Interview
変わる社会、変わる犯罪
元・警察官僚が挑む、新しい法学のかたち
中央大学 法学部 教授
四方 光 先生
捜査や処罰だけじゃない
予防と回復を重視した“広い犯罪対策”へ
私は、犯罪対策を広い意味で考える「社会安全政策論」を研究しています。これには、3つの局面があります。第1は犯罪を未然に防ぐことによる国民の安全確保、第2は事件発生後の犯罪者の発見、処罰、再犯防止、第3は被害者の回復です。従来、法学部で扱う「刑事政策」と「犯罪学」は、「捜査と処罰」を主な研究対象としてきましたが、私の研究する「社会安全政策論」は「予防」と「回復」の局面の重要性を明確に意識した学問ですから、私が担当する「刑事政策」や「犯罪学」の授業では、捜査や刑罰だけでなく行政的な手法や民間の取り組みも対象としており、他大学のそれとは大きく異なると思います。また、少年非行、児童虐待、特殊詐欺、企業犯罪、サイバー犯罪など、現代の犯罪の姿を直視し、現実的な犯罪対策も検討しています。特にサイバー犯罪は、どんどん変化しているため法律も柔軟に変化していかなければならず、どのように対応していくかを中心的な研究テーマとしています。また、学生にはこうした現実の課題に実践的に向き合ってもらうため、私のゼミでは2つの課題に取り組んでもらっています。1つは、各自が関心のある犯罪について現状と対策を論じること。もう1つは、地域の警察署や住民と協力して防犯ボランティアとして活躍すること。これらを通じて、社会人となった時に必要な論理的思考力や公的な文章の作成能力、他者と協力しながら計画的に目的を達成する能力などを身につけてもらっています。
生物学、心理学、社会学
異なる学派をつなぎ、現実の犯罪に向き合う
私には、法学部の教授としては少し変わった経歴があります。1つは、30年ほど警察官僚として働いていたことです。理論だけでなく現実の犯罪やその対策に強い関心があるのは、その経験によるものです。警察では、犯人の検挙だけでなく、犯罪の未然予防による国民の安全確保や被害者の回復にも取り組んでいたため、「社会安全政策論」のような考え方を自然と持つようになりました。もう1つは、大学時代は経済学部に所属しており、法律は警察庁に入ってから仕事を通じて学んだことです。経済学と法律学の大きな違いに驚いたのを覚えています。さらに、犯罪学の中にも、「生物学的」「心理学的」「社会学的」という3つの学派があり、それぞれ異なる視点や理論を持っていることを知りました。例えば、犯罪の原因を心の問題と見るか、社会構造の問題と見るか、といった違いです。それぞれの学問がもつ「物事の見方や考え方の枠組み」は「パラダイム」と呼ばれますが、なぜ異なるパラダイムが生じるのか、どうすれば異なるパラダイムが協力して現実の問題に対処できるのか――そのような考えをもったことが、学問的な関心の始まりだったように思います。
型を守り、破り、超えていく
“守破離”の精神に宿る学問の創造性
昔からある犯罪だけでなく、日々、新しいタイプの犯罪が生まれています。深刻な被害が起きているにも関わらず、残念なことに対処方法を研究しようとする人は少ないのが現状です。だからこそ、「自分が先頭に立って取り組まなければ」という使命感をもって研究に向き合っています。ただ、社会も法律も、そして人間も、必ずしも柔軟に変化できるわけではありません。変わろうとする力と変わりたくないという力が拮抗しながら、徐々に変化していくのです。私はこのような社会や人間の変化を、「パラダイム」や「複雑系システム論」という概念を用いて解明する基礎研究も行っています。
剣道に「守破離(しゅはり)」という言葉がありますが、ご存知でしょうか。最初は先生の教えを守って伝統的な技を身に付け(守)、それが完璧にできるようになったら殻を破って新しいことに挑戦します(破)。さらに挑戦を続けて自ら新しい技の体系を構築して、既存の技から離脱します(離)。学問でも「守破離」が大切です。まずは先人が長年かけて構築してきた知識や理論体系を習得し、新たな事態に対処したり、他の学問の知見を取り入れたりするために、既存の学問の殻を少し破って理論体系を拡大し、自分なりの新たな体系を提案する――そこに学問の創造性や面白さがあると思います。
四方先生からのメッセージ
大学では、社会で必要とされる情報収集力、幅広い知識、そして系統的・論理的な思考力を習得します。そうした大学での学びの土台となるのが受験勉強です。私自身、受験勉強で鍛えた国語力や英語力が、学術文献の読解や論文作成、議論などで大いに役立ちました。学部によっては数学や社会の知識も不可欠です。そして最も大切なのは「自分を律し、計画的に物事を進める力」です。目標の大学に合格するには、そこから逆算して半年後、3か月後、1週間後、そして今日、何をどれだけ進めるべきかを考え、自分をコントロールする力が必要になります。これは、大学でも社会でも、意義ある人生を歩むために最も重要な能力の1つではないでしょうか。
柔道に「心技体」という言葉があります。技術だけでなく心も体も重要で、総合的に成長していく必要があるという意味です。受験勉強はある意味「技」の習得ですが、それを耐え抜くには「体」の健康と「心」の健康も必要です。体と心の両方に気を配りながら、どうかこの大変な時期を乗り越えてください。私の話を読んで中央大学法学部に関心を持ってくれた皆さん、茗荷谷キャンパスでお待ちしています。
中央大学 法学部
https://www.chuo-u.ac.jp/academics/faculties/law/
+C(プラスシー)四方 光先生
https://plus-c.chuo-u.ac.jp/researcher/koshikata/










