に遭わなくとも、ニュースなどを通してほぼ毎日のように目にし、多くの人が日常的に意識している問題です。「安全かどうか」という感覚は、住む場所や通勤・通学の方法といった身近な選択にも大きな影響を与えます。また、犯罪対策のために、国や警察に与えられている強い権限は、私たちの自由や権利と密接に結びついています。安全を守るために、自由はどこまで制限されるべきなのでしょうか。国家権力は常に公正に使われているのでしょうか。このように、私たちの生活と深く関わる犯罪やその対策について考えることは、犯罪学を研究する大きな意義であり、魅力でもあります。

公正なルールは、どうすれば作れるのか

犯罪学が「不平等」や「不正義」という問題に、正面から向き合う学問である点も、私の関心を強く惹きつけました。社会に大きな害を与えているにも関わらず軽い処罰で済んだり、逆に害がそれほど大きくない行為が重く処罰されたりすることがあります。こうした矛盾に疑問をもち、刑事司法の仕組みや運用について深く学びたいと思うようになったのです。犯罪やその対策は「社会現象」であり、それを研究することは、社会の仕組みを知る手がかりになります。犯罪学では、個人の行動や人間関係といったミクロな視点と、社会の制度や構造といったマクロな視点の両方から社会を捉えます。こうした多面的な理解こそが、より公正で実効性のある法律や政策を考えるための土台になると考えています。

駐車違反から環境破壊まで ――多彩なテーマで「正解のない問い」に向き合う

犯罪学は、研究テーマが驚くほど多様なことも魅力の1つです。駐車違反や万引きといった身近な行為から戦争犯罪や環境破壊といった地球規模の問題まで、扱う対象は実に幅広いものです。さらに、「犯罪にどう対応するか」という問いも、メディア、政治、スマート技術、福祉制度など、様々な切り口から考えることができます。そのため、誰もが自分の関心に合ったテーマを見つけることができる学問だと感じています。
また、研究の過程で将来に役立つ実践的なスキルが身につくことも、犯罪学の良いところです。犯罪は、その全てが警察に届け出られるわけではなく、公式統計だけでは捉えきれない側面があります。そのため、アンケートやインタビューなどを通じて自らデータを集め、統計や行政資料、報道と照らし合わせながら実態を分析する必要があります。情報があふれる現代社会において、データの信頼性を見極め、整理・解釈する力は、卒業後どのような進路に進むとしても大きな強みになるでしょう。「なぜ人は犯罪を行うのか」「どうすれば犯罪を防げるのか」といった、唯一の正解が存在しない問いに向き合うには、様々な証拠やデータを批判的に検討し、異なる視点を踏まえながら、バランスの取れた結論を導く姿勢が求められます。東京女子大学社会コミュニケーション学科では、「知のかけはし」科目や少人数制ゼミを中心としたリベラルアーツ教育を通じて、分野を越えて考え、議論する力を養っていきます。多様な意見に開かれつつも、それらを鵜呑みにせず、「なぜだろう」と問いを立て、自ら考え、相手の立場に配慮しながら理解しようとする学生の入学を期待しています。

デイビッド・ブルースター先生からのメッセージ

私からのアドバイスは、とてもシンプルです。ぜひ自分の「コンフォートゾーン(安心できる場所)」から一歩踏み出して、知的に、身体的に、そして感情の面でも自分を成長させてくれる新しいことに挑戦してみてください。もし機会があれば、海外に出て異なる価値観や文化に触れてみるのも良い経験になります。何より、「若い時間」を大切にしてください。好奇心を持ち、たくさん探求し、楽しみ、時に失敗も経験しながら、友人や家族と共に心に残る思い出をたくさん作ってほしいと思います。

(取材日:2025年12月)

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