富山大学 都市デザイン学部 地球システム科学科 濱田 篤先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

「太平洋の真ん中では、どんな雨や雪が降っている?」
多種多様な降水のメカニズムを見つけ出す研究

富山大学 都市デザイン学部 地球システム科学科 准教授
濱田 篤 先生


雨や雪はどのようにして降るのか

雨や雪に関係する、面白そうなことを探して研究しています。
主な研究テーマは、人工衛星観測を活用した、世界中の雨や雪(まとめて降水)の“降り方”の理解です。同じ雨でも、積乱雲は短く激しい雨を降らせますし、乱層雲は相対的に長く穏やかな雨を降らせます。1つの雲がもたらす雨をとってみても、雲粒が上空で氷として成長し、落ちてくるときに解けて雨になる「冷たい雨」や、上空に到達せずに水のまま成長して雨になる「温かい雨」など様々です。積乱雲が独立して発達すると夕立のような雨になりますし、たくさん集まって組織化すると線状降水帯のような災害級の雨をもたらすことがあります。
このように降水は様々な顔を持っています。どのような降水が、いつ、どこで、どんなときに発生するかを、事実すなわち観測データに基づいて正しく知ることが、降水の仕組みを科学的に理解することに直結しますし、正確な天気予報、ひいては将来の気候予測に繋がります。降水は地球上のあらゆる場所にもたらされますから、その観測も地球上をくまなく覆うようなものが理想的です。代表的な測器は雨量計やレーダですが、これらは基本的に陸上における人の居住域に設置されており、外海上や極域での観測は困難です。そこで登場するのが人工衛星です。人工衛星は宇宙から地球を観測するので、陸だろうと海だろうと基本的には関係なく降水を観測できます。人工衛星は非常に遠く(静止気象衛星「ひまわり」は高度36,000 kmの彼方!)から地球を観測していますので、雨雲の1つ1つを見ることは難しいのですが、膨大なサンプルを集めてくることで、統計学に基づいた知見を得ることができます。
私の主たる興味は雲や降水のマクロな性質にあるとはいえ、それらのミクロな性質、例えば1つ1つの雨粒や雪片の形状も見てみたい、という好奇心も抑えられません。そこで、富山大学で働き始めてからは、降ってくる降水の粒子を自動撮影する装置を使って、特に雪や霙の粒子の大きさや形、またそれらと気温や湿度との関係について調べ始めました。私の住む富山市は、冬場の地上気温が零度前後です。このため、冬の降水が雨(完全に解けた水粒子)や霙(部分的に解けた水粒子)や雪(完全に凍った水粒子)とバラエティに富んでおり、多様な降水粒子を大量に観測するのに適しています。

宇宙から地球の降水を観測できる人工衛星の登場

気象学に興味を持ったきっかけは、中学理科で天気図を描いたことです。担任の先生からラジオ天気図の記入用紙が綴られた冊子をもらって、NHKラジオの気象通報を聞いて描き込んでいました。
私が大学生だった1997年に、熱帯降雨観測衛星(TRMM)という人工衛星が打ち上げられました。TRMMは世界で初めて降水レーダを搭載しており、宇宙から地球の降水を観測していました。いまは全球降水観測計画(GPM)主衛星がその後継機として活躍しています。先に述べたように、人工衛星は宇宙から地球を観測するので、陸だろうと海だろうと、降水を観測できます。TRMM以前にも、「ひまわり」を始めとした気象衛星はありましたが、それらは基本的には雲のてっぺんを観測する(雲の写真を撮るような)もので、その中身がどうなっているかは分かりませんでしたし、降水を直接観測することはできませんでした。TRMMやGPMのレーダなら降水を立体的に観測できます。「太平洋の真ん中や、シベリアの奥地や、サハラ砂漠では、どんな雨や雪が降っているのかな?」という疑問に答えることができるようになったのです。このことは当時の私にとって大きな衝撃であり、人工衛星観測を活用した降水の研究を始めたきっかけになりました。

「観察→問題発見→解決」のプロセスが研究の醍醐味

世に一つとして同じ雲が現れないように、降水も極めて多種多様です。しかしながら、それらは科学法則に従って現れますから、共通する特徴やメカニズムが必ずあるはずです。私は、膨大なデータから共通する特徴やメカニズムを見出し、それを科学的方法で説明できたときに、大きなやりがい(快感!)を感じます。既に知られた問題を解明することももちろんとても大事ですが、観察に基づいて問題そのものを自分で見つけ出し、さらにそれを自分で解決していくことが、科学的研究の醍醐味だと思います。

濱田先生からのメッセージ

科学に限らず、問題解決のためにはさまざまな知識を総動員する必要があります。例えば積乱雲内の上昇気流は、水の相変化にともなう潜熱が空気を暖めて軽くし、浮力を強めて空気を上向きに加速することで発生します。高校理科で言えば、水の相変化は化学ですし、潜熱や浮力は物理です。空気の加速はニュートンの運動法則に基づきますが、これを解くには微分方程式、つまり数学の知識が欠かせません。レーダは電波を用いて観測を行いますから、光学や電磁気学の知識も必要になってきます。
学校で授業を聞きながら「こんなこと勉強して何の役に立つのか?」と思うこともあると思います。私もかつて(今もときどき?)そうでした……。が、ぜひ広く様々な知識を蓄えて欲しいと思います。自分が興味あることや知りたいことを思い浮かべて、それをより深く理解する・解決するために必要なことは何か、と逆算して、学ぶ目的をはっきりさせるのも良いですよ。理科、数学、英語、国語など……頭の引き出しにため込んだ一見無関係な知識が結びついて、目の前にある問題が解決に向かう。実に面白いと思いませんか?

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