愛媛大学 法文学部 グローバル・スタディーズ履修コース 梶原 克彦先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

「私は○○人」という民族意識は
どのようにして生まれるのか

愛媛大学 法文学部 グローバル・スタディーズ履修コース 教授
梶原 克彦 先生


国家と民族の在り方、その歴史的変遷に迫る

私の専門は政治史です。政治史とは、政治学の一分野で、歴史の中で実際に起こった政治現象を研究対象としています。歴史学と政治学の中間にあると考えてもらえば良いかと思います。私の研究対象は、ドイツ・オーストリアのナショナリズム(国家と民族に関する問題)で、主に20世紀初頭から第二次世界大戦に至る時代を取り扱っています。
オーストリアはドイツ語を公用語としており、中世から長らくドイツ史を牽引した国家ですが、現在、ドイツとは別個の国家として存在しています。日本をはじめ、現代世界の多くの国々は、国家の境界線と民族(言語)の境界線とが一致しており、そうでない場合は、例えば国境外の同胞がいる地域を併合したり、国境内の少数民族を排斥したり、と様々なやり方で国家と民族の境界線を一致させようとする動きを見せることがあります。この一致を求める考え方がナショナリズムというイデオロギー(政治上の教義)であり、19世紀末からドイツとオーストリアの関係もこの教義に大いに影響を受けました。オーストリア人の中には、ドイツにいる人々と同じ言語を用い、歴史を共有しながらも、国家としては別個に暮らす自分達は何者なのか、というアイデンティティの問題を抱えながら、ドイツと一体になることを求めたり、逆にドイツ人とは別の民族だと主張するようになったり、と様々な考え方や運動を展開しました。私はこうした国家と民族の在り方、その歴史的変遷を中心に研究しています。
またこの関連で、現代における移民に関する問題や、我々という国民意識のコインの裏表の現象として、捕虜・民間人抑留者、難民、政治的不審者、といった「国民ならざる者」の収容や処遇をめぐる問題も検討しています。

子ども時代に触れた歴史的現象が現在の研究関心を形成

私は小学生の頃から歴史に関するものが好きでしたが、高校生の頃、昭和から平成へと元号が変わったことで国家や君主制の歴史的な継続性に興味を抱きました。また同じ頃、かわぐちかいじさんの『沈黙の艦隊』という漫画を読み、原子力潜水艦が独立国家となるストーリーに、国家というものの、そもそもの存在や構成要素について漠然と関心を持ちました。その後、学生時代に冷戦が終結し、民族問題や民族紛争が登場したことで、授業などでそれらに触れる機会を持ったのも現在の研究関心につながっていると思います。また、ゼミの先生がロシア政治の専門家で、大戦間期のバルト三国の問題にも取り組んでいる方だったので、国際政治における小国の存在にも惹かれるようになりました。これらのきっかけがあり、第二外国語としてドイツ語を学んでいたこともあずかって、ドイツ・オーストリアの政治史、特にオーストリアの国家と民族をめぐる問題に取り組むようになりました。

歴史が映し出す民族意識、現代世界が直面する課題への示唆

民族意識という捉え難いもの、自分自身の中にもあるその意識を、歴史上の事象に基づいて客観的に捉え直そうとする点に、この研究の面白さがあると思います。自分自身について言えば、私は自分の事を日本人だと思っているのですが、どうしてそのように思うのか。また、常日頃は日本人同士でも赤の他人の成功や失敗に関心のない人々が、スポーツでは日本のナショナルチームの勝ち負けに我が事のように一喜一憂する、これはなぜなのか。民族をめぐる問題は、こういった日常の風景から始まって、移民排斥問題や、現在のロシア・ウクライナ戦争、中東情勢などにも関わっています。こうした民族にまつわる問題を自然科学のように実験によって明かしていく事が難しいとすれば、歴史の中に現われた事象や営みをテストケースとして検証していくことが一つの方法だと考えています。ドイツは19世紀後半の統一後も「不完全な民族国家」と呼ばれ、国境外のドイツ人問題やユダヤ人やポーランド人などの非ドイツ系住民排斥問題を抱え、またオーストリアは国民意識形成、つまりドイツ人意識を持つ住民に「ドイツ人とは違う私たち」という意識を植え付けるという課題に取り組みました。これらは歴史的事例として興味深いのはもちろんのこと、現在もなお世界の多くの国や地域が直面している問題であり、現代への示唆にも富んでいます。
ところで、歴史学は対象とする時代と同じ時代に関心を持って臨む傾向が強いと思いますが、政治史の場合は実際の出来事を追っていくため、過去から現在へと長いスパンで歴史を眺める傾向が強いと感じています。歴史学が横の軸で対象を捉えるとしたら、政治史は縦の軸で捉えると言えるでしょうか。私はこうした歴史の見方が政治学の一分野としての政治史の特徴だと考えており、この点も面白いと思っています。

梶原先生からのメッセージ

政治学や政治史は多くの大学では法学部で提供されています。法学部というと法律家や公務員になることをイメージするかもしれませんが、政治学を勉強するために行くのもアリかと思います。政治学を勉強するとなると、今度は政治家になることをイメージするかもしれません(もちろんそれもアリだと思います)が、人間社会を様々な面から理解する機会になればと思います。私は歴史を題材に史料を検討するアプローチを採っていますが、政治学にはその他にも計量分析や、アンケート、インタビューといった質を重視した分析手法もあり、また分析対象も議会や選挙はもちろん、文学や思想という場合もあります。こういった多様なアプローチと対象を持つ学問を通じて、いろんな見方に触れ、いろんな社会現象をみて、合理的な分析力と自分なりの正解をつかみ取る判断力を鍛える、これも政治学を学ぶ理由の一端になるのではと思っています。

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