武蔵野美術大学 造形学部 デザイン情報学科 高山 穣 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

誰にもマネできない、前人未到の表現を
コンピュータグラフィックスで

武蔵野美術大学 造形学部 デザイン情報学科 教授
高山 穣 先生


人間の想像を超える世界を追求

私はコンピュータグラフィックス(以下CG)を用いたアニメーションやアート表現の研究に取り組んでいます。特に数式やプログラミングを用いて画像や映像を生成するプロシージャル生成(Procedural Generation)という技法に着目した研究を進めています。通常のCG制作では3DCGソフトウェアを用いて表現したい物の形や動きを作っていくのですが、プロシージャルな技法では対象物の形や動きに見られる「生成規則」を数式やコンピュータのアルゴリズム(計算の手順)として記述していくことで画像や映像を制作します。
例えば手作業で樹木を描くことを想像してみてください。樹木は膨大な数の枝や葉から構成されており、全てを手作業で描くのはとてつもない作業量になってしまいます。しかし枝分かれや葉の付き方には単純な規則性があることから、一旦その規則をコンピュータの中にルールとして記述してしまえば、一本の樹木どころか、森林全体もそのルールに基づいて一瞬で制作することができてしまいます。これがプロシージャルな技法の威力です。さらに芸術分野におけるCG表現として面白いのがここからです。自然界の規則性を一旦再現してしまえば、さらにそこにありえないパラメータ(変数)を与えることで、世の中には存在し得ない奇想天外な造形を生み出せる可能性を秘めています。例えばさきほどの樹木の例で言えば、完全に90度の直角に枝分かれをする樹木なんて世の中に存在しませんが、CGの世界ではそれを簡単にシミュレーションすることが可能です。このようにコンピュータでしか成し得ない世界を追求していくことができるのがこの分野の魅力です。人間の手作業では不可能なほど精密で、なおかつ人間が想像もしえない表現を追求していくことができるのがCGアートの醍醐味とも言えます。

繊細な伝統工芸の継承にも貢献

プロシージャルな表現は当初、樹木や岩肌のような自然物に用いられることが多かったのですが、近年では都市景観や建築物など人工的な構造物にも用いられるようになってきています。既に近年の映画やビデオゲームにおける背景の多くもこのようなプロシージャルな技法で生成されています。このような流れを受けて私は近年、装飾美術をプロシージャルに表現するプロジェクトに取り組んでいます。一般的な絵画や彫刻などの芸術作品は主にアーティストの感性に基づくものですが、装飾美術の文様(もんよう)には明確なルールが存在することも多く、その規則をプロシージャルに記述することで文様をCGで再現することができます。私の過去の研究例ではゴシック様式の建築装飾を再現したものや、日本の伝統工芸である組子(くみこ)や切子(きりこ)の文様を再現することを試みたものがあります。
このように装飾美術をアルゴリズムとして表現することは、画像や映像として表現することだけでなく、伝統文化の保存や継承にも役立つと考えています。例えば日本の伝統工芸品である切子は、切削加工によってガラスの表面を削って幾何学模様を施します。しかし複雑な模様になると、正しい順序でカットを入れていかなければ美しい仕上がりにはならず戦略的に考えていく必要があります。この点について、例えばカットの手順を含めて模様をアルゴリズム化することで、繊細な文様をCG映像として表現するだけでなく、伝統の技をわかりやすく保存し、後世に伝える取り組みとして応用できるとも考えられます。つまり、これまで伝統文化の保存や記録は主に画像や映像によるものでしたが、今後は伝統を仕組みとして記録できる可能性を秘めており、その技術を応用することで職人の育成目的や文化教育目的への貢献が期待できます。

