Interview
理学と工学を自由に行き来する研究で
“次世代の情報デバイス”の創出を目指す
東北大学 大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 教授
好田 誠 先生
情報社会に必要不可欠な半導体でこれまでにない情報処理方法を開拓する
私たちが扱っている半導体という材料は、スマートフォンやパソコンなど、現代の情報社会を支える中核的な技術です。半導体はあらゆる電子機器の基盤となっていますが、私たちは“次世代の情報デバイス”の創出を目指して日々研究を進めています。
研究内容としては「スピン」と呼ばれる電子の性質を半導体の中で精密に制御することで、新しいタイプの半導体デバイスや量子技術の実現を目指しています。スピンとは、電子が持つ“磁石としての性質”のことです。電子が持つもう一つの性質である「電荷」は電流の源であり、これまでの電子機器の基本でしたが、この電荷とスピンの両方を同時に活用するのが「スピントロニクス」と呼ばれる新しい研究分野です。私たちの研究の特徴は、スピンの向きを単に「上」「下」として使うのではなく、スピンが空間の中を回転しながら伝わっていくことで生まれる“スピンの波”に着目している点です。このスピン波を情報の運び手（キャリア）として利用することで、これまでにない方法で情報処理ができる可能性が広がっています。波には「重ね合わせ」や「干渉」といった特徴があり、これはデジタル信号とは異なる魅力的な性質です。こうした波の特性を、微細な加工が可能な半導体デバイスに組み合わせることで、複数の処理を同時に行う“並列演算”や、電力消費を抑えた“省エネ型情報処理”が実現できると期待されています。
もともと波の性質は光通信の世界で活用されてきましたが、私たちはその波の原理を電子の世界にも取り入れようとしています。そうすることで、光通信と電子デバイスとの高度な融合が可能になり、これまでにない新しい“光電変換”の仕組みが生まれるかもしれません。
「半導体は産業のコメ」 漠然と興味を抱いていた
半導体という存在には、子どもの頃から漠然とした興味を抱いていました。ちょうど社会科の授業で「半導体は産業のコメ」と教わった時代で、あるテレビのドキュメンタリーで、半導体結晶を“水の重さ”を利用してゆっくりと成長させる様子を見たときには、「最先端の技術の裏に、こんなにもアナログな手法があるのか」と強く印象に残ったことを覚えています。偶然にも、それが東北大学の研究室だったこともあり、自然と東北大学を目指すようになりました。大学に入学してからは、LEDなどの光デバイスに興味を持ち始め、ちょうど大学4年生の時に半導体の電子スピンも知り、それがきっかけでスピントロニクスの研究をはじめました。さらに研究を進める中で、「スピン軌道相互作用」という、電子の回転（スピン）と運動とが結びつく現象に出会い、そこから本格的にスピンの制御に関する研究を始めました。
見えないものを高い精度でコントロールできる
私が研究において面白いと感じているのは、ふだん目に見えない「電子スピン」という性質を、自分たちの手で非常に高い精度でコントロールできるという点です。しかも、そのスピンが波のように空間に広がる「スピン波」という現象を私たち自身の研究で見出し、それを使って今までにない機能や性質を生み出せるというところに、大きなやりがいがあります。誰も足を踏み入れていない未知の分野を、自分たちで切り拓いているような感覚があります。その半導体の中でスピン波を発生させ、制御することができれば、将来的に小型で高性能な情報デバイスに応用できる可能性が広がります。つまり、私たちの研究は、目に見えないミクロな物理現象を明らかにするという“基礎科学”の要素と、それを社会に役立てる“工学的な応用”の両方を含んでいるのです。
こうした研究の魅力は、純粋な物理の面白さを追求しながら、同時にその成果を活かしてまったく新しい機能やデバイスを生み出せる可能性があるところにあります。理学と工学の間を自由に行き来しながら、ダイナミックに研究を展開できる――それこそが、この分野に取り組むうえで最もやりがいのあるところだと感じています。
好田先生からのメッセージ
研究の根本にある発想や考え方というのは、実は驚くほどシンプルな原理から生まれることがあります。そしてそれらの多くは、高校で学ぶ物理や化学、数学の知識と深くつながっています。今はまだその意味や面白さが実感しづらいかもしれませんが、大学で本格的に学び始めたとき、「あの時の授業がこうつながるのか」と腑に落ちる瞬間がきっと訪れます。だからこそ、高校までの学びは、これからの知的な探求の“土台”として非常に大切なものです。また、研究を進めていくうえで大切なのは、これを「面白い」と思える感覚や、一度始めたことを粘り強く続ける力です。ですが、それだけではありません。研究というのは一人で完結するものではなく、多くの仲間と協力しながら進めていくものです。だからこそ、相手を思いやる気持ちやチームで動く力、時には自分がリーダーシップを取る勇気など、人との関わりの中で育まれる力も、同じくらい大切になってきます。これは研究の現場に限らず、社会に出て働くときにも共通して求められる力です。今の段階で、自分の「好き」や「やりたいこと」がはっきりしていなくても大丈夫です。大学には、そんな「好き」を見つけ、深めていける環境があります。そして、自分の興味を世界とつなげる挑戦が待っています。ぜひ、少しでも気になったことには、ためらわずに一歩踏み出してみてください。その一歩が、未来を変える研究につながるかもしれません。皆さんと大学で出会い、ともに未来をつくっていける日を楽しみにしています。
東北大学 工学部 材料科学総合学科
https://www.material.tohoku.ac.jp/dept/
好田 誠先生の研究室
https://kohdalab-material-tohoku.jp/kohda/
東北大学 好田 誠先生
https://www.r-info.tohoku.ac.jp/ja/b29163f7c80eaec43ae4c19a16d631e9.html
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