Interview
「氷のタイムカプセル」で探る、地球環境の変化
北見工業大学 工学部 地球環境工学科 環境防災工学コース 准教授
大野 浩 先生
冷凍保存された過去の空気を分析
私の専門は「雪氷学」です。自然界で雪や氷がもたらす現象の理解を深めるとともに、それらを用いて地球環境の変化を調べています。学生時代から取り組んでいるのが、「アイスコア(氷床コア)」の研究です。これは、南極やグリーンランドの氷床に縦方向の穴を開け、円柱状にくり抜いた氷のサンプルのことです。この中には、過去の空気や飛来してきた小さな物質(エアロゾル)がそのまま冷凍保存されています。アイスコアの深さは時間の長さに対応するので、これを分析することで過去の地球環境を知ることができるのです。具体的には、空気と周りの氷が反応してできる「空気ハイドレート」と呼ばれる結晶の仕組みや、水に溶けやすいエアロゾルの化学的な形態を調べています。それによって、過去の大気組成(例えば温室効果ガスの量など)を正確に復元したり、エアロゾルが気候変動にどれくらい影響を及ぼしたかをデータに基づいて明らかにしたりできます。
知床の雪氷が映し出す環境の姿
最近は、北海道内を調査フィールドとした研究にも力を入れています。例えば、道内の僻地で採取した新雪や、オホーツク海の流氷に含まれる「マイクロプラスチック」を分析しています。近年、特に世界的な問題となっている「マイクロプラスチック」と呼ばれる小さなごみは、海洋だけでなく大気中にも無数に浮遊しています。雪はそれらの「運び屋」のような働きをしていますし、流氷にはマイクロプラスチックが濃縮し、食物連鎖を介して生態系に影響を及ぼすことも危惧されています。
また、世界自然遺産として名高い知床で、「永久凍土」の調査も行っています。昨年、知床連山で2番目に高い「サシルイ岳」の山頂付近に永久凍土が存在することを証明しました。永久凍土の南限に位置する日本国内の永久凍土はわずかな温暖化でも影響を受けやすく、環境の変化を敏感に示す“センサー”として役立ちます。そのため、知床における永久凍土の温度や分布を継続的に観測することで、地球環境の変化を監視できるのです。これに関連して、地元である北見の老舗飴屋(永田製飴)とコラボして“知床永久凍土キャンディ”という商品を企画・開発しました。商品を通じて気候変動に関する注意喚起を促し、売り上げの一部を知床の環境保護団体に寄付することで、環境保護活動の支援も行っています。
“ありふれた物質”がくれる、新たな気づき
私が研究を始めたきっかけは、北海道への憧れでした。雪や氷は、北海道の自然を象徴するものです。大学で雪氷と地球環境、そして私たちの生活との関係を学ぶうちに、その面白さにどんどん魅了されていきました。その面白さとは、研究の過程で得られる“新たな気付き”に集約されるのではないでしょうか。私はこれまで、ある意味“ありふれた物質”である氷が、実は非常にユニークで、地球環境にとって欠かせない存在であることに何度も気づかされました。さらに、フィールド調査を通じて、雪氷が織り成す自然現象の美しさを体験できるのも、雪氷学ならではの魅力だと思います。
大野先生からのメッセージ
大学受験で学習する内容は、大学で、より専門的な知識や高度な技術を習得する際に必要な土台になります。また、その後の人生においても、教養の源となり豊かな人生に結びつくと思います。地球環境も人間社会も激動の時代です。これらを悲観するのではなく、むしろチャンスととらえて、変化に対応できるようにしっかりと準備をしてください。
北見工業大学 工学部 地球環境工学科 環境防災工学コース
https://www.kitami-it.ac.jp/engineering-graduate/chikyu/kankyo-c/
大野 浩先生の研究室
http://www.ohno-glaciology.com/l










