調査のフィールドは「大自然」
複数の研究を積み重ね
地球表面の複雑な諸現象を解き明かす

法政大学 文学部 地理学科 教授
前杢 英明 先生


地殻変動・南極調査・古代文明……
地球表面の変化と諸要因を研究

南海トラフや日本海東縁など、非常に地殻変動が活発な地域で発生する地震などにより、それらの地域の沿岸部がどのように隆起・沈降しているのかというような、自然地理学の中でも地球表面の形態(地形)およびその変化に関わる諸要因に関する研究をメインに行ってきました。最近では地震に関連する現象として、海岸部の堆積物から過去数千年間の津波襲来歴の研究も行っています。またもう一つの研究分野として、環境変動が地形に及ぼす影響の研究も行っています。具体的には、南極観測隊員として2度南極を訪れ、そこで氷床変動と海岸地形変化の関係に関する研究を行ってきました。近年では北極圏(グリーンランド)でも同様な研究を行えないか、パイロット調査(予備的な小規模調査)も行っています。さらに応用的な研究として、環境変動が古代文明に与えた影響に関して、インダス文明の盛衰を河川環境の関係から明らかにする研究なども行ってきました。

自然災害を身近に感じていた幼少期と
圧倒された山の美しさが現在のルーツ

私は高校生の頃、修学旅行で行った信州の北アルプスを見て山の美しさに圧倒され、山に興味を持ち始めました。それから週末に近所の低い山に登るようになり、同時に新田次郎の山岳小説を読みあさりました。このような趣味を通して次第に自然環境に興味を深めていきました。また、高校生まで広島県呉市という小さい市に住んでいました。急斜面と風化花崗岩という広島県南部の地形・地質的な特徴から、土砂災害や洪水が多発する地域だったため、自然災害を幼少期から非常に身近に感じて生きてきました。これらの少年?青年期の体験から、大学進学の時に自然災害や自然環境を総合的に勉強できる自然地理学の講座がある大学を目指した結果、現在の研究に行きついたということになります。

自然と語り合いながら研究を積み重ねることで
真実に近づいていく

私が取り組んでいる分野は複雑系科学であり、1+1=2のようにはっきりと計算で結果がでるような分野ではありません。複雑な地球表面で発生している諸現象をなるべく単純な理論を用いながら、それらを組み合わせて一つの研究成果にまとめあげていくような分野です。建築にたとえると、アントニ・ガウディーが設計したサグラダ・ファミリアみたいな果てしない研究です。ですから、一つの研究がまとまるのは一つの塔ができ上がるようなもので、一つの研究がまとまると、また次に新たな課題が見つかり、それらをいくつも積み重ねていきながら真実に少しずつ近づいていくという楽しみがあります。また分野の性質上、共同研究が多くなりますが、楽しみを仲間で分かち合えるおもしろさもあります。最後に、なんといってもこの研究分野は大自然のフィールドに直接触れながら調査・研究できることが醍醐味だと思います。沖縄のサンゴ礁とコバルトブルーの大海原、雄大なヒマラヤの雪山、果てしない白い大陸南極などを眼前にしながら調査している時は、さまざまな日常の憂いを忘れ、自然と直接語り合うことができ、最もやりがいを感じる瞬間だと思います。

前杢先生からのメッセージ

本来大学は高等教育機関であり、高校までに学んだことをより深く学びたい人や、大学に行かないと学べないことを新たに学びたい人が進学する場所でした。しかし、近年の少子化や、大学進学率の上昇などを考えると、一部の大学をのぞいては「研究の継続・伝承」だけが大学の目的ではなくなっています。大学で学問を究めることが重要なのはかわりませんが、必ずしも全員が大学で学問を究める必要はなく、卒業後の進路・人生を見据えて、社会人として必要な知識や技能を身に付けるために大学を活用することも重要であり、現在それは大学のもう一つの重要な役割となっています。いずれにしても、大学に入学したら、決して安くない授業料を納入するわけですから、それに見合った「成果」を修得していただきたいと思います。大学で一番「お得」なのは「単位」を楽して取ることではありません。必要な「コンテンツ」をたくさん修得することです。受験生のみなさんには、大学に進学する目的をしっかり定めて受験勉強に取り組んでいただきたいと思います。そうすればきつい受験勉強が逆に楽しくなるはずですし、大学に入学してから燃え尽き症候群にかかることもないと思います。

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