Interview
宇宙輸送を支える未来の工学
―ロケットを確実に安全に動かすために
室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究センター センター長・教授
内海 政春 先生
ヒトやモノを宇宙に届ける!宇宙輸送の革新を目指して
私は、次世代の「宇宙輸送」を、“確実に・安全に”実現するための研究を行っています。研究の柱は大きく2つです。
1つ目は「ロケットを動かすエンジン」、2つ目は「打ち上げから着陸・回収までを支える場所(宇宙港=スペースポート)」です。
ロケットというと華やかな印象がありますが、本当に大切なのは「確実に動くこと」と「安全に運用できること」です。そこで私は、エンジンと宇宙港を別々に考えるのではなく、つながった1つのシステムとして捉え、設計・試験・運用まで見通した研究を進めています。そうすることで、将来の高頻度宇宙輸送を実現するために、今から何を積み上げるかが見えてくるからです。
「エンジン+スペースポート」のトータル設計技術
エンジン研究の中心は「ターボポンプ」です。これは燃料や酸化剤を高い圧力で送り出すターボ機械で、エンジンの“心臓部”とも言えます。内部は、超高速回転、超高圧と低圧、超高温と極低温など、極限状態が同時に起きる世界です。だからこそ、わずかな振動や流れの乱れが大きなエンジントラブルにつながることがあります。こうした“見えにくい現象”を実験や解析で見える化し、「なぜ起きるのか」「どうすれば壊れにくくできるのか」を、設計の指針としてまとめながら改良につなげています。
一方、スペースポートは、ロケットを打ち上げるだけでなく、再使用型ロケットの着陸・回収、点検や整備まで含めた運用拠点です。たとえば海上では風や波など条件が大きく変わるため、「1つの正解」を探索するより、条件が変わっても成立する設計の範囲(条件を満たす組み合わせの集合)を導くことが重要になります。機体や設備、環境条件をシミュレーションし、運用まで見通して成功率と安全性を高める研究は、将来の高頻度な宇宙輸送を支える土台になると考えています。
失敗を次の一手に変える実証研究
このテーマにこだわる背景には私自身の実体験があります。1999年、H-IIロケット8号機の打ち上げが失敗しました。原因の一つは、エンジン内部(ターボポンプ)での不具合でした。当時、私はNASDA(現JAXA)で原因究明に深く関わり、「性能を上げるだけでは足りない」「なぜ壊れないと言えるのかを、理屈と証拠で示すことが大切だ」と痛感しました。 目に見えない小さな現象がロケットの運命を左右します。エンジン内部で起きている“現象の正体”をデータや理論、実験や解析で突き止め、「なぜ起きるのか」「どうすれば抑えられるのか」を説明できる形にする。見えないものを見えるようにし、それを次の一手(設計の改良や実験計画)につなげられることは、工学の醍醐味と感じています。
現場につながり、未来につながる挑戦の最前線
複雑な現象の中から「本当の原因」を見つけ出し、次に活かせる形に整理できた瞬間、この研究の面白さを強く感じます。ロケットのような大規模システムはトラブルの原因が1つとは限らず、複数の要因が重なって問題が起こることがほとんどです。そこで、データを丁寧に見て仮説を立て、試験や解析で確かめながら、少しずつ原因を絞り込んでいきます。これは高校の理科で行う“探究活動”を、実物の工学システムで実践している感覚です。現象を理解するだけで終わらせず、それを設計・製造・試験へ落とし込むことで、研究は「研究のための研究」ではなく、実際に使われる技術となります。その成果が、ロケットの発展や信頼性の向上という形で社会の価値につながる点に大きなやりがいを感じています。また、宇宙を扱う研究は未来志向です。今はまだ当たり前ではない技術を将来の当たり前にしていく。その挑戦の最前線に関われることも、この研究分野の大きな魅力です。現場につながり、未来につながる研究をぜひ体験してほしいと考えています。
内海先生からのメッセージ
工学の世界では、すぐに答えが出ない問題に向き合うのが当たり前です。そんなときに支えになるのが、高校で身につく「基礎を積み上げる力」と「粘り強く考え続ける力」です。特に数学や物理は、大学で学ぶ専門科目や研究の“共通言語”になります。難しい現象に立ち向かうときも、基礎がしっかりしていればどこに戻って考え直せばよいかがわかります。また、受験勉強で経験する「計画を立てる→実行する→振り返る→改善する」という流れは、研究や仕事の進め方そのものです。ひらめきよりも、考えて試し、積み上げる力が大きな武器になります。私は「なぜだろう?」と疑問を持ち、自分の頭で考えようとする学生が来てくれることを期待しています。わからないことをそのままにせず、調べ、試し、確かめる姿勢を大切にしてください。










