理不尽に屈せず社会を変える
――障害者の「自立生活」を目指して
日本女子大学 人間社会学部 社会福祉学科 教授
田中 恵美子 先生
北欧で気づいた、日本の「生きづらさ」
障害がある人が、障害のない人と同じように地域で生きるにはどうすれば良いのか――それが私の研究テーマです。具体的には、親元や施設を離れ、多様な人々とつながりながら暮らす「自立生活」や、障害がある人の結婚・子育てなどを扱っています。
この分野に興味を持ったのは、社会人として旅行会社に勤めていた頃の経験がきっかけです。あるとき、障害がある方々の団体旅行に添乗員として同行し、福祉の進んでいる北欧の施設を見学しました。現地で一緒に観光したりお酒を飲んだりと楽しい時間を過ごしたのですが、帰国が近づくと、皆さんが真剣な顔で「帰りたくない」と口にしたのです。それは、ただ楽しい旅の終わりを惜しんで発せられる言葉とは異なり、とても切実なものでした。
聞くと、日本では冷たい視線を浴びたり入店を断られたりと気軽に出かけられない一方、旅先では誰もが自然にサポートしフレンドリーに接してくれる心地よさがあったとのこと。私は、日本社会にある生きづらさに気づきました。
「障害の社会モデル」に基づく社会づくり
その生きづらさは、当時の私が感じていた女性としての生きづらさとも重なりました。一昔前、女性はクリスマスケーキにたとえられ、25歳を過ぎて独身でいると「売れ残り」といわれる時代がありました。年齢や性別、あるいは障害といった、自分では変えられない属性によって生き方が決められ、評価されてしまう理不尽さに強く共感したのです。
同時に、その理不尽さをそのままにせず自ら社会に訴えかけていく、障害のある方々のエネルギーに魅了されました。そうしなければ生きられなかったのかもしれませんが、社会を変えていこうとする障害者運動は、時に激しいものでもありながら、今日まで徐々に社会を変えてきました。
私が友人の車椅子を押して外出していた1990年代後半、駅にエレベーターはほとんどありませんでしたが、今はどの駅にも設置されています。多目的トイレもそうです。理不尽に屈せず社会を変えていく。その考え方は現在、障害者権利条約という国際条約の中で「障害の社会モデル」に結実し、世界的な障害観として広められています。この「障害の社会モデル」に基づく社会づくりはまだ発展途上であり、自らコミットして社会の変化に貢献できるのが、研究活動の大きなやりがいになっています。
社会の「おかしい」を変える一端を担う人に
今はSNSなどを通じて声も上げやすく、様々な人とつながれる時代です。おかしいと思ったことを変えていく一端を、皆さんにも担ってほしいと思います。私自身も若い頃は「嫌だな、日本って。生きにくいな、この社会。何でここにいるんだろう。」などと感じていました。社会のおかしいと思ったことを鵜呑みにせず、貪欲に関わる姿勢を期待しています。ぜひ好奇心旺盛であってください。一方で、生きることに必死でエネルギーを使い果たし、疲れ切ってしまっている若者が多いことも心配しています。もしあなたがそうなら、大学は自分の好きなことを自由にやれる場所と時間がありますから、思い切りやりたいことをして、まずは自分自身のエネルギーを「充電」しに来てください。
受験は“学びのプロセスを体験する機会”
学ぶ力と基礎体力を培い、社会を変える力へ
私が障害の問題に出会ったのは社会人になってからですので、受験勉強の知識が今の研究に直接結びついているわけではありません。しかし、最終ゴールに向けて計画的に物事を進め、自律的に取り組むという「学習の手続き」そのものが、その後の人生において非常に重要な“訓練”になりました。
また、どんなことをするにも体が資本です。若いうちに少し負荷をかけて体力をつけておくと、年を取ってからもその「貯金」で多少の無理を乗り越えられるかな、と思います。受験勉強においても、最後の底力を出せるかどうかは体力勝負なところもあります。適度に体も動かし、よく食べ、よく寝る。睡眠を削っていたら、受験は乗り切れません。頭と体は連動しています。ゆっくり休むと脳もよく動いてくれると思います。そうして培った学ぶ力や基礎体力は、今後の大学生活でもきっと生きてくるはずです。
田中先生からのメッセージ
あえて、受験生に言ってはいけないナンバーワンの言葉を使います。「失敗」は若いうちにしておいた方が、後が楽です。順調すぎるとその後の失敗が怖くなるので、失敗して当たり前とも言えるこの時期にこそ、恐れずに挑戦してください。「失敗しそうだから」とやめてしまうのはもったいないです。奇跡とは、いつ誰に起こるかわからないから奇跡なのです。
とはいえ、与えられた環境のなかで生きるしかなく「失敗が許されない」という人もいるでしょう。それでも諦めないでください。少し先になれば、きっと自分の人生を自分でコントロールできるときが来ますし、その力はご自身の手でつかみ取っていけるはずです。ぜひ、今の挑戦を楽しんでください。「挑戦するマインドを育てるチャンス」だと捉えて少し構え方を変えるだけで、おのずと心に余裕が生まれてくると思います。









