衣服、寝具、椅子・・・
使う人の視点で「心地よい」をデザインしよう
信州大学 繊維学部 先進繊維・感性工学科 教授
金井 博幸 先生
目に見えない「快適さ」の数値化に挑む
私たちの研究室では、ヒト(ユーザ)とモノ(製品)の関わりをもとに、より快適なモノを設計するための技術を研究しています。その代表的なものが「快適性評価法の開発」です。一般的に、モノを設計するときには、「ここまで性能を上げる」といった目標と、そのための設計図が必要です。そして目標を立てるためには、それを測るための基準や尺度(スケール)が欠かせません。しかし、「快適さ」については、世の中に統一された基準や尺度がありません。また、設計・作製したモノが「どのくらい快適か」を正しく測るための機械や方法も、まだ十分ではありません。そこで私の研究室では、教員と学生が一緒になって、色々な製品に応用できる「快適さの基準・尺度」をはじめ、それを測る「試験機」や「評価方法」を作り出す研究を行っています。
具体的には、暑い夏に衣服を重ね着した時の快適さを評価する研究や、服の中を通り抜ける「風の通り道」を見える化する研究などがあります。ほかにも、柔らかいセンサーを枕やシーツに組み込んで睡眠の質を評価したり、座るだけで呼吸を整えてリラックス状態に導くシートを開発したりと、多様な課題に取り組んでいます。
目指すのは、性能と「心地よい」という印象の両立
私が「快適性」の研究に興味を持ったきっかけは2つあります。1つ目は、学生時代に人間の心や体の反応を計測して評価する「感性工学」という学問に出会ったことです。2つ目は、教員になってから繊維を使ったモノづくりの方法論を学んだことです。この2つの軸足をもち、両分野の境界にある課題の1つとして「黒色織物の美しさを数値化する」という研究からスタートしました。
私たちの研究の大きな特徴は、「使う人(ユーザ)の視点からモノのあり方を考えること」にあります。一般的にモノを設計するときは、問題を解決して性能を高めたり、新しい機能を追加したりすることを目指します。しかし私たちは、ユーザがそのモノに対して抱く「心地よい」という印象も大切な価値の1つだと捉え、できるだけ多くの人が快適さを実感できるような設計を目指しています。とはいえ、ヒトがモノに対して「心地よい(快適だ)」と感じる現象は、周りの環境や状況と相互に影響し合うため複雑です。だからこそ、この難しい課題を科学的な視点から考えていくことに大きなやりがいを感じています。
身近な「なぜ?」の深掘りが、高度な社会を形づくる
皆さんも、身近なモノを使った時に「快適か」「不快か」に注意を向け、その理由を深掘りしてみてください。例えば「服の着心地が悪い」理由が「暑いから」だとしたら、生地に熱がこもっているのかもしれません。「なぜ熱がこもるのか」「どう解消できるのか」を、すでに学んだ知識を使って考えてみるのです。今まで「当たり前」だと思っていたことが理解できたときの納得感や感動は、皆さんの大きな自信につながります。
こうした個別の現象の理解が「点」だとすると、それをたくさん集めることで「線」や「面」になり、その積み重ねが私たちの高度な社会を形づくっています。だからこそ私は、研究室での教育において2つの視点を大切にしています。1つは、自分の興味から目標を立て、持続的に努力して成長を実感できること。目標に向かって挑戦し続けるためには、「計画と実行の能力」が重要になります。もう1つは、自分が社会の一員であることを理解し、より良い社会を目指せること。そのためには、他者と関わり合うことの中に意義を見出し、自分の経験を通じて「俯瞰的な視野」を育てることが重要です。身近な「当たり前」を疑い、自ら深く考えてみようとする皆さんを待っています。
金井先生からのメッセージ
大学受験で身に付ける基礎知識は、大学生や社会人としての活動を助けるだけでなく、これからの人生において、生活に豊かな文化的視点をもたせるための土台になります。「合格を勝ち取るための手段」としての学習にとどまらず、「考えるための道具を手に入れているんだ」という意識で学習に取り組んでみてください。
また、高校生のうちにぜひ「自分を知る時間」をつくってほしいと思います。自分は何が好きで、どんなことが得意か(あるいは苦にならないか)、自分の内面に目を向けてみてください。そして、具体的な内容は勉強でも趣味でも何でも構わないので、「できなかったことができるようになる過程」を経験してほしいと思います。いきなり結果を求めるのではなく、ゴールまでの道のりを小さなステップに分け、焦らず一つずつクリアしていく。その達成感と経験は、大学での学びや、その先の人生において必ず皆さんの大きな力になります。
信州大学 繊維学部 先進繊維・感性工学科
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/academics/creative/
金井 博幸先生の研究室
https://www.ftst.jp/te2/K-Lab/
信州大学 金井 博幸先生
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/guidance/teacher/prof/26618.html









