「文学」を学ぶことで人類の歴史をなぞり
「人間」について考察する

東京大学 大学院総合文化研究科 教授
吉国 浩哉 先生


文学には「正解」がない
作品を読み、どうレスポンスするか?

基本的には私はアメリカ文学の研究者なのですが、大学では、アメリカ文学を中心に扱う授業と、世界のさまざまな文学をつまみ食いする授業を行っています。アメリカ文学を扱う授業ではエドガー・アラン・ポーの「黒猫」や、ハーマン・メルヴィルの「バートルビー」などの古い作品から、J. D. サリンジャーなどの比較的新しめの作品まで、いろいろな短篇小説のなかから毎週一篇ずつ学生と一緒に読み、みんなで作品について議論などしています。世界の文学をつまみ食いする授業でもやはり学生に作品を読んできてもらって、みんなで侃々諤々かんかんがくがくの議論を行っています。こちらの授業では、フロベールやドストエフスキーなど、世界史の教科書に出てくるような作家の作品を読んでいます。他の学問とは違って、文学には「正解」がないので、一方的な情報伝達としての講義をすることはあまりないです。作品を読んで、分析や解釈など、自分自身ユニークな仕方でどうレスポンスするかが文学への向き合い方の基本だと思っています。「正解」がない、といってしまうと、文学を学ぶことの意義がわかりにくくなるかもしれませんが、要するに、できるだけたくさんの文学の本を読むことが、文学を学ぶことでもあるのです。世界史の教科書に出てくるような作品だと妙に高級感を醸し出していて「ムズカシイ」という印象を持たれるかもしれませんが、本を読むこと自体が楽しい経験であることはまず言えると思います。

文学は過去から現在に至るまで
人間に影響を及ぼし続けている

文学の歴史は人類の歴史と同じぐらい長く、どんな「学問」よりも文学の方が古いものです。文学の本をたくさん読むということは、人類が積み上げてきた歴史をつまみ食いすることでもあります。そのことによって、もしかしたら、「人間」とはどのように今まで生きてきたのか、我々が今生きている時代が歴史の大きな流れの中でどんな位置にあるのか、これから「人間」はどうなっていくのか、といった問題について考えることにつながる可能性もないとは言えません。
現代、特に日本では人々が典型的な文学作品を読む機会は減ってきていますが、「文学的なもの」はいまだにその魅惑を失ってはいません。それどころか、この「文学的なもの」――わかりやすい例でいえば、映画やドラマ、アニメや漫画などのポピュラー文化――は、どれも過去の文学作品の伝統を何らかの形で受け継いでおり、現代にまで影響を及ぼしています。つまり、意識していなくても文学の伝統は我々の文化の中にすでに入り込んでいて、ただその「元ネタ」に気付いていないだけなのです。
しかし、「文学的なもの」の影響は楽しいものだけではありません。昨今のポピュリズムやさまざまな形の原理主義の隆盛にも「文学的なもの」の影響はあると思います。一歩引いてみると「ほとんど漫画?」と思うような人間の行動がしばしば見受けられるからです。そこでは、“自身の想像力あるいは自分の作り出した幻想に人間が支配される”ということが起きています。その意味でも、文学を学ぶことが“「人間」とは何か?”を考えることにつながるのだと思います。

「言葉」を使う能力は
人生における大事な能力

直接的には、受験勉強が文学を学ぶことに活かされることはあまりありません。しかし結局の所、我々が頭の中で考えることができるものはすべて「言葉」でできているので、言葉を使う能力が受験はもちろんのこと、人生においてもとても重要です。そして、外国語の学習はとても重要です。外国語を習得することによって、自分の思考を構成する言葉を客観的に見ることができるようになるからです。このような経験は若い人にとってはとても価値あるものになると思います。
日本において文学は大学に入ってから始める学問となっています。大学入学前にすでに読書家である必要はなく、大学入学後にたくさん読めば良いのです。ですが、文学を学ぶために今からできることをアドバイスするならば、国語や英語の長文問題の文章が面白いと思ったら、本やインターネットを使って自分で調べてみると良いのではないでしょうか。

吉国先生からのメッセージ

若いうちは視野を常に広く保って、いろいろなものに興味を持ってほしいと思います。文化や社会など人間が作ったものだけではなく、自然にも面白いものがたくさんあります。今から「やりたいこと」があるのはもちろんいいことですが、若いうちは「やりたいこと」が何なのか自分でもよくわからない方がむしろ普通なので、はじめから食わず嫌いをせずに、いろいろなことを経験してください。

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