Interview
「ダイエット中なのにケーキが食べたい」は、なぜ起こる?――脳と心の不思議にせまる心理学
法政大学 文学部 心理学科 准教授
木村 健太 先生
感情が生じる仕組みを科学する
私の研究は、心理学の中でも脳と“こころ”の関係を明らかにしようとする「生理心理学」や「認知神経科学」と呼ばれる領域です。その中でも、私は、人間の“感情”に興味をもって研究しています。私たちは、日常生活の中で、褒められて喜んだり、怒られて嫌な気持ちになったり、SNSを見て笑ったり、さまざまな感情を経験します。そのようなとき、心臓がドキドキしたり、手に汗をかいたりすることは、誰しも経験したことがあるでしょう。私の研究では、感情がどのような脳と身体の生理的反応から生じるのか、また、それが私たちの行動にどのように影響するのかを明らかにしようとしています。実験室や日常生活の中で、脳波や心拍数、ストレスホルモンを測定し、感情の仕組みを探ることが研究の目的です。
紛争や貧困とも深く関わる感情
私は高校生の頃から、「人間とその他の動物の違いは何なのか」という疑問をもっていました。そうした疑問をもつ中で、人間には感情だけではなく理性も存在し、この「理性と感情の葛藤」がとても人間らしいと感じました。例えば、「ダイエットしたいのに、目の前のケーキがどうしても食べたい」みたいな状況です。このような理性と感情の葛藤を考えたとき、ではそもそも感情とは何なのだろうか? と考え始めたのが今の研究に興味をもったきっかけです。その後、感情について研究を始めてみると、思っていた以上に未解明のものであり、私たちの日常生活だけでなく、紛争や貧困といった社会的問題とも深く関連していることが分かりました。こうした広がりが、今の研究テーマの設定につながっています。
誰もが感じるものなのに、まだ謎だらけ
感情を研究する魅力は、大きく2つあります。1つは、感情が私たちの日常生活や社会生活と切り離せないことです。恐らく、これまでに感情をもったことのない人はいないでしょう。また、怒りや憎しみが集団間の争いを生んだり、反対に愛着や親愛が集団内の協調を生んだりと、感情は個人や集団の振る舞いにも影響を及ぼします。さらに、私たちは音楽を美しく心地よいと感じたり、好奇心から新しい音楽を創造したいと感じたり、感情は芸術や美術、エンターテインメントとも切っても切れない関係にあります。感情は、私たちの生活に(良くも悪くも)彩りを与えるものであり、誰にとっても身近なテーマであることが面白さかなと考えています。もう1つの魅力は、感情には未解明の部分が多いことです。感情が脳や身体のどのような生理活動から生じるのかは、いまだに不明な点が多く、まさに現在、世界的に感情の理解に向けた研究が活発に進められています。未解明な部分が多いことから、自分のアイデアや工夫次第で、この研究領域に新たな展開をもたらせる可能性があることにやりがいを感じています。例えば、一般的に感情は脳で生じた後に、心臓をドキドキさせたりすると考えられていますが、最近の研究では心臓がドキドキすること自体が脳の状態を変えて感情に影響する可能性も示されています。これまでの常識がどんどん更新されていく、その変化の一端に関われることが、感情研究の醍醐味だと思います。
木村先生からのメッセージ
受験勉強で学んだ内容が、大学や社会で直接役立つと感じることは少ないかもしれません。しかし、それらは大学で学んだり社会で活躍したりするための礎となり、今後、専門知識や経験を吸収していく上でとても大切な力になります。また、受験勉強では広い分野を学ばざるを得ません。興味のあること以外でも学ぶ姿勢をもつことが、社会で活躍する上では重要だと考えます。大学は、あなたの知的好奇心に応えてくれる場所です。受験勉強で培った力は、大学で新たな興味を深めたり広げたりするための土台となります。今後の自分の可能性を広げるつもりで受験勉強を頑張ってください。また、もし人間の心や感情に興味をもったら、ぜひ心理学分野も進学先の候補に入れてみてください。