CGは「理論が創り出す美」

私が初めてCGに興味を抱いたのは確か幼稚園の頃だったと思います。当時のCGといえば技術的な限界から「いかにもCG」といった印象のツルツル・ピカピカしたものばかりでしたが、その全く無駄のない美しい質感に魅了されたのを今でも鮮烈に覚えています。私はきらびやかなCGの質感が大好きで、いつか自分も映像業界に進んでCGの表現に取り組んでみたいと思っていました。しかしCG技術が大幅に進化するにつれて、当時のCGの応用例としては爆発や破壊などを伴う過激な戦闘シーンや、あるいは暴力をふるう異形のモンスターなどの表現にも多く用いられるようになっており、それらを否定する意図こそありませんが、幼い頃に自分が感じたきらびやかなCGの魅力とは随分と異なってきた印象を受けました。そのため昔の自分が感じたCGの本当の魅力は何だろうと疑問に思いながら漠然と美術大学(武蔵野美術大学)へ入学したのですが、そこで後に恩師となる教授と運命的な出会いを果たしました。その教授は日本のCG黎明期を支えてきた研究者でもあり、まさに自分が幼い頃に感じた昔のCGの魅力を授業で雄弁に語る人物でもありました。その魅力の正体とは、恩師の言葉を借りれば「論理が創り出す美」、つまりアルゴリズムによる表現の世界だったのです。その教授に出会って、自分が感じていたCGの根源的な魅力は商業的な映像業界にあるのではなく、アカデミックな世界にこそあると信じてCG研究の道を志すことにしました。

誰も知らない表現世界に踏み込む魅力

CG研究の面白さの1つには、何よりも、誰にも真似できない前人未踏の表現を追い求めることができる点が挙げられます。一般的にCGというと映画やゲームといったエンターテイメントを連想する人が多いと思います。エンタメの観点に立つと、売れる作品こそが良い作品だと思われがちです。確かにその視点も重要ではありますが、一方で学問の世界は売れる表現に目を向けるのではなく、たとえ売れなくても、あるいは誰も見向きもしなくても重要な表現に目を向けることが大切な世界です。その中から新しいものを見つけていくことが学問の役割です。確かにエンタメ業界のような華やかさはありませんが、誰も知らない表現世界に自分の意志で踏み込んでいけることは大きなやりがいと言えます。何より、この先何百年、あるいは何千年も残るかもしれない学問全体の知の体系に少しでも貢献できることは学問に従事する者として喜びと言えるでしょう。
しかしだからと言ってCG研究は決して地味な世界ではありません。CGの学会で発表される新技術は早くも数年後には市販のCGソフトウェアに搭載されて世に出回ることもあり得ます。常に新しい技術、新しい表現が次々と生まれてくる刺激的な世界で、ここまで短期間に目まぐるしく進化した学問分野は他にさほど多くはないはずです。このような目まぐるしい技術の進化にそのまま立ち会えるのも大変幸せなことだと思っています。基礎学問の分野では偉大な先人達は何百年どころか場合によっては2千年ほど前の人たちだったりしてもはや伝説の類です。しかしCGの世界の基礎をつくったパイオニアと言われる研究者たちは、まだその多くが生きているどころか現役で活躍しており、CGの学会に出かけると目の前を有名な学者がうろうろ歩いていたりします。生ける伝説を目の当たりにできるのもこの新しい分野だからこその魅力と言えるかもしれません。

高山先生からのメッセージ

CG分野を目指すなら、CG以外の分野を学ぶことが近道です。日頃の学校での学びや受験勉強にしっかり取り組みましょう。それは、CG自体が単なる技法にすぎず、それを使って何を表現するかが重要だからです。闇雲にCGソフトウェアの使い方を勉強するのではなく、そこで何を成し遂げたいかをしっかり見定められるように豊かな教養を身に着けましょう。
CGに関する多くの技術は主に北米地域からやってくるとともに、近年のCGプロダクションでの業務は国をまたぐプロジェクトも多く、その場合の仕事のコミュニケーションは英語が基本となります。こういった経緯から、多くの人たちが受験時に勉強した英語が役に立っていると述べています。数学や物理、生物や化学、地学など、様々な分野も同様です。実際にCGの世界で偉大な業績を残した人たちの中でも、CG以外のバックグラウンドを持つ人たちが大勢います。それはCGがただの画像や映像ではなく、その背後にデータの蓄積やアルゴリズムなどの知識を含めて生成させることができるからです。つまりCGは知の結晶としての知識伝達のための表現とも言えます。みなさんも日頃の勉強を大切にしつつ、ぜひこの世界の奥深い魅力にも触れてみてください。

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