九州大学 大学院 人文科学研究院 中川 奈津子 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

何気ない日常会話の中に隠された謎
―― 日本語の秘密を解き明かす

九州大学 大学院 人文科学研究院 准教授
中川 奈津子 先生


言葉の背後にある、思いがけない法則

私は、人が実際に話した言葉を集めたデータや実験結果をもとに、日本語とそのきょうだいに当たる言語の“話し言葉”を研究しています。特に興味があるのは“情報構造”で、話し手がどのように聞き手と情報を共有したり、ニュースとして伝えたりしているかを調べています。話し言葉では、言いよどみや言い直しなど、話し手の迷いやつまずきといった思考の痕が観察できるため、そこから話し手の情報処理を検証します。
博士論文では、東京方言を対象に「猫は寝てるよ」「猫が寝てるよ」「猫 寝てるよ」のような、助詞〈は/が/無助詞(ゼロ)〉の違いを調べました。その結果、既に共有済みの話題では「は」やゼロが使われやすいなどの傾向がわかりました。
みんなが何気なく使っている言葉なのに、その背後には思いがけない法則があるのが面白いところです。「は」と「が」の違いは?「書く」に「て」がつくと「書いて」になるけど、「読む」に「て」がつくと「読んで」になるのはなぜ?と聞かれても、すぐには答えられないかもしれません。でも実は、その背後には法則があり、先人たちの研究の知恵を借りながら新しい法則がわかったとき、とても嬉しい気持ちになります。

地域の生活や文化と深く結びつく方言

琉球諸語や東北方言などとの比較も行っています。琉球には、共通語にはない助詞「どぅ」(古典語の係助詞「ぞ」の子孫とも言われています)や、その有無で動詞が変化する係り結びがあったり、「は」「が」自体があまり使われない東北などの地域があったり、方言ごとに助詞選択の様相が大きく異なるのです。
こうした関心の原点は、高校時代にさかのぼります。私は滋賀県北部の出身ですが、遠く離れた京都の高校に進学しました。同級生や先生が話す言葉と自分の言葉の違いに驚き、自然に「京都の方言にはどんな法則があるのか」を探りながら、みんなと会話していました。当時から既に今と同じようなことをやっていたのだなと思います。
現在は、沖縄県八重山諸島と青森を中心にフィールド調査を進め、東京方言の研究と統合しながら、話し言葉の情報構造を説明する枠組みの構築を目指しています。調査の中で、方言を話す方々はもちろん、方言を話さなくとも、地域の伝統行事や歴史、食文化や民謡、民具づくりなどに関わる多くの方々と出会いました。その経験から、言葉は生活や文化と深く結びついていることを実感し、「暮らしの一部として、自分らしく自分の言葉を話すこと」が重要であり、その手助けとなる研究をしたいと考えるようになりました。そして、方言の辞書や絵本づくり、昔の出来事の語り、ワークショップなどの活動も地域の人たちと一緒に楽しみながら進めています。こうした取り組みの中で、私の専門であるデータ処理や保存の技術も役立てたいと思っています。

学びは世界の謎を解くためにある

私はもともと大学で文学を学んでいましたが、英語の授業で言語学の面白さに気づき、大学院入試を受けて言語学を専攻することにしました。大学院では、文系には不要だと思っていた数学も勉強し直しました。高校では理解できなかった確率や微分積分、線形代数を改めて学ぶことで、これを基盤とする統計学が、自分の研究や社会の様々なところで役立っていることを知りました。また、学会発表や論文執筆のために、英語も勉強し直しました。こうした勉強が研究や社会で役立つのは言うまでもありませんが、一番重要なのは、私たちが何となく経験しているこの世界を、きちんとした方法で調べると、厳密な数値で予測したり、パターンを発見したり、より精密な言語で分析できる、という事実を知ることではないでしょうか。

中川先生からのメッセージ

生成AIに聞けば何でも答えてくれるから勉強する意味はない、という言説を聞いたことがあるかもしれません。しかし私は、これは間違いだと思います。ただテストで良い点を取るためや、受験に合格するためだけでなく、世界のことを理解するために勉強することが大切だからです。例えば、漫画『ONE PIECE』を読むとき、ルフィの能力や登場人物どうしの関係、過去の出来事などを自分で覚えて理解していなければ、最新話を楽しむことはできません。勉強も同じです。必要な知識と関連性を自分で理解して初めて、世界のことが見えてきます。世界のことが理解できなければ、真っ暗闇で佇んでいるようなもので、何も面白くありません。
高校までに学ぶことは、これまで多くの人たちによって解明されてきた世界であり、努力の結晶です。大学では、その土台の上に、まだよくわかっていない部分が少しずつ顔を出します。物語を読むのと同じように、思わぬところで疑問が解消されたり、伏線が回収されたり、あるいは謎が深まったりするかもしれません。世界の謎に挑戦するためにも、ぜひ楽しんで学んでください。

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