イメージに隠された意味や真実を探り出す

神戸大学大学院 人文学研究科 美術史研究室 教授
宮下 規久朗 先生


美術は、社会・政治・文化と深く結びついている

私の研究している美術史学とは、人類の文化遺産である美術作品を研究する学問です。美術というと、趣味や道楽のようなものと思われがちですが、鑑賞用のきれいなものだけでなく、文字資料に対する視覚資料(イメージ)全体を扱う学問です。イメージは、文字で表現されるよりはるかに豊富なメッセージをもっていて、それを読み解くことによって、過去の人たちの考えや現代の文化の隠された意味や、思わぬ真実を探り出すことができるのです。作品が制作されたときの政治・経済・思想・社会的文脈に加え、それが現在にいたるまでどのような意味を与えられて受容されてきたかを考えます。古来、美術というものは、優雅な趣味の対象などではなく、現実の社会や文化全般と結びついた重要なメディアでした。政治経済と深く関わり、生老病死を彩り、人の欲望や理想を反映するものなのです。そのため、美術は歴史の様々な局面で重要な役割を果たしてきたのです。私は17世紀イタリアの画家カラヴァッジョやイタリア美術・バロック美術の研究に始まり、日本の近代美術やアメリカの現代美術など、幅広く研究してきました。美術はすべてつながっていて、同じ方法論であらゆる美術を扱うことができます。

研究対象は無限。何度生まれ変わっても学びたくなる学問

私は小さい頃から絵を描くのが好きで、漠然と画家になりたいと思っていました。ですが、小学校のころに図書館で見た子供向けの画集シリーズで初めて美術の名作と出会い、その直後、高階秀爾先生の『名画を見る眼』(岩波新書)を読んで美術を研究する美術史という学問の存在を知り、その道に進むことを決めました。大学・大学院で美術史学を学び、美術館学芸員を経て神戸大学の美術史研究室で教育研究に励んでいます。卒業生の多くは全国の美術館・博物館で学芸員として活躍しています。美術史ほど楽しい学問はありません。現在残っているモノを研究することで、つねに好奇心が刺激され、歴史が身近に感じられます。美術史をすると、自然に視覚的なセンスが磨かれて、それまで何気なく見ていた日常の風景や視界にいろいろな意味を見出すことができるようになるのです。研究対象は古今東西、無限にあります。やってもやっても新たな美術に出会えて、新鮮な気持ちで研究したくなります。美術のない国や地域はありませんから、どこに旅行に行ってもそれらにふれて考えることができ、旅行が何倍も楽しめるようになります。美術史をやっている人で、やって後悔したという人は聞いたことがありません。私だけでなく、美術史研究者はみな何度生まれ変わっても美術史をやりたいと言っているほどです。

宮下先生からのメッセージ

美術史学を学ぶには、美大や芸大に行かなければならないのかと思われがちですが、そうではなく、普通の大学の文学部の多くにも美術史学の専修課程があります。志望する大学で美術史課程があるかどうかは、ご自身でも事前に調べてくださいね。美術史は高校までの美術の授業とはまったく違って、イメージを歴史的に解読するれっきとした学問です。高校の授業では、美術よりも世界史や日本史と関係がありますので、しっかり学んでほしいと思います。もし美術館や展覧会で感動したら、そこで終わってしまったらもったいない。ちゃんと美術史学を学べば感性はより豊かになって、美術がよりおもしろくなり、生涯の趣味になるはずです。

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