Interview
人の行動と人生を変える。犯罪心理学で社会に貢献する研究
筑波大学 人間系・心理学域 教授
原田 隆之 先生
科学的根拠に基づいた支援で、再犯を防ぐ
私の専門分野は、犯罪心理学、臨床心理学、精神保健学です。研究は、主に反社会的行動や逸脱行動の理解と、その再発防止を目的とした心理学的な支援に焦点を当てています。特に、犯罪者への再犯防止プログラムや、薬物やアルコール、強迫的な性的問題行動などへの依存症(アディクション)の患者さんへの治療プログラムの開発と効果検証を中心に取り組んでいます。
研究では、心理尺度を用いた観察研究に加えて、ランダム化比較試験という厳密な科学的手法による効果の検証を重視しており、「どのような支援が、どのような人に、どの程度有効なのか」をできる限り実証的に明らかにし、科学的根拠を構築することを目指しています。
近年は、依存症治療の場面で生まれた「動機づけ面接」と呼ばれる心理学的コミュニケーションの理論と技法を、医療現場だけでなく、学校や福祉、職場での対人支援などに適用を拡大するという点にも力を入れています。支援を受ける側が「やらされている感」を抱くのではなく、「自分自身のために主体的に受ける支援」をいかに実現できるかが重要で、それによって本人の社会的適応能力を高め、幸福を増進することを目指しています。
人間を真に理解したいという思いから
「人間というものを理解したい」という関心が、私の研究の出発点です。人間には善や愛情のような明るい面もありますが、悪や犯罪のような暗い面もあります。明るい面については小説やドラマでよく目にしますが、暗い部分はなかなか目にすることがありません。「人間を真に理解するためには、明るい面だけでなく暗い面も併せて知る必要があるのではないか」という思いがありました。
大学院修了後は、当時の国家公務員I種試験を受けて法務省に入省し、非行少年や犯罪者の矯正現場で仕事をしてきました。臨床的経験を積むなかで、普段の生活では会うことのできないさまざまな問題を抱えた人々の支援に携わり、支援のあり方次第で人の行動や人生の軌道が大きく変わり得ることを目の当たりにしました。こうした経験から、善意や経験則に基づく支援だけでは限界があり、エビデンス(科学的根拠)に基づいた介入が必須だと考えるようになりました。
この経験が、私の研究の柱である「実践に役立つエビデンスをつくること」を志す原動力になっています。
「研究」と「社会的実践」が直接結びつく面白さ
この分野の研究の魅力は、人間の行動変容という非常に複雑で不確実な現象に、科学的に向き合える点にあります。犯罪や逸脱行動は、単一の原因で説明できるものではなく、個人のパーソナリティや価値観、認知や感情、対人関係、社会構造などが重層的に絡み合っています。そのため、研究は常に仮説の修正と再検討の連続であり、簡単な答えはありません。だからこそ、小さな変化や効果を実証的に積み重ねていくことに大きなやりがいがあります。
研究成果が、支援の現場での関わり方を変え、結果として再犯の防止や当事者の生活の安定につながる可能性がある点は、この研究ならではの意義だと感じています。そして、「研究」と「社会的実践」が直接結びつく点こそがこの分野の面白さであり、同時に責任の重さでもあると認識しています。
原田先生からのメッセージ
高校生の皆さんに特に力を入れてほしいのは、「これに取り組んだ」と誇りを持って振り返ることのできる経験を一つでも持つことです。勉強、部活、アルバイト、趣味、何でも構いません。重要なのは、なぜそれに取り組み、どのような困難があり、そこから何を考えたのかを言語化することです。小さくてもよいので、自分を向上させるための目標を持ち、確実に前進を続けてほしいと思います。
また、できるだけ広い分野の本を読むこともお勧めします。若い時代に多くの良書に触れ、豊かな感性や教養の基礎を身に付けることは、必ずその後の人生を豊かにしてくれます。
受験勉強は人生の一つの通過点にすぎませんが、そこで身につけた考え方や姿勢は、その後も長く残ります。特に、受験期は不安や焦りが強まる時期ですが、思うように結果が出ない時期があっても、積み重ねてきた努力が無意味になることは決してありません。
心理学には「セルフ・コンパッション」という概念があります。コンパッションとは「慈悲、思いやり」のことです。小さいときから「友達には思いやりを持って接しましょう」と学んできたと思います。それと同じくらい、自分自身に対する思いやりを持つことも大切です。できないことにばかり目を向けるのではなく、毎日の努力の積み重ねを自分自身でねぎらい、慈しむことを心がけてください。
大学は、高校時代に培ってきた学習能力を基盤にして、さらに深く考え、成長するための場所です。幅広い関心と好奇心を持って、多様な学問分野での学びを目指してほしいと思います。そのプロセスを楽しめる学生と、ぜひ一緒に学んでいきたいと思っています。
筑波大学 人間系・心理学域
https://psychology.human.tsukuba.ac.jp/institute
筑波大学_ 原田 隆之先生
https://www.human.tsukuba.ac.jp/counseling/outline/teachers/no5/










