龍谷大学 文学部 歴史学科 北野 信彦先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

文化財は先人たちが残してくれたアイデンティティー
大切な歴史の記録を100年後の未来まで受け継ぐために

龍谷大学 文学部 歴史学科 教授
北野 信彦 先生


文化財は多くを語らない歴史の証言者

私の研究分野は、「文化遺産学」という歴史研究の一つのジャンルです。「文化遺産学」とは、先人たちがそれぞれの時代や地域で行ってきた「文化」を形として表したモノ=物的証拠を研究の対象としています。いわゆる「文化財」について研究していると言うとわかりやすいでしょうか。文化財は単なる過去の物ではなく、それぞれの時代と地域の文化の諸要素がよくわかる代表としての歴史や文化の証言者なのです。文化財は「モノ」なので歴史のなかでの勝者も敗者もない代わりに、文字記録のように歴史のあれこれを多くは語ってくれません。いかに丹念に調査研究して、先人たちの生活や文化、政治や経済、社会の在り方や自然環境との関わり合いのなどの様々なリアルな姿を解明するかが大切です。それゆえに、大学における文化遺産学の研究分野には、「考古学」、「美術史」、「建築史」、「民具学」、「文化的景観学」など多岐にわたるジャンルが含まれます。

傷ついた文化財をケアするドクターとしての仕事

私自身は各種文化財の「保存修復科学」を専門としています。わかりやすく言えば、傷ついた文化財をケアして延命措置を図る文化財の医者(ドクター)の仕事です。文化財の保存修復科学とは、①モノには直接触れず周りの環境(温湿度や生物被害、紫外線や大気汚染物質など)を整えてモノの延命措置を図る「保存科学=人間の医者では内科の役割」、②傷みが激しく実際にモノに触れて直す「修復技術=同じく外科の役割」、③モノである各種文化財の材質・技術・構造・劣化状態を知るためにサイエンスの力を応用する「文化財科学=同じく臨床検査の役割」の3つの役割を合わせた造語です。近年では④自然災害で傷んだ文化財を救い出し少しでも早い段階でケアする、もしくは災害被害のリスクを少しでも少なくする減災・防災も視野に入れた「レスキュー事業=同じく救命救急の役割」なども大切になってきました。
現在では国宝や重要文化財などの文化財建造物の修理を行う際、わずかでも塗装彩色の痕跡がある場合には、まずはその痕跡を科学分析して昔の材料や技術の歴史的な変遷を客観的なデータとして解明し、可能であればその材料と伝統技術を再現した塗装彩色の修理が行われます。私は「文化財建造物の塗装彩色修理」の専門医の立場から、修理技術者の方が使用する伝統材料や技術の選定に修復チームの一人として参画しています。これまでに、平等院鳳凰堂や日光東照宮陽明門、嚴島神社社殿、本願寺唐門さらには比叡山延暦寺根本中堂など、数多くの国宝や重要文化財の平成期~令和期の塗装彩色修理に関わってきました。きれいに塗りなおしなどの修理が完了した文化財建造物には国内外の観光客の方も大勢訪れてくださるので、地元の活性化にも貢献できますし、今後、このような文化財建造物を好きになってくれる若い世代も増えるかもしれません。
また、修理作業時にはモノに近づくことが可能なので、欄間などの彩色木彫の三次元計測を行い、取り込んだデータに分析調査して分かった顔料や彩色技術を用いた造営当初の華やかな時代の姿を復元したレプリカや画像の作成も行いました。この一連の作業を通して、かつての煌びやかな寺院や御殿などの文化財建造物の姿を博物館展示資料として活用する取り組みなども行っています。

先人たちが守ってきた文化財の
バトンをつなぐ誇りとやりがい

小学生の時に、本で古代エジプト文明の話などを読んだり、NHK大河ドラマなどで戦国武将の雄姿を見たりして歴史の分野が好きになりました。歴史小説や時代劇には人間ドラマとしての面白さがありますし、古代文明のロマンには知的好奇心のワクワク感があります。大学進学時には自分の“好き”に正直に史学科を選びましたが、人と同じように歴史や考古学を研究するのではなく、研究対象となる文化財自体を細かく知るための科学的な処方を応用した「文化財科学」や、専門とする人が少なかった、文化財を守り伝えて次世代に継承する実務としての「保存修復科学」の道に進みました。
この分野は、過去のモノを過去の事例として研究するのではなく、先人たちが私たちに残してくれた貴重で大切な文化のアイデンティティーそのものを、100年後の未来に守り伝える大切な未来志向の仕事です。江戸時代→明治期→昭和期まで大切に残されてきた文化財をリレー方式で未来に伝えるための平成~令和期の現在、歴史を繋げるための修復作業を担ったプロジェクトメンバーの一人として、自分自身に誇りとプライドが持てるやりがいのある仕事と考えています。患者さんである文化財自体に直接触れて調査してケアする機会が多いので、他の歴史学の研究者よりいち早く多くの歴史事象を舞台裏から知ることができる有利な立場でもあり、新たな歴史的な発見に遭遇する可能性も高くなります。歴史好きの私としては、この点が歴史研究をするうえでも最大の面白さだと思います。

北野先生からのメッセージ

各種文化財の保存修復科学の分野は、研究者が主役ではありません。主役はあくまでも歴史の証言者である文化財自体です。確かに一般的には舞台裏の黒子の存在とも映りますので、自分が主役になりたい人には物足りないかもしれません。正直、地味で粘り強い体力勝負の「現場百回」の分野ですが、皆さんが「本当に自分は歴史が好きだ」という気持ちとやる気があれば、歴史の証言者である貴重で大切な数々の文化財を私たちの世代で無くさないよう、次の世代に守り伝える現場に直接立ち会える有意義な仕事なので、この実学的な調査研究分野はきっと楽しくやりがいのある専攻となると思います。

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