歴史にはロマンがつまっている
新しい発見が生む感動と時を経て進む解釈

関西大学 文学部 教授
森部 豊 先生


新たな視点から「唐」の歴史を解釈する

私は中国の歴史の中で特に唐とその前後(隋や五代十国)の時代を研究しています。唐王朝は、その建国に、遊牧民や中央アジア出身のソグド人などが大きく関わっていました。私の研究は、唐という王朝の中で活動した外国人に光を当ててその姿を浮かびあがらせることによって、唐という帝国を「中国史」という枠からはずし、ステレオタイプな中国史像を打ち壊して、新たな視点から唐という歴史像を構築しようとするものです。

中国への留学で訪れた大きな転機

小学生の時にドラマ『西遊記』やNHKの『シルクロード』が放映され、中国に関心を持ちます。そして『水滸伝』を読んだのち、中学3年生の時に映画『少林寺』を見て、ブルース・リーやジャッキー・チェンのカンフー映画とは全く違う中国武術を目の当たりにし、私の中の「中国ブーム」はさらに高まったのです。中国に長期滞在するために歴史と中国語を合わせ技で学ぼうと、東洋史の道を選びました。そうして大学生の時に3度中国へ留学した後、大学院に進学して北京大学に2年留学。この北京大学で研究上の大きな転機が訪れます。

史料を実際に探し当てた感動と
得られた発見

留学する前は、唐の地方軍閥が研究対象でした。この軍閥の長官を「節度使」といいます。私が修士論文を執筆した時、ある節度使の墓誌を史料として使いました。墓誌とは、ある人物が亡くなった時、石板にその故人の事績を刻み、死者とともに墓の中に埋葬したモニュメントです。一般に唐の歴史を研究するときは、書物として編集された歴史書を利用しますが、墓誌に書かれている記録からは、書物には書いていない事実が明らかになる場合があります。私が修士論文で利用した墓誌は一辺が2メートル近くある巨大なもので、私が見ることができたのは、それをB4サイズに縮小した拓本の写真だけだったため、字は小さくて読みにくく、つぶれて読めない文字もありました。留学の目的の一つが、この墓誌のオリジナルを実際に見て、書かれている文字を判読し、修士論文で保留にしていた研究の一部を完成させることでした。「北京からずっと南の町にある」という漠然とした情報しかない中、インターネットもない時代にその墓誌を探し当てた時の感動は、言葉には言い表せないほどでした。実物をカメラで撮影し、一文字一文字を書写していきました。そのデータを北京大学の指導教官だった栄新江教授と読み合わせしたことが、この墓誌の解読に違う方向からの光を当ててくれました。墓誌に書かれていた節度使とその家族の姓を見た教授から「彼らはソグド人の血を引いている可能性が高いから、その視点でこの節度使一家や軍閥を調べ直したらどうか」というアドバイスを受けたのです。その後の私の研究は、この節度使一家からこの軍閥の研究、さらにソグド人の血を引いている軍人の研究に広がっていきました。ソグド軍人の活動をたどっていくと、安史の乱からその後の軍閥の割拠、さらに唐が滅んだ後の時代、そして北宋までその姿を確認することができます。唐から北宋への中国史の流れは、単純な漢人王朝の興亡ではなく、様々なエスニック集団が関わったこと、その動きは今の中国という枠を超えたもっと大きな空間で起きていたことが分かるのです。

新しい発見にロマンがある

どのような学問分野であれ、新しい発見というのは、わくわくするものです。歴史というのは、過去の分かりきった事実を取り上げ、それを解説するだけと思うかもしれません。でも古代になると、新しい遺跡やお墓の発見があり、ロマンをかきたてられることがあります。中国におけるソグド人についても、経済発展による開発によりお墓が見つかり、その中から死者を安置するための葬具が出土しました。それによって、彼らの生前のライフスタイル、思考様式などが鮮明な画像として浮かび上がりました。こういった情報は、文献史料だけでは分からないもので、この分野の研究をしていて面白いと感じる時です。

森部先生からのメッセージ

大学や学部学科によって学び方は異なります。例えば、「国文学科」や「史学科」などは入学時から卒業時まで、その分野の学問を学んでいきます。自分はこんなことを学んでみたいと決めている人に合う選択でしょう。一方で「総合人文学科」のように学科名が漠然としている場合、入学した段階では本格的に学ぶコースが決まっておらず、進級の際に分かれていきます。まだ何をやりたいか決まっていない人に合う選択でしょう。偏差値だけにとらわれず、大学ごとの仕組みや、それが自分に適しているかを徹底的に調べてください。
歴史好きの高校生は毎年一定数いますが、高校までと大学での勉強とでは大きな違いがあります。高校までは「暗記する」ことが主体になるかもしれませんが、大学では「暗記」は重要ではありません。歴史の事実を取り出し、それが今現在どのような意味を持っているのかを解釈していく学問といえます。時代が違えば、同じ歴史事実を研究対象としても、異なった答えが出てくる可能性があります。なぜなら、歴史学の研究者は、意識・無意識にかかわらず、彼が生きている時代に制約されるからです。「人」が過去にどのような行動をとり、その結果、どのようなことが起きたのかを研究するのが「歴史学」かもしれません。社会が「人」によってつくられるならば、その根源である「人」を学んでみるのは非常に面白いです。もう一つ、マイナーなことにチャレンジするのも面白いと思います。せっかく大学で学ぶのなら、人がやらないようなことにチャレンジするのもいいのではないでしょうか。

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