上智大学 国際教養学部 国際教養学科 ジェームズ・ファーラー 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

「よい人生」とは何か?
フィールドワークで調査する、共感の学問としての社会学

上智大学 国際教養学部 国際教養学科 教授
ジェームズ・ファーラー 先生


ローカルな物語をグローバルな視点へ

これまで数多くの研究テーマに取り組んできましたが、そのすべてに共通するのは一つ。「人びとはどのように自分の人生に意味やつながりを見出すのか」という深い関心です。
たとえば、中国の若者が恋愛や結婚にどのような意味を見出しているのか、日本の小さな店の経営者がどのように自分らしい「よい人生」をつくり出そうとしているのか。そうした人間の営みの根底にある問いを追究してきました。
現在は、東京の地域社会に根ざした小さな飲食店が、文化の壁を越えて、どのように人びとを結びつけているのかを研究しています。自らコミュニティに参加して研究するエスノグラフィー(参与観察)という方法を用い、移民のシェフや外国人経営者が日本や世界の都市社会にどのような影響を与えているかを調べています。最近では、こうした地域の飲食店を人と人とのつながりの場所として、コロナ禍のような危機の中でも地域を支える「社会的インフラ」と捉え、注目しています。
また、食を通じたグローバル化の研究も長年続けており、日本食が世界各地に広がっていく過程や、その変容を追ってきました。さらに、東京・西荻窪を題材にした二言語の公開民族誌プロジェクト「西荻町学」を運営し、地域の食文化と人びとの日常を発信しています。 研究・教育・社会発信を結びつけ、ローカルな物語をグローバルな視点へとつなぐことが私の研究の目的です。

出会うすべての人が、私にとっての先生

私は、人生の大半を母国の文化圏の外で過ごしてきました。現在の学問的な関心も、異文化での経験や葛藤がきっかけです。もともとアメリカ南部の小さな町で育った私は、思春期のころから異なる文化への関心を抱いていました。そして、大学時代にドイツに留学したことで、「世界にはこんなに多様な生き方があるのか」と視野が広がりました。その後、アジアを旅するなかで中国の哲学や文学、言語に魅せられ、台湾で学び、博士課程では上海でフィールドワークを行いました。1990年代の中国社会の急速なグローバル化と道徳観の変化を目の当たりにし、人びとが価値観の転換をどう生きるのかという問いが、私の生涯のテーマの原点になりました。
日本に来てからも同じ問いを追い続けています。日々の暮らしの中で、人びとが食やサービスを通してどのように「思いやり」や「創造性」、そして「自分らしさ」を表現しているのかに、深い魅力を感じています。出会うすべての人が、私にとっての先生です。

知識は本の中だけではなく、街やカフェや会話の中にある

研究の一番の喜びは、人と人とのつながりを感じられる瞬間です。料理人や学生、地域の人びとに話を聞くたびに、新しい視点をもらい、その物語を共有することで社会に還元できればと思っています。社会学とは、分析だけでなく共感の学問です。人びとの人生を、その文脈の中で理解するのです。
また、フィールドワークの経験を授業に生かすことにも大きなやりがいを感じます。学生たちは「よい人生」や現代社会の幸福について考え、実際に東京の街に出て観察やインタビューを行います。その過程で「知識は本の中だけでなく、街やカフェや会話の中にもある」という気づきを得ます。その発見の瞬間――世界の見方が変わる瞬間――に、教育と研究がひとつになります。

ファーラー先生からのメッセージ

高校で身につける力の中でもとくに「批判的思考力(クリティカル・シンキング)」「好奇心」「文章力」は、その後のすべての基盤になります。知識は調べれば得られますが「好奇心」は簡単には教えられません。大学では、当たり前を問い直し、日常の中に意味を見出す力を育てます。
私の授業では、アリストテレスやマルクスを読みながら、自分の生活を振り返ったり、街で小規模なフィールドワークを行ったりします。観察し考える習慣を持つことは、学問だけでなく、どんな人生を歩む上でも大きな力になります。学びの目的は、知識そのものではなく「問い続ける姿勢」にあります。大学は「世界を広げる場所」です。日本にいても海外に出ても、大学生活は自分とは違う人や考え方に出会う絶好の機会です。完璧な計画を立てることよりも、自分を驚かせる経験に心を開いてください。迷うことこそ旅の醍醐味であり、孤独を感じることは新しい友情への入口です。
そしてこの旅で大切なのは「好奇心」「共感」「開かれた心」です。人の話に耳を傾け、観察し、理解しようとする姿勢があれば、きっと世界は広がります。ときには誰かを助け、ときには誰かに助けてもらう。そんな相互の支え合いの中で成長していけるはずです。そしてもうひとつ大事なのは、少しの勇気です。失敗を恐れずに、「大丈夫、まだやれる。さあ、行こう!」と笑って言える自分でいてください。

(取材日:2025年10月)

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