埼玉大学大学院 人文社会科学研究科 加藤 有希子 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

美しい! 心が動いた、その理由を知りたくない?
―― 感性を言葉にする学問「美学」

埼玉大学大学院 人文社会科学研究科/教養学部 教授
加藤 有希子 先生


うまく説明できないけれど
確かにある感覚を説明してみよう

私は「美学/感性学」という、哲学の一分野を研究しています。この分野について、18世紀の哲学諸派の1つ「ライプニッツ=ヴォルフ学派」は、「はっきりと感じられるけれど、その理由をうまく説明できないもの」としました。例えば、何かを「美しい」と感じた時、その気持ちはすごくはっきりしていて、明確なものです。しかし、なぜ美しいと感じたのか、その理由を述べようとするとよく分からない。「黄金比だから?愛着があるから?」などと考えてみても、「じゃあ、黄金比だと何で美しいの?そもそも何で愛着を感じているの?」というふうに、答えが分からなくなってしまいます。このように「説明できないけれど、確かにある感覚」を、あえて学問的に説明しようとするのが「美学」なのです。説明できないものを説明しようとするのですから、「美学/感性学」というのは、矛盾を抱えた無理のある学問かもしれません。

数学や自然科学の世界では捨て置かれる
“ただ一度きりの奇跡”をくみ上げる

しかし、世の中には、数学や自然科学のように明確に説明できるものばかりではありません。私は、そうした「明確ではないもの」や「自明ではないもの」に関心をもっています。数学や自然科学の世界では、「普遍性」や「再現性」、すなわち「いつでもどこでも同じ結果が得られるもの」が大切にされます。でも私の関心は、「この世でただ一度しか起こらないこと」「例外的なこと」「奇跡のようなこと」といった、科学的な考え方では捨て置かれるものにあるのです。判例にしばられず、直観的な「感性」から出発する「美学/感性学」は、そうした特別なことを、学問として考えることができる、数少ない分野ではないでしょうか。

星や宝石、「美しいものが好き」から学問の道へ

私は小さい頃から美しいものが好きでした。『星の一生』という、綺麗な星々を載せた図鑑や、宝石売り場の美しい宝石を食い入るように見ていました。母が陶芸をやっていたこともあり、美術館などにもよく連れていってもらいました。絵もわりと上手だったことから、美大に行ってアーティストになりたいと思っていた時期もありました。「美学」という学問へ進むことになったのは、高校生の頃に数学を習っていた先生が「芸術が好きなら『美学』という学問もあるよ」と教えてくれたことがきっかけでした。進学した大学で学問に夢中になった私は、その後、大学院に進み、アメリカ留学などを経て、長い年月をかけて大学教授になりました。

学問の入口は、あなたの心。
常識にとらわれず、自分に正直になれる。

「美学」の面白さは、「直感」を生かせることです。「美学」は感性の学問であり、自分の気持ちに正直になれるのです。学問では、いろいろな理屈を考えますが、そのとき「直感的に理解したこと、感じたこと」を無視できません。先にも述べましたが、「この世でただ一度しか起きないこと」「奇跡みたいなこと」は、数学や自然科学では説明できません。そうしたものをくみ上げ、向き合い、自分の直感に問いかけて答えを見つけることは、「美学/感性学」という学問でしかできないことです。多くの学問は、「すでに分かっていること」「常識的に是とされているもの」を追認することを仕事にしています。例えば、統計学的な学問の多くがそうかもしれません。しかし「美学/感性学」は、「統計」といった多数の意見の反映ではなく、自分の気持ちを問いただし、「本当にそうなのだろうか?」ということから出発しています。つまり、世間一般の常識や習慣では説明できないものを扱える。それが「美学/感性学」という学問の魅力なのです。

加藤先生からのメッセージ

大学受験は夢を実現するための道具であり、そこはゴールではなく出発点。その先に広がる壮大な学びの第一歩です。私自身、第一志望の大学には届きませんでしたが、進学先の大学が、めくるめく学問の世界に導いてくれました。皆さんに言いたいのは、ご縁があった大学を大切にしてください、ということです。日本は教育システムがしっかりしているので、どの大学にも必ず立派な研究者・大学教授がいます。そして、各々がその分野の専門家であり、人生の先輩です。そうした方々の知を吸収し、願わくは、それを乗り越えるまでが大学生の仕事です。自由な学びは、あなたを自立させ、人生の長い旅路を導いてくれるでしょう。世界が混乱する今だからこそ、あなたの存在を真に強くするには、学問が必要です。学問こそが、私たちの根源的な幸福、いわば「魂の充足」を支える重要な一翼を担う営みなのです。

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