原因不明の病気、脳内物質の発見により解明へ
2023年 生命科学部門「ブレークスルー賞」受賞

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長 教授
柳沢 正史 先生


「どうしてすべての動物は眠るのか?」「眠気とは何か?」

睡眠学の基礎研究にはまだ解明されていない2つのビッグクエスチョンがあります。1つは、睡眠中というのは意識を失うことになりますが、そのリスクを取ってまで、どうしてすべての動物は眠るのかということです。もう1つは、眠気とは脳の中でどう表現されているのか、つまり眠気の実体とは何かということです。私たちはそこに少しでも迫れるような研究をしています。 私の研究室で行っているのは、マウスを使ったフォワードジェネティクスという大規模な研究です。マウスのゲノムにランダムに突然変異を入れて、遺伝性の睡眠異常を持ったマウスの家系を作り、遺伝子の役割や機能、それから遺伝子の変異がどういう性質の変異であったのかを詳しく突き止めることで、睡眠制御のメカニズムを探ります。現在は、眠気は人間の脳にあるシナプスで働いているたんぱく質のリン酸化の程度が実体の一つなのではないか、ということを提唱できている段階で、まだまだ道半ばです。

株式会社S’UIMINで社会実装のためのデバイス開発、Pokemon Sleepの監修も

2017年に筑波大学発ベンチャー企業「株式会社S’UIMIN」を起業して、基礎研究を踏まえた、睡眠科学の社会実装研究も行っています。現在、日本には睡眠の問題をかかえている患者さんが1000万人以上いると言われています。一方で、睡眠障害をきちんと診断するためには脳波測定が必要なのですが、これが大変で、検査できるのが年間10万件強くらいなのです。それじゃあいかんだろうということで、在宅で自分自身で睡眠中の脳波を気軽に測れるようなシステムを作って実用化しました。シールのような簡単な電極を頭部に貼って、デバイスを枕元に置いて寝るだけで、クラウドに脳波データが飛ばされて、AIによって自動解析されるというサービスです。今全国のクリニックなど約200ヵ所で使えるようになっています。
また、スマートフォン向け睡眠ゲームアプリPokémon Sleepの監修もしています。2019年ころ、最初お話をいただいた際は「ゲームなんて子どもの睡眠を奪う最大の敵」だと思っていたので断ろうとしたのですが、「ゲームは睡眠を奪うものという常識を覆して、子どもや若者がより眠るようになるゲームにします」と言われてお手伝いすることにしました。なので、このゲームは、睡眠時間が充分に長く、規則的な睡眠を取ることで、つまり睡眠学的に見て正しい行動をすると点数が高くなるようになっています。

食欲に関わる神経伝達物質だと思っていたオレキシンが実は……

私はもともと睡眠研究をしたいと思っていたわけではなく、偶然その道に進みました。テキサス大学のサウスウェスタンメディカルセンターで研究をしていた1998年に、オレキシンという脳内の情報伝達物質を発見しました。最初これがどういう役割を担う物質なのか全く見当がつかず、オレキシンは食欲や空腹感に関与する脳の外側視床下部で作られること、マウスが空腹状態になると生産量が上がること等から、食欲に関係する物質だと思っていました。その仮説のもと、オレキシンを作れないマウスはどうなるのか試してみたところ、オレキシンが作れなくてもマウスは全然痩せないし食欲も減らない。健康で活発でした。それなら、オレキシンの役割は何なのだということで、虚心坦懐(きょしんたんかい)にとにかく行動を観察してみようと、夜行性のマウスを夜間に赤外線ビデオ撮影する実験を始めました。すると、活発に動いていたマウスが突然活動停止する様子を発見しました。その時の脳波のパターンを見ると、なんとレム睡眠のパターンになっていたのです。正常な睡眠の場合、必ず覚醒後にノンレム睡眠が来てレム睡眠に至るのですが、オレキシンが作れないマウスは覚醒後にいきなりレム睡眠が来ていました。これはまさにナルコレプシーという過眠症の症状で、つまりオレキシンが睡眠に関わるということがわかったんです。その後、人間のナルコレプシーの患者さんも実は同じように脳内のオレキシンが欠損しているということが報告され、今まで理由がわからない病気であったナルコレプシーの原因が一気にわかり、拮抗薬の実用化まで進みました。この発見は、スタンフォード大学のEmmanuel Mignot博士とともに、自然科学における国際的な学術賞である「ブレークスルー賞」の受賞対象となりました。

