京都大学の物理に出題ミス 問題は何だったのか?

最終更新日:2023/01/27

※この記事は約8分で読めます。

こんにちは、四谷学院の山中です。
昨年2月に行なわれた大阪大学の入試の物理において、出題に誤りがあり、追加合格の発表が行なわれたことをご存知でしょうか?最近、さらに京都大学についても同様の誤りがあるのではないかと報道がなされましたので、一緒に確認していきましょう。

参照:https://www.asahi.com/articles/ASL1Q34XZL1QPLBJ001.html(掲載終了)

問題のポイントは?

阪大の問題と京大の問題では、大きくポイントとなっている点が2つあります。
1つは「1つの音源から異なる方向に出される音波の位相はどう考えればよいか」という点、もう1つは「壁で反射された音波の位相はどう変わるかという点です。

京大の問題はどうなっていた?

ポイント①

京都大学の出題を、以下の簡略化した図式のもとで考えてみましょう。

直線x=L上を、車が速さUで図の方向に移動しているとします。
x=0の位置には壁Mがあります。
x軸を横切った直後から、車から音波を四方八方に出し続けるとします。
音波の速さをcとし、Uはcに比べてじゅうぶん小さいとします。
車の中に人がいて、車から出ている直接音と、壁からの反射音を同時に聞く状況を考えましょう。点(L,0)を通過して時間T経過したときの車の位置は(L,UT)です。
この位置に、x軸と角θをなす方向(図の破線方向)に出た音波が、壁で反射して、同じ時刻に車に達したとしましょう。このとき、元の位置と壁に関して対称な位置(-L,0)に仮想的な音源を想定して、ここから点(L,UT)に向けて音が届いたとすると、この距離は2L/cosθです。つまり、以下のように表せます。

この2式からTを消去することで、θがみたすべき条件を求めることができます。すなわち、以下です。

ポイント②

次に、このときの直接音と反射音が干渉して弱め合うためのLの条件を考えましょう。

音の振動数をとします。このとき、音源と観測者が移動しているのでドップラー効果について検討しておく必要があるのですが、音源と観測者の速度が同じなので(x=-L上を移動する仮想的な音源も同じ速度)、結果的に直接音も反射音も振動数でだいじょうぶです。

壁で音波が反射するときについて、京大の出題では次のように表現されています。

「壁Mでの空気中の音波の反射条件は固定端とみなすものとする。」

(L,0)で出された音が壁で反射して車に届くまでの時間は以下のようになります。

壁での反射が固定端ですから位相がπずれ、音が弱め合うための条件はこの時間Tが音の周期1/fの整数倍となることでしょう。よって、nを整数とすると以下のようになります。

これとcsinθ=Uより、このように言うことができます。

つまり、こうです。

おおむねこのような方向の解答が京大側では設定されていたのではないかと予想されます(現時点で京大側の解答は非公表)。

問題点は音波の説明

さて、問題点です。

①四方八方に出る音は、同位相で送り出されると見てよいのか?

この問題では音波がどのようにして発生しているのか、説明されていません。例えば音叉が振動して音を出している場合、これはまさに阪大の問題でそのように設定されていたのですが、音叉が震える方向と、それに垂直な方向では通常疎密が逆になります。どのように振動する音源なのかがわからなければ、位相がそろっているのかどうかわかりません。

この点は、「同位相で送り出されると考えなければ解きようがない」ということで、(いま流行の言葉で言えば)同位相と「忖度」して解かざるを得ないでしょう。

そして、大きな誤解をうむのは次の点です。

②壁で音波が固定端反射するとはどういうことか?

音波は皆さんよくご存知の通り縦波です。媒質である空気が、音の振動方向に振動して、その振動が伝わっています。
壁に向けて気体分子がぶつけられると、壁と衝突して反射されます。このとき、反射の前後で運動方向が逆になるので「固定端反射」、というのは直感的にもそういう気がするでしょう。

具体例として閉管での気柱の共鳴を考えてみましょう。
基本振動が起こっているとき、音が管の底で反射して管内に定常波が生じており、反射位置が節、管口近くに腹ができますね。

例えば入射波がこういう状態の場合、

反射波は、入射波が反射面より先まで伸びているとして、伸びている部分を180°回転させてこうなる。

入射波と反射波を重ね合せると、合成波はこうなる。

入射波がこうだったら、

反射波はこうなって

合成波はいたるところ0。

何の問題もないように思えます。

しかし、縦波は疎密波でもあります。音波は、ある箇所における空気の疎密変化が、進行方向へと伝わっていく現象です。疎密波としてみた場合は、密となっている箇所が波の山にあたり、疎となっている箇所が波の谷です。

