サブカルチャーを考察することは
我々が生きる社会について考えること

東京学芸大学 人文社会学系 日本語・日本文学研究講座 国語科教育学分野 教授
千田 洋幸 先生


文学作品からサブカルまで
文化的な可能性を拡張するために

私はもともと日本近代文学の研究から出発し、島崎藤村、有島武郎といった古典的な作家の作品について論文を書いていました。その後、国語教育の研究(国語科の教材の扱い、指導法などの研究)にコミットするようになり、さらにここ20年ほどはサブカルチャーの研究を行っています。とにかく「面白い作品」「優れた作品」が好きなので、近現代文学、教科書の教材、サブカルチャーといったジャンルの区別に関わりなく、これは!と思った作品を取り上げ、その文化的可能性を拡張するための解釈・分析を行う試みを続けています。図にすると、以下のように3つの研究ジャンルが連結している感じでしょうか。自己紹介する際には「近現代文学、サブカルチャー、国語教育の研究者です」と言っていますが、自分の中ではひとつながりのものです。ただ最近は時代の流れなのか、サブカルチャーに関連する仕事を引き受ける機会が多くなっています。

研究の動機と転機は
恩師や教え子たちとの出会い

私は中学・高校時代から国語が得意科目だったので、その延長線上で東京学芸大学の国語科に進学しました。そこで近代文学専攻の先生の素晴らしい講義と出会い、この領域の研究を選ぶ大きな動機となりました。以後、大学院でも先生の元で勉強を重ね、研究者への道に進んでいくことになり、母校で国語教育の教員として籍を置いています。
もともと、対象とする作家・作品についてさまざまな理論を導入しながら読み解いていく、オーソドックスなスタイルの文学研究者だった私が、サブカルチャーの研究を始めたのは40代前半の頃。たまたま勤務校に、アニメ、マンガ、ライトノベル、ヒップホップといったジャンルに滅法詳しい大学院生達が何人も在学していて、これだけのメンバーが集まっているんだから研究会を立ち上げよう、という話が持ち上がったのです(その研究会は現在も活動中で、同人誌も刊行し続けています)。歴史は浅いものの実に面白い研究ジャンルで、ハマり込みました。この頃から自分の研究スタイルも変わっていったように思います。

作品そのものだけでなく
社会・文化の最前線の問題に触れる面白さ

もともとは文学や国語教育という、ある意味で限定された範囲内の、歴史的にも安定した研究方法を持つジャンルで仕事をしていたわけですが、サブカルチャーに属するジャンルは受容・消費の規模が段違いで、それらを考察する作業は我々が生きている「この社会」について考えることに直結します。私はどちらかというとアニメを中心に論文を書いていますが(現在は『鬼滅の刃』について書いています)、作品(コンテンツ)として面白いのはもちろんのこと、同時に私たちの社会・文化の最前線の問題にも触れることができるのが、大きな研究の快楽となっています。また、サブカルチャーを研究対象にすると、知識も経験も豊富な若い学生達から大いに刺激を受けられること、関心を共有できることが楽しみでもあります。最近は近現代文学や国語教育について考える際も、サブカルチャーの視点を取り入れることが増えてきました。

千田先生からのメッセージ

将来就きたい職業がある、興味ある研究分野がある、学歴を得たい、など大学に進学する動機は人それぞれだと思います。ただお伝えしたいのは、自分の将来像を広い視野で考えてほしい、自分を安く見積もらないでほしい、ということです。私は受験生だった頃、自分が将来研究者になるとは全く考えていませんでした。ですが、大学の先生や先輩・友人、先人が積み重ねた研究成果など、偶然の出会いを通じて、現在この仕事に就いています。今の学生達を見ていると、社会の厳しさという現状もあるからでしょうが、無駄なことをしたくない、危険を冒したくないという意識(コスパ重視、リスク管理)が少々強すぎるように思います。大学4年間は、人生の「分岐」が最も豊かにはらまれている時期です。自分の可能性を感じ、かつ楽しんでいただきたいと願っています。
一方、人は大学生になったからといっていきなり生まれ変わるわけではありません。私は対象のジャンルが何であれ作品を「読む」ことが仕事ですが、この「読む力」のかなりの部分は受験の時期に養われたものです。ひたすら国語の問題に取り組んでいたあの時期がなかったら、現在の自分はないといっても過言ではありません。そういう意味では、受験生はすでに「学問」の一端に触れていると言えるのです。だから受験勉強は楽しみながら頑張ってほしい…といってもなかなかそうはいかないでしょうが、皆さんが「知性のベース」を作っていく大事な時期であることは確かです。頑張って取り組んでいただければと思います。

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