柳沢先生からのメッセージ

研究者として、伝えたいことは4つです。1つ目は、人と違っていることを厭わない、人からどう見られるかを気にしないこと。2つ目は、良い問いを見出すことは、問いを解くことより難しいということ。問題を解くことももちろん大事ですが、問題発見能力が大切です。3つ目は、よく言われていることではありますが、将来一度は外国で暮らそうということです。外に出て初めて見えてくる日本があります。そして4つ目はメッセージというよりも私のモットーなのですが、「真実は仮説より奇なり」ということです。仮説は人間が小さな頭で考えたストーリーで、ついついその通りに主張したいと思ってしまう。でも、仮説通りにならないことも多いのが研究です。そういったときに謙虚にデータを見ることがとても大事です。
睡眠のノウハウでいうと、とにかく寝ること、睡眠時間の確保が大切です。授業中に眠くなるというのは睡眠時間が足りていない証拠です。月から金まで毎日30分ずつ早く寝てみて、翌日の自分のパフォーマンスを見つめてみてください。そうやって自分にとって十分な睡眠時間を見つけて、それを確保したうえで学習スケジュールを組むのがいいでしょう。

関連情報

同じ学科のインタビューを読む

身体麻痺患者が「考える」だけで、伝え・動かす技術「BMI」―脳とAIがつなぐ新しい医療のかたち

大阪大学 大学院医学系研究科 神経情報学 教授 栁澤 琢史 先生

臨床医×病理医の二刀流で、神経疾患の解明に迫る!

愛知医科大学 加齢医科学研究所 神経病理研究部門 教授 岩﨑 靖 先生

発達障害のある人が特性を活かして活躍できる社会のために 治療と社会づくりの両面を整える

昭和医科大学 発達障害医療研究所 所長 准教授 太田 晴久 先生

災害医療~被災地にいち早く駆けつけて、命を救え~

兵庫医科大学 救急・災害医学 准教授 山田 太平 先生

患者の人生を取り戻せ!「痛み」のメカニズム解明と治療に挑む

兵庫医科大学 学長補佐・兵庫医科大学病院 ペインクリニック部 教授(部長) 髙雄 由美子 先生

医学的知識や科学技術で社会の安全・安心を守る

横浜市立大学 大学院医学研究科 法医学 教授 井濱 容子 先生

まだ誰も知らない「答え」を探して 難病の原因を解き明かす

大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 教授
医学系研究科 教授
竹田 潔 先生

医師が提供できる「最善の方法」を増やすため 皮膚科医を経て自己免疫研究の道へ

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野 教授 沖山 奈緒子 先生

脊椎動物の「脳」の基本構造は5億年以上前に成立していた!

兵庫医科大学 医学部 医学科 准教授 菅原 文昭 先生

ブロッコリーに含まれる物質がアルツハイマーの治療につながる?人類の健康に貢献するための「宝探し」

弘前大学大学院 医学研究科 教授 伊東 健 先生

未だ謎の多いからだの構造 解明のカギは細胞に生えているミクロの毛!?

広島大学大学院 医系科学研究科 教授 池上 浩司 先生

「いつ食べるか?」の視点から研究し健康に関する社会課題を解決していく

広島大学 大学院 医系科学研究科 准教授 田原 優 先生

学部から探す

大学の学問系統別にご紹介しています。さっそく興味のある学問から読んでみましょう。

躍進の夏期講習
四谷学院の「ダブル教育」
四谷学院について詳しくはこちら
個別相談会はこちら
資料請求はこちら

四谷学院の夏期講習

ダブル教育とは?

『学部学科がわかる本』冊子版をプレゼント 入学説明会・個別説明会の予約はこちら 入学説明会・個別説明会の予約はこちら
17GJWAZ

ページトップへ戻る