先ほど書いた

このような表現は、縦波の横波表示です。入射波がこのような状態になっているとき、反射面近くでは、左側の媒質が右方向に変位しており、密の状態、すなわち、「疎密波としてみれば反射面は山」です。

このときの反射波は

こういう状態ですから、やはり「疎密波としてみれば反射面は山」、山は山で反射することになります。
このことを「音波の反射は、変位波としては固定端反射、疎密波としては自由端反射」というふうに表現することもあります。

問題点が見えてきましたね。

直接音と反射音が干渉したときの「弱め合い」とは、変位波(媒質がどれだけ移動しているか)として見るのと、疎密波(媒質の密度がどれだけ変化しているか)で見るのでは、話が違ってくるのです。変位波として弱め合っている状態は、疎密波としては最大振幅の強め合っている状態になってしまいます。

京大入試問題の矛盾

京大の問題では、「音波の反射条件は固定端反射とみなす」と書いており、その意味では変位波として捉えるのが自然かもしれません。しかし、一般に「音が強い」というのは疎密としての振幅の問題です。耳の構造を考えればわかりますが、圧力の変化が鼓膜の振動となるわけです。ですから、「音が弱め合う」という場合は「疎密波として弱め合う」と解釈する方が自然であり、ここに矛盾があるわけです。

今回、阪大、京大と難関校で続けて問題点が指摘されたため、今後音波の反射と干渉が絡む問題では、より慎重な表現がなされるようになるでしょう。学習者の立場としては、疎密波としての取り扱い方をしっかりと理解しておくことが大事なポイントになってきます。

2/8(木)追記:補足

こちらの京大物理出題ミスを解説した記事について、このような質問をいただきました。
[speech_bubble type=”fb-flat” subtype=”L1″ icon=”1.jpg” name=”生徒”] 「疎密波としてみた場合は、密となっている箇所が波の山にあたり、疎となっている箇所が波の谷です。」
ここの、理由が分かりません。 [/speech_bubble] こちらについて、説明を補足します。
例として、閉管で図のような共鳴(3倍振動)が起こっている場合を考えてみましょう。

四谷学院生は、これと同じ図が
 物理 55 マスター下巻の 36 ページ に載っているので確認してみましょう。

閉管で定常波が生じていて、曲線はある時刻における定常波の状態を表しています。図1の状態から 2 分の 1 周期が経過すると図2の状態になり、さらに 2分の 1 周期が経過すると図1の状態に戻ります。この図において、グラフは縦波の横波表示、すなわち媒質がどれだけ変位したかを表したものです。図1において、管の閉じているところの近くでは、変位は負、左側に動いているので、管の閉じている位置では疎(密度が小さい状態)になっています。図2では逆に、近くの媒質が正方向(右方向)に変位しているので密(密度が大きい状態)となっています。そこで、管内の状態を変位(媒質が左右にどれだけ動いたか)ではなく、密度が標準の状態からどれだけ増減したかで表せば、グラフは次のようになります。

図1’および図2’において、横の細線が基準となる密度(波が生じていないときの空気の密度)を表し、この線より上が密度高、下が密度低を表します。
この密度で表現した音波のグラフであれば、当然ですが密のところが山、疎のところが谷として描けるわけです。変位波としてみた場合(通常の縦波の横波表示の場合)の合成波の腹と節が、疎密波としてみた場合はちょうど入れ替わることがわかるでしょう。

京大の問題は「音波が弱め合う状態」として「変位波として節になる」のか「疎密波として節になる」のかをちゃんと示していなかったわけです。

なおつけ加えると、「耳が感知しているのは変位波か疎密波か、高校では教えていない」という指摘もありました。何冊か教科書を調べてみたところ、啓林館の教科書(物理303)には「圧力の変化によって耳の鼓膜が振動する」と書いてあります。
耳が変位波を感じているわけではないことは、次のような(厳密ではありませんが)直感的な説明でも納得できるのではないでしょうか。

 「もし、耳が変位波としての音を感知しているのであれば、音が伝わる方向に耳の穴を向けなければ、媒質の振動が鼓膜まで達しないことになる。いろんな方向からの音を聞くことができるのは、耳の近くでの気圧の振動が鼓膜に伝わるからだ」

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