滋賀大学 教育学部 篠原 雅史 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

ひとつの問題に年単位で向き合い
構造の美しさを数学のコトバで表現する

滋賀大学 教育学部 准教授
篠原 雅史 先生


「球面に12個の点を配置するときどのように配置すればよいだろうか?」

数学の中の、空間における点の配置問題について研究しています。例えば、「球面に12個の点を配置するときどのように配置すればよいだろうか?」「地球上に12個の観測地点を設置するときにどのように設置すればよいだろうか?」と言ってもよいでしょう。当然、これだけでは条件が足りず、数学の問題として正解にたどり着くことはできません。
正多面体とは、面が“1種類の正多角形からなり、各頂点に集まる面の枚数が同じ”多面体です。その意味で正多面体は、面に「条件」を与えた序列の中では一番キレイで最良と見ることができます。その次の階層にはキレイさを少し妥協した、「2種類以上の正多角形からなる多面体(半正多面体)」や「1種類の正多面体からなるけれども点の周りに集まる面の枚数が違う多面体(整凸多面体)」たちがいます。
また、正多面体の「面に関する条件」の代わりに、「できるだけ離れるように点を配置したい(符号的問題)」、「球面全体をよく近似できるように配置したい(デザイン的問題)」、「2点間の距離の種類をできるだけ少なくなるように配置したい(距離集合的問題)」など、別の条件を付けて点配置をみることもできます。正二十面体の12点の配置はこれらの条件のものでも共通して最良な配置になっています。
このように、構造の美しさを数学のコトバで表現することが研究の目標です。

平面上の4点の距離を考えた時に、距離の種類の少ない点の配置は?

具体的な問題を挙げてみますので是非一緒に考えてみてください。
平面上に4点おき、出てくる距離を考えます。4点の中から2点を選ぶ選び方は6通りあるので、それらが全て異なるとき6種類の距離が出てきます。ここで、出てくる距離の種類の少ない点の配置を考えましょう。全ての距離が等しいとすると、それは正四面体となり、平面に実現することはできませんので、平面上の4点は少なくとも2種類の距離を持つことになります。それでは、2種類であるとき、どのような点の配置が考えられるでしょうか?例えば、辺の長さ a の正方形の4頂点は、a,√2 a の2種類の距離を持ちます。また、正三角形にその中心を加えた4点も2種類の距離を持ちます。他にもいくつかありますので(合計6つある)、探してみて下さい。また、全て見つけたと思えたら、それで全てであることを証明してみて下さい。さておき、ここで出てくる点配置は“距離の個数”という尺度で“よい”点配置であるといえます。正多面体はこの尺度でもよい点配置であることがわかっています。特に、最後の難関であった、正十二面体の問題「3次元空間で5種類の距離を持つ点配置で最大の頂点数をもつものは正十二面体に限られる」ということを2021年に解決しました。

苦手科目を避けて一度は別学部に入学したものの
数学議論に魅了されて再受験を決意

小さい頃から数学は好きだったのですが、大学は苦手な社会がセンターで不要だった、数学を専攻しない別の学部(工学部)に入学しました。しかし入学後に履修した数学(線型代数学)の授業で抽象的な数学議論に魅了されて、退学と再受験を決意。紆余曲折ありましたが、数学を専攻する学科に入学することができました。
私の好きな定理の一つにラムゼーの定理というものがあります。地球上のどの6人を選んでも、その中に互いに知り合いの3人か、互いに知り合いでない3人がいるという定理です。定理の主張自体にとてもインパクトを感じました。自力で証明しようと、数日かけて、全てのパターンを調べて証明しました。それはそれで達成感はあったのですが、実は、その証明は数行で行うことができます。そのエレガントさにとても惹かれました。

扱う問題は素朴なだけに奥深い
解く過程に面白さが詰まっている

自分の研究は、問題の素朴さが一番の売りです。素朴なだけに一般論が通用しないことが多く、道具を作りながら進めていく必要があります。そのプロセスに面白さを感じます。無限に考えられる可能性を、いかにして有限の話に持ち込めるかがキーになってくることが多いです。そこでの上手い表現方法を見出すことが面白いです。
また、混沌の中に秩序を見出していくことに面白さを感じています。砂金採りのように、無数にある砂の中から本物を見つけていくようなところも面白いです。
多くの場合、問題を解くのにタイムリミットはありません。先に解かれてしまったということもあったりしますが、年単位で問題を解決することも少なくありません。そういったタイムスパンにとても心地良さを感じています。

篠原先生からのメッセージ

数学ではよい問題とじっくりと向き合うことが大切であると考えています。私自身この問題に出会えていなかったら数学者になっていなかっただろうな、と思う問題がいくつかあります。受験では量をこなすことも重要ですが、たまには1つの問題をじっくりと一週間くらい考えてみてはいかがでしょう。問題に愛着がわいて、数学の見方も変わってくると思います。

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