大阪大学 人文学研究科 准教授 宮下 遼先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

オスマン帝国期から現代トルコまで
今昔の文学作品を通して
人々の日常生活や心性に迫る

大阪大学 人文学研究科 准教授
宮下 遼 先生


きっかけは未知の世界への興味、世界帝国への憧れ

私はトルコの文学と歴史を研究しています。高校の頃からどこか外国のことを勉強してみたい、どうせ学ぶなら他の人が知りもしないような未知の世界のことをやってみたい、と考えていました。それが私にとってはイスラーム文化圏でした。宗教がかくも現代人の生活を強く規定する世界に想像がつかず、わくわくしたのはもちろんですし、世界史便覧の類をめくると古代のローマ帝国に比肩するほどの領土を、しかも数百年にわたって治めているオスマン帝国という国があったことを知り興味をもちました。私が中・高等教育を受けた1990年代はインターネットもあまり普及しておらず、なかなか視覚的なイメージを得ることができませんでしたが、それがかえってイスラーム世界最後の世界帝国に対する憧れを掻き立てたものです。そこで割とすんなりとトルコ語とイスラームの宗教や文化を学べる大学に進もうと決めました。

数百年のスパンでトルコの社会変化を追う

内容としては、トルコ文学(史)や社会史と呼ばれる研究分野で、ある時代、ある地域に生きた人々の日常生活の様子や精神構造(心性)を、当時の文学作品を手がかりに解き明かそうというものです。主にオスマン帝国期(1299-1922)の帝都イスタンブールの人々を研究対象にしていますが、同時に現代トルコの小説の翻訳を通して、ここ100年ほどのトルコの社会変化にも関心を寄せています。前者の場合は言語的にはオスマン・トルコ語と呼ばれる高踏的な書き言葉で書かれた詩歌を、後者は現代トルコ語の散文をそれぞれ扱うので、同じトルコ語文学品に触れながらも、数百年のスパンで変容してきた美意識や感性、そして人間性に触れることができます。

現代とは異なる常識や現代に通じる心根を垣間見る楽しさ

この研究のやりがいを一言でいえば、現代人とは異なる精神と知識体系を持つ人々について知る楽しさです。オスマン帝国期に書かれた書物を紐解くと「奴隷にするのに最も優れた人種はルーム人(今のギリシア人)、ついでセルビア人である」とか、「このモスクの周辺にはアヘンを出す珈琲店が多く、いつも修道僧がたむろしている」とか、現代の感覚からすると割ととんでもないことが書かれているかと思えば、「宴会でお酌をする美少年に言い寄る者は犬に食われるべきだ」とハラスメントが糾弾されたり、「人と話す前にニンニクを食べるのは正しい信徒のすることではない」とやけに真面目にマナーが説かれていたりと、現代の私たちと通じるような心根を垣間見ることもできて、飽きるということがありません。

宮下先生からのメッセージ

皆さんは「人間はみな個性を持ち、なおかつ平等である」という国連憲章に記された基本的人権の在り方に疑問を持たず暮らしていると思います。もちろん私も21世紀を生きる人類として憲章が謳う理想には深く共鳴していますが、それが西欧発の「近代化」という全球的な現象によってここ200年ほどの間に決められたルールの一つに過ぎないということも承知しています。近代化以前の世界には、現代とは全く異なったルールに則りながらも、しかし長期間にわたり平和と共存を実現した社会の例がいくつも見られます。新しいから優れている、古いから劣っているということではなくて、この世界には自分たちが既知のものとするのとは異なった「常識」も併存し、なおかつ現代人の目には奇異と映じるその常識にこそ拠りながら、案外とうまく社会が運営されていたわけです。今ここにいる自分とはまったく異なった世界観を有する人が厳として存在し、そこに優劣はないのだという事実を体験することは、他者理解への大きな一歩にもなるように思います。大学は自由な学びの場でありますから、皆さんも自覚的に「非常識」になって、自由な精神で世界と相対してみてください。

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