Zoomで話すよりも
アバターとして話す方が会話がはずむ?!

早稲田大学 人間科学部 人間情報科学科 大学院人間科学研究科 感性認知情報システム研究領域 教授
市野 順子 先生


バーチャル空間で心理カウンセリングが行われる時代が来るかも?

情報科学またはコンピュータ科学(英語では「Computer Science」)は、コンピュータに関する学問を指し、原理を明らかにしようとする科学の側面と、効率化をめざす工学の側面の、両方の側面をもちます。ここで言うコンピュータには、パソコンやスマホなどのハードウェアと、ハードウェア上で動くソフトウェアの両方が含まれます。
私の専門分野は、情報科学の中の、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(Human-Computer Interaction、以降HCI)という学問領域です。HCIは、人々がコンピュータをどのように使うのか、どのような技術開発が人々のコンピュータ利用を支援できるのかについて、人間とコンピュータのインタラクション(相互作用)のあり方を探求します。今から40年ほど前にパソコンが登場し、コンピュータが専門知識を持たない一般の人々が使う道具になった結果、HCIという学問領域が誕生しました。今やコンピュータは社会のあらゆる部分に組み込まれ、人々の日常生活に欠かせないものになり、HCIの重要性は飛躍的に高まりました。HCIの研究成果は、さまざまな形で皆さんの生活に広く応用されています。
HCIと一言で言っても多種多様な研究テーマがあり、私が取り組んでいる主な研究テーマは、人々のコミュニケーション(例えば、インフォーマルなおしゃべりや、フォーマルなビジネス会議)をコンピュータで支援することです。近年は、バーチャル空間でのアバターを介したコミュニケーションの研究を行っています。バーチャル空間は、コミュニケーションをとっている人々の間で交換される非言語情報(外見、視線、ジェスチャなど)が多く、リアルタイムに環境を操作したり再構築したりできるため、コミュニケーションのための道具として将来性があると考えています。最近行った研究では、Zoomなどのビデオ会議よりもバーチャル空間、特に外見が本人に似ていないアバター、で会話をした方が、自己開示の程度が統計的に有意に高く、さらにそのことをユーザー自身は自覚していない、という興味深い知見が得られました。自己開示は心の健康と密接に関わるため、得られた知見を応用し、例えばバーチャル空間で動く心理カウンセリングアプリを開発することができます。

コンピュータを使いこなせない場合、
使いこなせない側が悪いのか

HCIの研究の進め方は、人々がコンピュータをどのように利用しているのかを観察・測定し、彼らが直面している困難を解明し、それを解決する手法や技術を考案・開発し、効果を検証するというのが基本です。人間は柔軟性が高い生き物であるため、コンピュータを使い始めたときは困難に感じ、実際に悪影響や非効率があったとしても、やがて順応し困難と感じなくなります。またテクノロジー至上主義とも言える現代社会では、多くの人は、直面した困難の原因がコンピュータ側にではなく、それを使いこなせない自分側にあると考えがちです。このようなことから、一般の人々は、コンピュータ利用に際して自分が直面している困難やその原因を認識していることは少なく、専門家が解明する必要があります。同様に、困難を解決するための手法や技術を考案する場合も、一般の人々が自らの知識を超えて発想することには限界があるため、専門家が幅広い知識を応用して提案する必要があります。
人間の脳は複雑で、外界からの情報をどのように処理しているのかまだ解明できていないことが数多くあります。そのような人間を研究対象とすることは簡単ではありませんが、だからこそやるほどに発見があり、面白いと思います。

市野先生からのメッセージ

ある一冊の本や一人の研究者との出会い、といった運命的なきっかけから将来の進路を決められるケースばかりではありません。私はそのようなケースとは対照的に、学部生や大学院生のときに遭遇した先生や論文、企業在職時にシステム開発業務を通じて抱いた疑問など、いくつもの小さな偶然や選択が積み重なって現在の職種、専門分野、研究テーマにたどり着いたと考えています。このようなケースであっても、今いる自分の状況から何かを学びとり、疑問や興味を見つけ、それを探求することで、いずれ進路は絞れてくると思います。

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