工学院大学 工学部 電気電子工学科 高木 亮 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

電力供給と列車ダイヤの革新で目指す、未来の鉄道システム

工学院大学 工学部 電気電子工学科 教授
高木 亮 先生


ちょっとした工夫で省エネと設備のスリム化

我々は、鉄道システムについて研究しています。鉄道システムとは、鉄道車両、それが走るための専用の空間である線路、その線路に沿って走行する車両に電力を供給する仕組み、さらには駅、列車ダイヤ、座席予約を含む切符の販売や旅客への案内なども含む全体のことです。我々は、この鉄道システム全体に興味を持っていますが、学生たちとともに行っている研究の主な対象は、電力供給と列車ダイヤです。
電力供給についての研究では、その方法などに工夫を加えることで省エネルギー化や設備のスリム化などを狙っています。主として直流電気鉄道の議論をしてきました。特に、列車がブレーキ時に、自らの運動エネルギーを捨てずに再利用しようとする「電力回生ブレーキ」が一般的になったことで、変電所の電圧と電流の関係を適切に設定すれば、ある程度の省エネルギー化が可能なことが知られています。このような議論について、自作のシミュレーションプログラムによる解析を繰り返し、適切な特性を見出す検討を行ってきました。やや古い話になりますが、1990年代には、ある地下鉄路線でその議論が実際に活かされたこともあります。また、電気鉄道の変電所では、電流の最大値が平均値に比べて非常に大きいことが知られています。この最大値を抑制することで設備のスリム化が可能になりますが、私の研究では、列車の走らせ方を若干変更することで、かなり抜本的に実現できる見通しが得られています。

列車を1分間隔で走らせ、大量輸送を実現するには?

列車ダイヤについての研究では、特に大都市の鉄道における慢性的な混雑を解消できるようなレベルの超高頻度化(現行の鉄道では例えば2分に1本の列車を走らせるのが限界というとき、同じ線路に1分に1本の列車を走らせるような技術を開発すること)を目指しています。1分間隔で列車を走らせること自体は、列車が停車しなければ実は容易です。しかし、停車しない列車には乗れませんから、列車が停車する条件での実現が必要です。現在は、全列車が全駅に停車する前提、あるいはそれに近い考え方のものであるといえますが、そうした既存の運行方法ではなく、多くの駅を通過する列車を多数用意するとともに、列車ごとに停車駅が異なるようにして乗客のニーズに可能な限り応える工夫をいろいろと考えています。そうすることによって、列車速度が上がり経済的に大量輸送が可能になりますが、一方で、列車ダイヤが従来のものとは比較にならないくらい複雑で使いにくくもなるため、その緩和手法の導入も必要です。つまり、旅客案内システムなど多くの分野での革新が必要だろう、と思っています。

幼い頃からの夢を実現し、社会に貢献する喜び

鉄道に興味がある人の中には、物心ついた頃にはそうであった、と述懐する人が多いですが、私もその一人です。幼い頃から鉄道に興味があり、そして、なぜかわかりませんが、研究者志向が強く、「あのようなシステムを自分で作りたい」という夢をもっていたことから、運良くこのような仕事に就くことができました。
この研究の面白さは、社会的な意義の大きさでしょうか。鉄道は、大量輸送機関であり、その改善は一見小さく見えるものでも社会に与える波及効果が大きいものです。そのことがわかった上で、鉄道の可能性をさらに広げることができそうなアイディアが頭に浮かび、その有効性をある程度証明することができたとき、大きな喜びを感じます。

高木先生からのメッセージ

よくICT技術が世界を変えているといわれますが、19世紀に誕生した鉄道以上に世界を変えた技術は、そのICT技術も含めてまだ存在しないと思います。もちろん、自動車製造業は日本の経済を支える基幹的産業である、といったことからもわかるとおり、鉄道は現在必ずしも交通の主役ではないとも言えますが、それでも東京周辺など、通勤・通学の場面では鉄道以外の手段がほとんど考えられない、というような地域は少なくありません。こうしたことからもわかるとおり、社会的意義も大きい上、まだまだ発展の余地もある分野ですので、多くの方々に研究に取り組んで欲しいと思っています。

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