京都大学 情報学研究科 川越 大輔 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

X線CTの仕組みにも「微分」が使われている
「机上の空論」から「世の中の役に立つ数学」へ

京都大学 情報学研究科 情報学専攻応用解析学講座 助教
川越 大輔 先生


「順問題」と「逆問題」って何!?

私の専門は「微分方程式の逆問題解析」です。「逆問題」という用語に馴染みが無いかもしれませんが、実は中学生の頃に出会っています。こんな問題を見たことはないでしょうか?「連立方程式 ax + by = 2, bx – ay = 4 が解 (x, y)=(1, -1)を持つとき、係数(a, b) を求めよ。」通常であれば、係数 (a, b) が与えられていて、それに合わせて解 (x, y) を求めます。これを順問題と言います。これに対して、解が分かっているときに係数を決める問題を逆問題と言います。ここで出てきた連立方程式が微分方程式になったものが私の研究対象になります。
これだけだとクイズの様な感じですが、このような逆問題はX線CTなどの非破壊検査に現れます。X線CTを例に説明すると、X線は微分方程式で記述されるある法則に従って体の中を伝播します。この法則に現れる係数は体組成に依存し、この係数に応じてX線は減衰します。減衰したX線はやがて体を透過し、それが観測されます。この入射したX線と透過したX線の組が、順問題の解になります。X線CTの場合は1組の解だけでは不十分で、色々な方向からX線を照射し、透過したそれらの強度を観測します。観測した情報から、微分方程式の係数すなわち体組成を決定するのです。

脳機能解明やマンモグラフィに数学を応用する

微分方程式の逆問題で重要なのは、十分たくさんの観測を行えば係数は1つに決まるか、観測誤差が入っても係数の推定値は大きくずれないか、係数を数値としてどのように決定するか、の3つです。私の興味の対象は、3つ目の決定法にあります。
私が取り組んでいる逆問題は、X線の代わりに近赤外光を用いるもので、「ひかりトモグラフィ」と呼んでいます。近赤外光は酸素化ヘモグロビンに吸収されやすく、それ以外の生体組織には吸収されにくいという特徴があります。この特性を用いれば、生体内の酸素濃度分布が推定でき、脳機能解明やマンモグラフィへの応用などが期待されています。
一方で、X線は生体内での直進性が強いのに対して、近赤外光は生体組織によって散乱されてしまうので、X線CTと同様の手法では体の中の情報を決定することはできません。そのため、現時点ではひかりトモグラフィは実現しておりません。近赤外光の散乱は、積分を用いて記述されます。
このことを加味して、私の取り組んでいる問題は正確には「微分積分方程式の係数決定逆問題」となります。これまでは積分項による散乱の影響で係数決定がうまくいきませんでしたが、順問題のほうの解の不連続性は散乱の影響を受けにくいことが理論的に分かりました。なので、この不連続性に着目すれば、X線CTと同様に体組成が決定できるのではないかと考えています。現在は、このアイデアが実際のひかりトモグラフィに応用できるか、数値計算を利用して検証しています。

「数学の世界で閉じていない数学の問題」

現在の研究に興味を持ち始めたきっかけは学部の微分方程式の講義でした。講義を受けているうちに、どうせなら「役に立つ数学」を勉強しようと思うようになりました。ひかりトモグラフィの研究を始めたのは、大学院に進学してからです。当時の研究室の方針は、とにかく数値計算をして体組成を決定しようというものでした。実を言うと私は数値計算が苦手で、この方針には参画できませんでした。それでも理論面で何かできないかと整理していたら、大きな壁にぶち当たりました。「どうしてもその大きな問題を解決したい」と思ったのが、研究者としてのスタート地点です。この大きな問題はすぐには解決せず、博士課程でやっと大方解決しました。
私の取り組んでいる逆問題解析は、理論的な解法は既によく知られています。しかし、それを現実の実験でなぞらえることはほぼ不可能です。そこで、ひかりトモグラフィを実現するためには、実際に実験できるような解法が求められます。この「数学の世界で閉じていない数学の問題」というのが、私の研究の醍醐味です。私がこれまで発見してきた解法も、観測機器の精度向上によって将来的に実現されれば、これほど嬉しいことはないと思っています。

川越先生からのメッセージ

今年度受験される方は、「いかにして合格するか」で頭がいっぱいだと思います。まずは受験勉強に没頭してください。何事にも真剣に向き合う精神は受験が終わっても皆さんの強みになります。また、大学で勉強することは大学入試よりも難しいです。難しいことを理解するためには、やはり没頭する経験が必要です。とにかく問題を考え続ける姿勢を身につけてください。来年度以降受験される方は、「合格したい」と思える何かを見つけてください。本当のゴールは合格ではなくて、合格した後に勉強することです。自分が何に興味があるのか検討してみてください。オープンキャンパスへの参加でも大学の図書館を訪ねてみるのでも良いです。「ここでこれを勉強したい」と思う気持ちが受験期の支えになります。
あとは適度にリフレッシュしてください。疲れている時に無理に頑張っても効率は良くないです。思いっきり没頭して、思いっきり離れる。緊張と緩和。これが一番大事です。

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