政治はどこで決まるのか?
教科書には載っていない、日本政治の舞台裏
東京都立大学 法学部 法学科 政治学コース 教授
佐藤 信 先生
日本政治の「仕組み」を探る
私は、現代の日本の政治がどのようにできあがったのかを研究しています。日本政治の研究といってもさまざまです。多くの人たちが政権をどう見ているか(世論)や、どんな人がどう投票したか(投票行動)が知りたければ、データを集めて統計的に分析します。一方で、大臣や議員がどんな行動をしてきたかを知るには、残された記録やインタビューが頼りになります。こうした学術的なインタビューは「オーラル・ヒストリー」と呼ばれ、私は入門書も編みました(『オーラル・ヒストリー入門』ちくま新書、2025年)。他にも、制度や政策、その背後にある考え方を分析する研究もあります。私は、オーラル・ヒストリーのほか、昔の人の手紙や日記を読んだり、当時の新聞や雑誌をくわしく調べたりして研究しています。
選挙を支える「妻たち」と、政治が生まれる「場」
最近の研究では、衆議院議員の妻たちが、戦後日本の選挙でだんだん重要な役割を担うようになったことを明らかにしました(「妻たちの選挙」『法学会雑誌』64巻1号、2023年)。戦後しばらく、議員の妻は東京にいて夫と一緒に暮らすことが多かったのですが、1980年代からは選挙区に住み、夫の代わりに地元で活動するケースが増えています。
他に特徴的な研究として、「政治家や官僚は、どこで政策を作り、決めているのか」というものがあります。例えば、2010年頃までは、国会の周りに自民党の有力議員の個人事務所や派閥事務所があり、そこで日本の政策の方針が決められていました。さらに、東京に大きな家を持つ政治家の自宅に、政治家や官僚、新聞記者が頻繁に出入りし、その場で国の進む方向が決まることもありました。今ではそうした光景はかなり変わってきています。
当たり前を問い直すことで見えてくる日本政治の姿
研究の一番の面白さは、「わかったつもり」をくずしていくところにあります。
たとえば私は、1860~1930年代の日本で、政治家や官僚がどこに住み、どこで働き、どこで政策を決めていたのかを調べました(『近代日本の統治と空間』東京大学出版会、2020年)。どんな人物がいて、どんな重要な政策が決まったかは教科書にも書いてあります。でも、「それはどこで起きたのか」という点になると、研究者でもはっきり答えられないことが多いのです。
さきほど、戦後日本では政治家の家に新聞記者が出入りしていた話をしましたが、実は戦前もよく似ていました。新聞記者に限らず、政治家たちは自分の家や別荘で政治的な密談をしていたのです。たとえば夏のあいだ、新聞記者の少ない別荘地に長く滞在し、近くに別荘を持つ政治家などと人目を避けて話し合う、ということもよくありました。
こうして、「当たり前だと思っているけれど、実はよく知らない」そもそもの部分を明らかにしていき、その積み重ねによって日本政治をより確かな形で理解できるようになるところに、私はこの研究の大きな魅力を感じています。
「研究の場」である大学を、とことん活用しよう
大学が高校と大きく違うのは「研究の場」だということです。先生たちはそれぞれの分野の「最先端」を走っていて、その内容や空気を間近で感じられるのは、本当に刺激的です。ただし、それを理解するには高校や受験勉強で身につけた基礎が欠かせません。また、受験勉強は自分のオリジナリティを見つけるチャンスでもあります。将来に必要な科目だけでなく、幅広く学ぶことで「自分はこれが得意なんだ」「こういうことが好きなんだ」と気づけます。大学に入ると専門はどんどん絞られ、受験レベルの知識の多くは、直接は使わなくなりますが、それでも「自分の専門外の世界の難しさや面白さを知っている」ことは大きな財産です。私自身、仕事で使わない知識を無駄だと思ったことはありません。
大学の最大の資源は教員(研究者)と図書館です。高価な専門書や、多くの海外論文にアクセスできる環境は、自分から使いにいってこそ意味があります。単位や卒業だけを目的にせず、負担は重くても少人数のゼミや図書館をとことん活用してほしいと思います。
佐藤先生からのメッセージ
AI時代だからこそ、人間に求められるのはコミュニケーション能力です。研究の世界でも共同研究や分野横断がどんどん増えています。部活や課外活動の経験に加え、大学受験で鍛えられる「相手に的確に伝える力」は、将来どんな道に進んでも役に立ちます。大学受験は、人間として成長するまたとない機会です。また、「文系だから数学は捨ててもいい」などと決めつけず、最低限でも触れておくと、政治学など社会科学の世界でも見える景色がぐっと広がります。どんな大学でも、教員はそれぞれの分野の「最先端」を走る研究者です。志望校の先生を検索して、「この大学に行ったら、こんな研究ができるかも」と想像をふくらませながら受験勉強に取り組んでみてはいかがでしょうか。










