Interview
水と土と緑を守る
――工学の力で叶える美しく強い国土
帯広畜産大学 畜産学部 農業環境工学ユニット 担当教授
宗岡 寿美 先生
森や畑の比率と配置が川のキレイさを決める
私の専門は「農業農村工学」「緑化工学」「水環境学」など多岐にわたります。これらをまとめて、私は「水と土と緑の保全学」と呼んでおり、現在は主に次の2つのテーマに取り組んでいます。
1つ目は、「農林地域の水質環境と土地利用」についてです。北海道では、地域の気候に合わせた大規模な農業が行われています。農業では、良質で安全な農畜産物を生産することはもちろん、農業者にとって生産の場であり生活の場でもある農村の自然環境も守らなければなりません。つまり、「持続的な農業と環境保全の両立」が重要となります。このため、河川の水質を指標として、流域(雨水が集まる地域)の土地利用を評価する必要があります。
たとえば、十勝川水系の調査では、川の中の硝酸態窒素の濃度が、畑草地が増えるほど高くなり、森林が多いと低くなることがわかりました。また、同じ比率でも畑を分散させて森林が連なるようにすることで硝酸態窒素の濃度を下げられる可能性があるなど、土地の使い方や配置が河川の水質に影響をもたらすことが明らかになっています。
草は強い!? 人工斜面を緑で守る
2つ目は、「人工斜面(法面)の保全と緑化の技術」についてです。山を削って道路をつくろうとするとき、東西南北それぞれの向きに人工斜面ができます。十勝地域では、寒さや風、雪の影響により、特に北向きや西向きの法面で凍結による被害が発生しやすくなります。しかし、こうした問題に配慮した土木工事に関する基準や指針は、まだ確立されていません。
法面を保全するとき、コンクリートで覆うよりも、草で覆った方が景観の面からも自然にやさしく、土壌の侵食を防ぐ効果もあります。根が伸びて法面に侵入することで、地盤の強度が増大することも知られていますが、まだわかっていないことが多くあります。草の種類や種をまく時期、生育期間などによって、どのような影響があるかを適切に評価することで、「防災・減災、国土強靭化」の視点から国土保全につながるなど、今後の土木技術にとって大切な研究です。
土木現場で抱いた疑問を解決するために
私は学生の頃から、道路の凍結被害や傾斜農地の土壌侵食問題、農業地域の土地利用と水環境保全の問題に取り組んでいましたが、卒業後は、土木技術者として市役所で働くことになりました。道路工事の現場監督をする中で、法面に使う植物や工法の選び方に疑問を抱くとともに、土木技術者の多くがあまりに無関心であることに唖然としました。そんなとき、縁あって大学で助手として働く機会を得て、現場で抱いた疑問を解決するための研究に取り組みたいと考え、今に至ります。
市役所では、ピラミッド型のヒエラルキーの中で上司の指示のもと、与えられた仕事を着実にこなすことで評価されます。一方、大学の研究はテーマの決め方も進め方も自由で好きなことに取り組めます。同時に全責任も負うことになりますが、自分の仕事をこなし、自分で監督・管理できることにやりがいを感じます。そして、世の中でまだ「わかっていないこと」を科学的に「初めて解明できる」ことが研究の魅力であり、面白さです。うまくいけば、その道の第一人者になれることもあります。
宗岡先生からのメッセージ
受験勉強、本当にお疲れさまです。高校生活を謳歌したいところでしょうが、勉強に打ち込む姿もまた、人生の中では貴重な青春の1ページです。そんな人生をぜひ誇ってください。受験で身につけた「基礎学力」は、大学でも社会でも必ず役に立ちます。数学の微分積分のように、高校では点を取るために学ぶ内容も、大学では大切な問題を解決するための手段となり、知識の本質に気づくでしょう。研究に取り組む中で、いろいろなことを指導教員から吸収し、自ら学び続ける方法を身につけてください。
偏差値やネームバリューで志望校を選ぶのも悪いことではありませんが、自分の興味や将来の希望に合った選択をしてください。まだ方向性が決まっていない皆さんは、入学後の選択肢が広い大学を選ぶのも1つです。大学生活は、自分のアイデンティティを確立するまでのモラトリアム期間ですので、じっくり自分の将来と向き合ってください。昭和の受験戦争を体験した人生の先輩として、皆さんの人生が素晴らしいものになることを心から願っています。










