医師が提供できる「最善の方法」を増やすため
皮膚科医を経て自己免疫研究の道へ

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野 教授
沖山 奈緒子 先生


自分で自分を攻撃してしまう自己免疫を
本質から効率的に止める方法を求めて

免疫アレルギー学のうち、特に自己免疫という現象に軸をおいて研究しています。具体的には3つのテーマについて病態解明と新規治療法開発を進めています。3つのテーマは、
(1)筋肉の炎症により筋肉に力が入りにくくなったり、疲れやすくなったりする病気である皮膚筋炎
(2)白血病などの血液悪性腫瘍の患者さんが骨髄移植を受けたとき、移植された骨髄から作られた白血球が、移植を受けた人の臓器を異物と見なして攻撃し始める皮膚移植片対(へんたい)宿主(しゅくしゅ)病と皮膚線維化疾患
(3)がん治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬に伴う免疫関連副作用
です。それぞれ詳しくご説明します。

(1)皮膚筋炎とは、免疫システムが自分自身の正常な細胞や組織に攻撃を加えてしまう全身性自己免疫疾患です。全身の血管や皮膚、筋肉、関節などに炎症が起こる病気である膠原病(こうげんびょう)の一つです。膠原病には様々な疾患がありますが、その病気特有の、自己に対して反応するようになってしまった抗体である特異的自己抗体が血液検査で見つかることが多く、診断を下すときの大きな根拠にもなります。皮膚筋炎には大きく6つの特異的自己抗体があるのですが、同じ皮膚筋炎でも、その自己抗体ごとに症状が違います。しかし、一口に皮膚筋炎、さらに皮膚症状のない多発性筋炎もまとめてひとくくりに語られてしまうことが多く、なかなか病気の本質に迫れずにいました。私の研究室では、この自己抗体ごとに別のマウスモデルを新しく確立し、それぞれの病態の違いを見出すことと、患者さんのデータと併せながらモデル動物の研究も重ねることで、その患者さんに合った治療法選択を開発することを目標に実験をしています。

(2)移植片対宿主病の症状は主に皮膚、腸、肝臓に出ます。人工的な自己免疫疾患とも言える病気で、我々の研究室では、アメリカ国立衛生研究所で確立されたマウスモデルを用い、その人工的自己免疫反応が皮膚でどのように起こっていて、それを効率的に止める方法はないかを探索しています。さらに、この病気が長期化すると、皮膚が線維化して硬くなってきます。皮膚が線維化してしまう病気には強皮症などもあり、自己免疫反応を基盤とした皮膚線維化機構を解明することで、さらに広い疾患の治療法開発に結び付くことを目指しています。

(3)私たちの身体の中では、免疫が異物(病原体など)を攻撃して、病気を防いでいます。しかし、がん細胞には、免疫系細胞が異物を攻撃しないよう指示を出して、免疫機能にブレーキをかける仕組み(免疫チェックポイント)があります。本庶佑先生が、免疫チェックポイント分子PD-1の発見によりノーベル賞を受賞しましたが、現在、医療においては、このPD-1を遮断することでがん免疫を活性化する免疫チェックポイント阻害薬が、様々ながんの治療に使われています。ただこの薬はがん免疫を増強する一方で、正常な臓器に対しても自己免疫反応を増強してしまうことがあり(免疫関連副作用)、これも人工的な自己免疫疾患といえます。最も多いのが皮膚炎で、他に肝炎、腸炎、肺炎、甲状腺炎などが出てきます。我々の研究室では、皮膚免疫関連副作用について患者さんの皮膚組織の一部を採取して解析したり、遺伝子改変マウスを用いて詳細な機構の解明を行ったりしています。特に乾癬(かんせん)様(よう)皮膚炎と言われる皮膚炎の機構を解明しましたが、他のタイプの皮膚炎も起きてきますので、その病態解明にも取り組むとともに、さらに、マウスモデルでは、肝炎や腸炎の機構解明にも研究を拡大しています。

現場で最善を提供する臨床医から
「手持ちの最善の方法」を増やす研究の道へ

大学卒業後、まずは臨床医として様々な病院に勤務して経験を積みました。臨床医は、患者さん一人一人に向き合い、手持ちの最善の方法を提供し、その人にとってのベストのアウトプットを目指すことの繰り返しで、それは大変やりがいのあることです。一方で、「手持ちの最善の方法」が最大値でもありますし、自分は本当に「最善」を知っているのかという疑問も持ちました。治療法選択の根拠をよりよく理解したい、我々医師が持つ「手持ちの方法」を自分の手で増やす側の仕事もしてみたい、と考えて、医師になって6年目より大学院博士課程に進み、研究を開始しました。

「患者さんのため」+「研究自体の楽しさ」がモチベーション

皮膚科医として臨床をやっていく中で疑問に思ったことをテーマに研究しています。膠原病は皮膚症状があることが一般的で、皮膚科医としての立場から、この全身的自己免疫疾患の謎を解きたいというのがきっかけです。現在、自己免疫疾患では、ステロイドをはじめとして「免疫を全部抑えてしまう」治療法が主体で、病気が良くなっても、免疫が下がってしまうことによって他の感染症などに脅かされることになります。なので、より病気ごとに特異的な治療法の開発が、患者さんの人生を脅かさずに病気を制圧することにつながります。先に挙げた免疫関連副作用も、悪性腫瘍を治療する過程で出てくる問題であり、これらの制圧法を見つけることが、治療法のボトムアップにつながると考えています。
一方で、研究は、純粋に科学として面白いものです。美しい理論立てをして、納得のいく計算式を立て、答えが出た、という楽しさや、自分が見出したことを人に伝えたいという気持ち、こういったシンプルなモチベーションは、医師として患者さんのためにという気持ちと両輪になって、研究活動への後押しになってます。

沖山先生からのメッセージ

大学は高校までとは異なり、自ら求め、自ら切り開く人が自主的に集う場です。ここで学ぶことが人生を通したテーマになるかもしれませんし、真に自立した人生のスタートラインでもあります。大学受験は、その場に立つための資格を得る戦いですので、その先を見据えた大きな視点で、今持っている知力を出し切って挑んでいただければと思います。

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