Interview
「こっくりさん」「学校の怪談」から、時代の本質を読み解く
東京女子大学 現代教養学部 人文学科 日本文学文化専攻 特任教授
一柳 廣孝 先生
怪異の謎から広がる研究アプローチ
私は、近代以降の怪異を研究しています。怪異とは、常識では説明しにくい不思議な出来事や現象のことで、妖怪、幽霊、怪談、都市伝説などがこれに含まれます。この研究は、それらが本当に存在したかどうかを確かめるものではなく、当時の社会状況や文化的背景の中で、なぜそれらが怪異として認識されたのかを明らかにする文化史的なアプローチです。例えば、1970年代半ばに大流行した「こっくりさん」という霊を呼ぶ遊びを例に挙げます。この遊びは小中学校で禁止されるほど騒動になりましたが、私はいつ頃から始まったのか、動物霊が関わる理由、伝わり方、原理の説明などを調べました。そうすると、世界的な思想運動とのつながり、当時の日本人の霊魂観、現代まで続く理由が明らかになりました。また、1990年代に流行した「学校の怪談」を調べると、子供たちの噂だけでなく、先生や職員の体験談も多く、昔の宿直制度が関係していることがわかりました。こうなってくると、次は学校教育史の視点が必要になり、多角的な検討が求められます。このように、怪異を通じて時代の本質を読み解くのが私の研究の中心です。将来的には、このアプローチをさらに広げ、文学、政治、経済、文化、宗教、民間信仰、伝承などの分野を横断的に探求していきたいと考えています。
文学から怪異へ、漱石作品の意外な言葉が導いた道
私の本来の専門は、日本の近現代文学で、夏目漱石や芥川龍之介などの作家を研究していました。作品全体を包括的に考える研究方法を取っていましたが、ある時、作品の中に「心霊学」や「催眠術」といった不思議な言葉が出てきました。これらの作家は非常に知的で計算された作品を書く人たちなので、なぜそんな言葉を使っているのかが気になりました。怪しい響きの言葉ですが、彼らの時代には作品に取り入れる必然性があったはずです。そこで、各言葉が同時代でどんな意味を持っていたのかを調べ始めました。すると、世界的に霊に対する解釈をめぐる大きな動きがあったことがわかり、明治期以降の霊魂認識の変化に伴う文化的動向を追いかけるようになったのです。現在は、1970年代のオカルトブームや1990年代の実話怪談ブームも研究対象に含めています。この、文学研究から怪異への移行が、私の研究のきっかけです。
常識を疑う視点を持ち、物事を多角的に捉える
私の研究の魅力は、世界の見方や常識を相対化できる点にあります。私たちは日常で怪異を「怖いもの」や「怪しいもの」として避けがちですが、時代によってその意味が変わります。私たちは「今・ここ」の視点で物事を判断しがちですが、私たちもまた、現代の常識に縛られています。怪異を研究することで、自分の基盤を疑う目を持ち、物事を多角的に捉えられるようになります。自らの常識について疑いの目を持つことは、物事を相対的、立体的に把握することに繋がります。その意味で怪異は、格好の研究のターゲットだと思います。私が大学で求める学生像は、幅広い関心を持つ人です。一つの学問に没頭するタイプも素晴らしいですが、私の研究においては、さまざまな観点からアプローチできる人が理想です。東京女子大学の現代教養学部はリベラルアーツ教育を重視しているので、この環境を活かし、専門分野を越境して学びの場を自ら作ってほしいと思います。こうした学生が集まることで、研究の新しい展開が生まれるでしょう。
一柳先生からのメッセージ
高校時代に夢中になった体験は、どんなものでも貴重です。人からくだらないと言われそうなことでも、とことん没頭してください。それが意外なところで役立つことがあります。高校までの学習内容は、ものを考えるための基盤作りだと思います。世界をどのように捉えるか。自分はどのように物事を考え、判断しているのか。こうした問いかけに答えを出すためには、材料が必要です。では、どんな材料を組み合わせ、調理していけば答えに到達するのか。そのための思考トレーニングの場だと考えると、受験勉強は決して無駄ではありません。常識をひっくり返すには、まず常識を身につけることが必要です。私は受験に不向きだったようで、大学と大学院でそれぞれ一浪しましたが、何とかなりました。私の反省は時間の管理と戦略の欠如ですが、好きなことに没頭した記憶は今も残っています。志望校の傾向を調べて作戦を立て、でも好きなことを大切に。あなたたちの情熱が、未来を切り開きます。
東京女子大学 現代教養学部 人文学科 日本文学文化専攻
https://www.twcu.ac.jp/main/academics/sas/humanities/japanese-literature/index.html
東京女子大学_一柳 廣孝先生
https://www.twcu.ac.jp/main/academics/sas/teacherlist/ichiyanagi.html










