「植生地理学」は時代を超えた壮大な謎解き
過去と現在を知り、研究を未来に活かす

東京都立大学大学院 都市環境科学研究科 地理環境学域 教授
吉田 圭一郎 先生


温暖化によって、植物が「山を登る」

私が専門的に取り組んでいる研究分野は「植生地理学」です。「植生」とは、ある範囲に分布する植物の集団の総称であり、皆さんに身近な「森林」や「草原」なども植生になります。植生地理学では、対象とする植生の地理的な分布を把握して、気候や土壌などとの関わりを明らかにしています。最近では、構成する植物間の相互作用も含めた、植生の成立過程などについても考えています。
私が研究対象としている植生は、山地の森林植生です。山地斜面では、標高が上がるにつれて気温が低下し、それにともなって植生も落葉広葉樹林から常緑針葉樹林、そして森林限界(森林が形成できないライン)を超えて高山帯へと変化します。こうした植生の垂直方向の分布について特に注目して研究を行っています。植生の垂直分布は、20世紀後半以降の地球温暖化による気候変化にともなって変化することが知られています。これまで私は国内や海外の山地を対象に、植生の垂直分布が気候変化に伴いどのように変化するのかを探ってきました。例えば、日本の最北にある利尻山では森林限界が40年で約42m上昇していることを明らかにしたほか、箱根では落葉広葉樹林でより暖かい場所に分布する常緑広葉樹が増加していることを示しました。海外でも研究を行っており、ハワイ島のマウナロアでは40年前に比べて植物の分布範囲(標高)が上昇していることを過去のデータとの比較から示し、アンデス山脈では氷河の後退にしたがって植物の分布域が上昇したことを明らかにしました。
今後も、国内外の山地に見られる森林植生の垂直分布を対象に研究を続け、さらに温暖化することが予想される世界で、植生がどのように「山を登る」のかについて明らかにしていこうと考えています。

すべては中高の地理の授業から始まった

地理学に興味関心を抱いたのは、中学校や高等学校での地理の授業です。教科書・資料集や地図帳などには、世界中の自然環境や人々の生活文化が紹介されています。さまざまな地理的事象を知っていく中で、読んだり聞いたりするだけでなく、そうしたものを自分の目で足で実際に見に行きたいと強く思い、地理学を専門的に学ぶことができる大学に進みました。
植生地理学を研究しようと思ったきっかけは、大学での野外実習です。長野県・北八ヶ岳の縞枯山での植生調査を授業で行ったのですが、森林が縞模様に枯れている特異な景観を見ました。そして、それが自然に起きている現象で時間と共に変化し続けていることに大変な驚きと興味関心を抱きました。そこから、現在行っている森林植生の成立過程や長期変化についての研究へとつながっています。

森林は常に変化している

大学や大学院で植生地理学を学ぶまでは、森林はいつも同じで、あまり変化しないものだと思っていました。しかし、実際には、森林は世代交代を繰り返しながら、数十年~数百年のスケールで絶えず変化し続けています。自分が取得したデータが過去のデータとどのように違っているのかを見つけ、そこから森林の長期的な変化を明らかにすることは、現在の森林がどのように成立してきたのかを紐解く謎解きのようで、大変面白いことだと思います。
現在、地球温暖化により自然環境は急速に変化しつつあります。人々が気がつかないうちに、いつの間にか植生が大きく変化してしまったということが起こるかもしれません。そういうことがないように、今のうちに多くの森林の植生データを蓄積し、予測される気候変化を踏まえた自然環境の保全に活かすことも重要な役割です。つまり、過去との比較から現在を知り、将来に活かすことができるような研究をしていきたいと考えています。

吉田先生からのメッセージ

私たちが暮らすこの世界には、実に多様な自然環境があります。そうした自然環境について興味関心を抱いたら、「なぜ~」とか「どうして~」といった疑問にしてみてください。それを理解しよう、解き明かそうとすることが学びの原点です。これは大学の専門的な学習や研究でも同じです。私たちの身近な生活の中でも、わからないことや不思議なことが満ち溢れています。そうしたものの中から、自分が真に知りたいことや興味関心を抱くものを見つけだし、それを大切にして、進路選択の参考にしてみてください。大学での学びが自分にとってとても有意義なものになると思います。

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