研究の対象は人の「顔」
日常のあらゆる疑問を
実験に落とし込んでいく

金沢工業大学 メディア情報学部 心理情報デザイン学科 教授
渡邊 伸行 先生


表情認知が専門の教員と
出会って知った「顔」の面白さ

私の主な研究テーマは「顔の認知」です。人と人とのコミュニケーションにおいて、私たちが相手の顔からどのような情報を読み取っているか (顔認知)、顔からどのような印象を受け取っているか (顔の印象評価)、といった問題について、認知心理学の立場で研究を行っています。この分野に興味を持ったきっかけは大学入学後、表情認知がご専門の山田寛先生との出会いでした。先生の研究を手伝わせていただいたり、国立科学博物館で開催されていた大「顔」展の展示を見たり、日本顔学会に参加したりする機会を得たことで「顔は面白い」と思うようになったのです。最近では、無表情や表情に、腕組みや頬杖、口元を手で覆う、など様々な仕草や姿勢を組み合わせて、表情に対する印象が変化するかどうか(腕組みすると「怒り」のような表情から読み取れる不快さがより強まる、など)を調べています。また、応用的な研究として、石川県警の協力を得て似顔絵捜査に関する共同研究も行っています。

似顔絵捜査の技術向上に役立つ
新たな知見を生み出す可能性

始まりは静岡県警への採用が決まっていた4年生が計画した似顔絵捜査に関する卒業研究でした。刑事モノのテレビドラマでは、目撃証言に基づき被疑者の似顔絵があっという間に描かれますが、実際は想像をはるかに超える大変な作業です。似顔絵捜査官は、目の前にモデルがいない顔の情報を、被害者かもしれない目撃者の心情に配慮しながら聞き出し、そこに想像力を加えながら似顔絵を描く、という作業を行っているのです。実験では、例えば学生に同級生の顔を思い出して証言してもらい、似顔絵捜査官はそれに基づいて似顔絵を描きます。その様子をビデオカメラで撮影させてもらい、どういう言葉のやりとりがなされているか、またその言葉の情報によって、どのように似顔絵が描かれていくか、ということを記録します。似顔絵ができあがったところで、モデルとなっている学生に登場してもらい、完成した似顔絵がどの程度似ているか、学生と捜査官とで議論します。これまでに例のない研究のため、顔の記憶に関する様々な発見が得られそうです。最終的に、今後の似顔絵捜査における技術向上に役立つような知見を見いだすことを目標に、これからも研究を続けていきます。

研究が研究に留まらず
世の中の役に立っていく楽しみ

顔という誰もが日頃から関心を持っている対象を研究することで、誰かの何かの役に立つかもしれない、ということは研究を進める上で1つのモチベーションになっています。特に、ゼミの学生達が提案してくれるテーマは、例えば、就活メイクが顔の印象に与える影響、ヴィジュアル系バンドのメイクによる印象と分類、コロナ禍前後でマスクが与えた顔の印象の変化、自撮り写真の顔の写り方、などなど、学生達が日常生活の身近なところで見つけてきてくれたものが多く、そうした疑問を実験にどう落とし込んでいくか議論しながら研究を進めていくのは本当に楽しいものです。さらに、その成果を、例えば日本顔学会という学会で発表すると、多くの参加者が感心を示してくれます。化粧品メーカーなど企業の方々も参加する場なので、そのような方々が関心を寄せてくださることは、その研究の社会的な評価にも繋がっていると思えます。学生が楽しみながら研究に取り組み、研究が研究の世界に留まることなく何らかの形で世の中の役に立っていく、これが一緒に研究する者としての楽しみであり、やりがいです。

渡邊先生からのメッセージ

大学で本当に学びたいことは何か、できるだけ早い段階で見つけておくことをお勧めします。文系、理系などの枠組みを超えて、幅広く様々なことに興味を持っていただきたいです。心理学もそうですが、大学では文系だと思っていた科目で数学や理科の知識が求められたり、一見異なる分野に思える2つの科目で共通の知識が度々出てきたりすることがあります。文系と理系の境界はなく、全ての学問は根っこの部分で繋がっているのです。高校生の頃には「古典は将来、何の役に立つのか」と考えていましたが、この歳になって教養としてそういう知識を1つでも多く身につけておくことが人生をより豊かにするということも実感しています。皆さん、今は文系・理系の枠組みの中で学ばれていることと思いますが、大学入学後は「自分は文系 (理系) だから」といった構えを捨てて様々な学問を楽しんでください。皆さんの知的好奇心をくすぐる授業や研究に、きっと出会えると思います。受験勉強を乗り越え、皆さんが本当に学びたいことや今後の人生を左右するような人との出会いに恵まれますよう心から応援しております。

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