Interview
植物のタネにも寝起きの良し悪しがある?
農業に直結する植物種子の休眠と発芽のメカニズム研究
帯広畜産大学 畜産学部 植物生産科学ユニット 担当准教授
中林 一美 先生
植物のタネを一斉に発芽させることはできるのか?
私は植物種子の休眠と発芽の分子メカニズムを明らかにしようという研究をしています。おかしなことのように聞こえるかもしれませんが、植物のタネも眠ります。寝起きのいいもの、悪いもの、植物種が違えばそれぞれの性質がありますが、同じ植物種のなかでも品種によって個性があり、同じ品種でも環境が違えば眠りの深さも変わります。この休眠という性質は、その種子にとって正しくない季節に発芽しないようにする制御機構、また突然の異常気象によって絶滅しないようにする生態学的な生存戦略の一つなのですが、農業にとっては頭の痛い性質です。というのも、農業では10個タネをまいたら全部発芽してほしいですし、その芽生えは早くて均一であってほしいわけです。ところが、眠りが深いと発芽しませんし、寝起きもばらばらで今日は1つ発芽、3日後にまた1つ、となると、苗の育ちが揃わず農薬散布などが一斉にできず、最終的には収穫にもかかわります。ですからどのような遺伝子がいつ、どのような働きをすると眠りが深くなるのか、あるいは浅くなるのかを明らかにして、その情報を品種改良に有効に利用しようとしています。
また品種改良は時間がかかりますから、眠っている状態の種子に何らかの処置を施すことによって、強制的に目覚めさせる方法を確立できたらいいなということで、大気圧プラズマ処理という新しいテクノロジーやバイオスティミュラント(発芽促進剤)の効果的な使い方を確立し、またその効果は植物のどのような変化によるものかという分子メカニズムを解明しようとしています。
葉の研究から種の研究へ
大学院生のときは葉の老化にかかわるタンパク質分解酵素について研究していました。古い葉が緑色から黄色になり枯れ落ちるときには、葉の内部にある栄養素を若い花芽や次世代の種子に転流して再利用します。葉自体が空っぽに近い状態で枯れ落ちるという現象をみて、その栄養素を受け取る種子はどのように育つのかなという興味をもったことが、種子発芽の研究を始めたきっかけです。そして理化学研究所の植物科学研究センターが立ち上がった時に種子の発芽に関わる研究グループがあり、研究員として採用されました。それ以来ドイツ、イギリスでも一貫して種子休眠と発芽の研究を続け、今に至ります。
種子の研究は農業に直結する
研究を通して、植物種子の眠りの深さがどのように制御されているのか、その植物の育つ環境に応じてどのように進化してきたのか、ということを明らかにしていく過程はわくわくします。ほとんどの植物種で同じメカニズムを使っている部分もありますし、個別に自前のメカニズムを獲得したものもあります。このようないわゆるサイエンスの進歩に直結する部分の魅力はもちろんですが、種子の研究は農業にも直結しています。特に、帯広畜産大学は十勝という一大農業地にあって、農業試験場、企業、研究所と様々な共同研究が数多く進められていて、私たちの研究結果が応用面で貢献できるということを実感できます。
中林先生からのメッセージ
いろいろな内容を“面白いから”というよりは“やらないといけないから”と詰め込むこともあると思いますが、生物学においては高校までに習う基礎的な部分は大学で学ぶ専門知識の基礎として非常に重要です。特に近年では生物学でも統計学は必須ですし、また分野をまたぐ共同研究も盛んです。私も「もうちょっと真面目に化学や物理をやっておけばよかった」と思うこともよくあります。学んだことをどのように生かすかは、自分次第。必要なときに勉強しなおしつつ、よりよく使っていければ、と思います。
また、全く関連しないと思っていたことが「え、こんなところでこのようにつながるの?」ということも意外とあるものです。ですから、志望している学部に関連することだけでなく、幅広く視野を広げていろいろなことに興味を持ってもらいたいです。
帯広畜産大学 畜産学部 植物生産科学ユニット
https://www.obihiro.ac.jp/plant-prod-prg
中林 一美先生の研究
https://www.obihiro.ac.jp/facility/crcenter/seeds/59931










