誰もが幸福に生きられる インクルーシブな社会を目指して

筑波大学 人間学群障害科学類 教授
米田 宏樹 先生


障害の有無にかかわらず地域の学校で共に学べる「インクルーシブ教育」の実現のために

2000年代から、障害の有無にかかわらず多様な子どもたちが地域の学校で共に学ぶことをめざす「インクルーシブ教育」が世界的に導入され始めました。日本でも「インクルーシブ教育」の理念を実現するための教育システムが模索されています。
私は、特に、知的障害などの障害から生じる学習上・生活上の困難の度合いが大きな子どもたちの教育(歴史・制度・カリキュラムなど)に関する研究を通して、インクルーシブな社会(ソーシャル・インクルージョン)を実現するための「インクルーシブ教育」を探求しています。歴史的にみると、知的障害のある人たちは、その社会的役割価値を低く評価され、社会参加の面で制限や制約を受けてきたところがあります。特別支援教育・知的障害教育の歴史は、多様な人々を包摂するソーシャル・インクルージョン実現のための思想・理念形成の過程であり、その思想・理念を体現するものが、知的障害のある子どもの教育カリキュラム開発を含むインクルーシブ教育の研究です。
また、インクルーシブ教育ですべての子どもたちやその教育を担う先生を支えるために、学校内での「適切な配慮や支援」の方法や個に応じた評価方法などの研究も求められています。このため、特別支援教育の専門家と関連する複数分野の専門家が協働して対応できるようなインクルーシブ教育の仕組みを考えるために「インテンシブ・ニーズ(集中的・拡大的ニーズ)支援モデルの構築」をテーマに共同研究も始めています。さらにそれらと並行して、学校の先生方がよりよく「特別な教育的ニーズ」のある子どもたちと関わることができるように、先生方の研修システムについても考えています。

バスの中と運動会でなぜ同じ人への対応が変わるのか? が出発点

小学生の頃、バス通学をしていました。同じバス停から通学している特別支援学級の子がいました。私が、バスの中でその子に声をかけると「話しかけるなよ」という友人もいました。でも、例えば運動会の時には、同じ組になったその子に、みんなが声援を送りました。社会的場面や文脈で人の対応が変わることは自分も含めてよくあることではありますが、何がどうしてこうなるのかと疑問を抱いたことを覚えています。高校生になって、進路先の大学をいろいろ探している時に、当時の筑波大学の人間学類心身障害学主専攻(現在の人間学群障害科学類)に目が留まりました。障害のある人を含め、人間全体について考えられる面白い分野だと思ったからです。大学で障害科学と合わせて教育学や心理学にも触れたことで、障害のある子どもも障害のない子どもも、保護者も、そして学校の先生も、みんなが幸せになれる教育を実現できるような研究をしたいと思うようになりました。

学校と教育を考えることは 子どもの笑顔と未来をつくること

学校と教育を考えることは、未来を創ることです。より大きな特別な教育的ニーズのある子どもが教育に参加するための方法や仕組みを考えることは、すべての子どもが、一人ひとり、自分の社会的価値を実感して幸せを感じることのできる学校システムを作ることになります。そのような教育システムが実現できれば、誰もが幸福に生きられるインクルーシブな社会の実現もかなうのではないでしょうか。なによりも、子どもたちの「わかった!」「できた!」「うれしい!」の笑顔を作れることがこの仕事のやりがいです。

米田先生からのメッセージ

「学校って何? 社会って何? 人間って何?」を考えたい人、障害科学、あるいは、特別支援教育の学びの窓から、それらの在り様を探求することができます。ソーシャル・インクルージョンやインクルーシブ教育という言葉で求められていることは、「文化・価値観」を変える具体的なアプローチの開発です。したがって、一つの学問分野だけで解決できることではありません。この複数分野にまたがる社会課題に挑戦してみませんか?
そして、みなさんがアプローチの入口として障害科学や特別支援教育学(筑波大学人間学群障害科学類)を選んでくれれば、こんなにうれしいことはありません。総合大学である筑波大学の環境を活かして、他分野の人との協働に必要な資質・能力も培ってください。
私自身も皆さんの修学を支えられる教授陣の一人でありたいと思っています。新しい未来の学問を一緒に作っていきましょう。

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