フィールドワークから「野生動物」の魅力に迫る

北海道大学 名誉教授
坪田 敏男 先生


「大型獣」の研究

「獣医学」の主な研究対象は、犬・猫などのペット動物、牛・豚などの家畜動物、マウス・ラットなどの実験動物でしょう。そのなかで私が対象としている動物は少し違った「野生動物」、なかでもクマ・シカ・ゾウ・アザラシなど「大型獣」です。「野生動物」には未知の領域が多いので、それを探求し、彼らが放つ魅力や神秘を知るのが面白いところです。
よくテレビや映画で動物たちの綺麗な映像が流れていますが、実際の研究はそんなイメージとは違うかもしれません。山を歩いて泥まみれになり、動物の出現を長時間待ち、1日中成果がないときも多く、地道な観察を続けていくのです。また、私はフィールドワークをすることが多いですが、人によっては飼育されているクマを研究したり、実験室から全く外に出なかったりと、研究方法は様々です。

生命の神秘。感動。

今一番力を入れているのは、クマの冬眠と繁殖の生理機構の研究です。ヤマネやリスなどいくつかの小さい動物は、冬は眠って過ごします。しかし大型でありながら冬眠する動物は、クマ以外にいないでしょう。このクマが冬眠する理由や冬眠のメカニズムは、ほとんどわかっていません。世界で誰も研究していないことを探る魅力があります。さらにそのメカニズムや現象を解明し、人間の医療に応用することで、手術や骨粗しょう症治療に応用できるかもしれません。
実際の研究では、自然の中でクマを捕まえて、麻酔をかけます。血液などのサンプルを採り、発信機をつけて熊の行動を追跡する。そこから熊の生活や行動圏、熊同士の関係などが見えてくるのです。発信機は2年ほどで切れてしまいますが、うまくすれば冬眠中にクマのところまで行って交換することも可能です。
また、クマは冬眠している間に子どもを産むので、3月頃に行くと子どもを連れているんですよ。自然のなかで子孫をつなぐ動物の姿は神秘的で、感動する瞬間です。

獣医学部の幅広い進路

獣医学部を卒業した人はほぼ全員、獣医師の免許をとります。免許をもったうえで、様々な職に就くんですね。獣医療は、昔は鎖につないで飼っていたペットが今は家族の一員ですから、その期待に応じてどんどん発展しています。CTやMRIを使った検査や、糖尿病の治療も行います。それから、今一番困っているのは、公衆衛生分野でしょう。食肉検査をするのも、保健所で野良犬や野良猫を処分するのも獣医師の仕事なんです。他には大学や民間の研究所で研究を続ける道や、公務員になる道もあります。獣医学部を卒業した人はほぼ100%就職できていますし、職業選択の幅が広いところが魅力だと思います。

坪田先生からのメッセージ

獣医学に必要なのは、タフな精神力と体力。それを鍛えてください。大学は合格したら終わりではなく、入ってからが勝負。大学にはみなさんの期待に応えられるだけの面白いもの、未知なものがあります。だから期待してほしい。そして、与えられるものだけではなくて、自分でどんどん求めて、自分で開拓していってほしいと思います。

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