Interview
恐竜が生きたのはどんな世界?
過去2億年間の地層から読み解く地球の歴史
福井県立大学 恐竜学部 教授
西 弘嗣 先生
時間の目盛りをつくり
環境変動と生物進化の関係を探る
私は主に、地層や地球環境に関する研究を行っています。地層の研究では、「浮遊性有孔虫(ふゆうせいゆうこうちゅう)」とよばれる、とても小さな化石=微化石を用いて、過去2億年間の地層や海底の堆積物の年代を明らかにしています。陸上の地層では日本やフランス、海底の堆積物では太平洋・大西洋・インド洋など、ほぼ世界中の海から採取された試料を使っています。さらに、炭素同位体比の変動や、「ジルコン」という鉱物を使ったウラン‐鉛年代測定などの手法も組み合わせることで、地質年代をより正確に特定することが可能になります。このようにして地層の「時間の目盛り」ができあがると、生物の進化や環境の変化を、時間の流れに沿って理解できるようになります。
地球の気候は、主に「温室」と「冷室」という2つの時期に分けられ、それぞれの環境は大きく異なっています。中生代から新生代の初期までは、あたたかい気候(温室)、それ以降の新生代は寒い気候(冷室)の時期となります。それぞれの時期における陸上や海洋の堆積物を調べることで、気温や水温、生物の生産や絶滅などが、どのように変化したのかも明らかにしようとしています。特に現在は、恐竜の生きていた白亜紀の時代に焦点をあてて研究を進めています。
遠い時代の「想像できない世界」を考える
大学生の頃、「放散虫革命」とよばれる、日本列島の形成史を書き換えた出来事がありました。そのときに活躍したのが、「放散虫」という微化石です。このとき、地質研究における微化石の使い地層の年代を決める方法の有効性を強く認識しました。そこで、微化石の研究を行うことにしました。「放散虫」はシリカ(ガラスの成分)でできた殻をもつ生物ですが、私「浮遊性有孔虫」は石灰質の殻を生物を使っています。世界の海洋研究では浮遊性有孔虫の方が過去の環境を探る研究に広く使われていますが、日本では白亜紀や古第三紀といった時代の浮遊性有孔虫の研究が、あまり進んでいませんでした。そこで、この分野を専門にしようと決めました。第四紀(~258万年前)のような比較的新しい時代のことは、ある程度、想像することができます。しかし、白亜紀のような1億年近い大昔の時代には全く異なる世界が広がっていたと考えられます。当然、恐竜のよう に絶滅した生物もいます。白亜紀や古第三紀の研究の最大の魅力は「現在とは異なる世界」を覗くことができるところだと思っています。
災害大国・日本では、地学の知識が重要に
受験勉強の内容は、大学の講義を理解する上で重要です。その基礎の上に大学の研究や学習が成り立っていることは間違いありません。ただし、地学のような学問分野は、必ずしも皆さんが学んできているとは限りません。しかし、地球温暖化や自然災害が激化している現代において、地学の知識はますます重要になっています。特に地震や台風の多い日本に住む私たちにとっては、他の国以上に知っておかねばならない知識かもしれません。本来、物理・化学・生物・地学の4分野は均等に学ぶべきですし、経済や地理・歴史といった分野も、社会に出てからこそ役に立つものです。しかし、受験のために学習分野の効率化が進められているのが現実です。こうした状況を考えると、今の学びだけでは、これからの時代を生きる力としては十分とは言えません。あくまで、これから大学でさらに学んでいくための「準備」として取り組んでほしいと思います。
西先生からのメッセージ
大学時代は、自分の好きな勉強や経験ができる貴重な時間になると思います。皆さんの中には、まだ将来にやりたいことが決まっていない方もいるかもしれませんが、それを見つけるための時間は大学時代に十分あります。あせらずに、是非好きなことややりたいことを見つけてください。また、社会人になると、「世の中の情報は操作されているのではないか」と感じることが多くあります。だからこそ、物事を的確に判断できる能力を身につけておくことが大切です。そのためには、たとえ専門と関係がないと思うことでも、将来役に立つことがたくさんありますから、大学時代のうちに、いろいろなことを学んでください。さらに、大学時代は自分の好きなことに打ち込む時間もたくさんあります。良い思い出が残る学生生活を送っていただきたいと思います。










