食生活と健康の関係を解き明かせ!
科学的な根拠で社会全体の健康づくりに挑む「栄養疫学」

「○○を食べると体に良いらしい」――テレビやSNSに様々な情報が溢れる現代。確かなデータに基づいてその真実に迫るべく、元・行政の管理栄養士という経歴から研究の道へと進んだ高地先生にお話を伺いました。医学とは異なる、食の専門家ならではの視点で紐解く研究の魅力をお届けします。

奈良女子大学 生活環境学部 食物栄養学科 高地リベカ

奈良女子大学
生活環境学部
食物栄養学科 教授
高地 リベカ 先生

がんや脳卒中になりやすい人とは?
研究の鍵は、食生活を “正確に測る”こと

――先生が専門とされている「栄養疫学」とは、どういう学問なのでしょうか?

人の集団を対象として、毎日の食生活や栄養摂取が健康にどう影響するかを明らかにし、社会全体の健康づくりに役立てる科学です。

――具体的には、どのようなことを調べているのですか?

例えば、「普段から食塩や漬物をよく食べる人は、将来、胃がんや脳卒中になりやすいのか?」とか、「発酵食品をよく食べる人は、乳がんになりにくいのか?」といったことを調べています。

――がんや脳卒中など、いわゆる「生活習慣病」は、現代社会の大きな問題ですよね。

そうですね。日々の積み重ねである「習慣」が大きな要因となる病気ですから、人々の食生活を“正確に測る”ことが、研究の鍵を握っています。

「習慣」の測定は至難の業
測定方法を検証することも重要な研究

――“正確に測る”って、とても難しそうです。

例えば、塩分。調味料や加工食品に含まれるものも含めて、自分が1日にどれくらい摂取しているか、わかりますか?

――今日どれくらい摂取したかもわかりませんし、ましてや「習慣的」な量なんて・・・

そうですよね。食べたものを全て記録してもらったり、調査員が写真を見せながら昨日の食事を聞き取ったりする調べ方もありますが、1日だけでは「習慣」はわかりませんし、毎日それを続けるのも現実的ではありませんよね。

――確かに…至難の業ですね。

あとは、尿として排泄されるものを溜めて分析する方法があり、これは食塩の摂取量を測る標準的な方法と言われています。でも、毎回の尿を全て溜めるなんて、心理的なハードルが高いと思いませんか?

――そうですね。では実際のところ、どうやって調べているのでしょうか?

実際の大規模研究ではアンケートを使うことが多いです。多くの方にご協力いただく必要がありますが、梅干しやきゅうりの漬物を食べる頻度×1回あたりの量の組み合わせによって、食べた量を調べます。

――アンケート調査ですか!それは意外でした。

今、「アンケートごときで本当にわかるのか?」って思いましたね?それは、素晴らしい疑問です。そういう視点を持てる人は、栄養疫学の研究にとても向いていると思いますよ。

――それは、どういうことでしょうか?

「このアンケートで、どれくらい正確に測れるのか」を検証すること自体が、栄養疫学ではとても重要なことだからです。

――なるほど、測定方法そのものも、研究の対象ということですね。

そのとおりです。食生活を「どのような方法でどのように評価するのか」も私の主要な研究テーマの1つです。他にも最近では、若者世代に身近な健康の悩みと食生活の関係について研究しています。

――若者世代に身近な健康の悩み、例えば、どんなことでしょうか?

例えば、女性の月経痛です。遠い先の生活習慣病の予防よりも、身近な健康の悩みを切り口に、科学的な根拠をしっかりと見つけて、今後の食育や栄養教育に繋げていけたらと思って取り組んでいます。

テレビの健康情報は本当に正しい?
“直感”を“科学的根拠”に変えるため、大学院へ

――そもそも、先生がこれらの研究を始めようと思われたきっかけは何でしょうか?

私はもともと、行政の管理栄養士として働いていました。健康づくり教室などを行うと、住民の方が、「○○は体に良いのよね?」など、いろいろ質問してくださるんです。

――きっと、テレビの健康番組なんかの情報をもとにされているのでしょうね。

そうなんです。でも、中には動物実験の結果だけや、分母のよくわからない「番組調べ」などを元にしているものも多くて。直感的に「それは違う」と思っても、当時は論理的に説明する言葉を持っていなくて、すごくもどかしく感じました。

――そのとき感じたもどかしさが、研究への道につながったのですね。

そうですね。その頃、栄養疫学についてメール配信で解説してくださる方がいて、「人に推奨するには人で検証すべき」ことや、検証方法などを知り、本格的に学びたいと思うようになって大学院へ進学しました。

管理栄養士の視点で
社会の課題解決へ

――ところで、「疫学」と聞くと、医学のイメージも強いのですが…。

実際、社会医学の分野から医師資格を持つ研究者も多く参戦していますよ。でも、データが本当に正しいかの検証や、推計された数値の意味を正しく解釈するには、私たちのような食生活の専門家が不可欠なんです。

――なるほど。行政現場での経験も活きそうですね。

そうですね。管理栄養士の視点があるからこそ、社会全体の健康づくりに何が必要で、どんな課題があるのかに気づけます。実際の課題解決を意識して研究に取り組めるのはとても面白いですし、私の強みだとも思っています。

――こうした研究に取り組むにあたり、先生の求める学生像をお聞かせください。

今やるべきことを全力でやれる人、努力できる人ですね。あとは、自分の考え方に固執せず柔軟な思考ができることや、科学的な批判を素直に受け入れられることも大切にしています。

人生で後悔しないために
今できる最大の努力をしよう

――学習面で、大切にしておくべきことはありますか?

まずは、基礎知識をしっかり身につけることです。大学では、分野の壁をあっという間に超えていきます。例えば英語を使う世界を目指すなら、日本史や世界史の知識が、国際的な相互理解を助けてくれることもあるのではないでしょうか。

――文理問わず、幅広く学んでおく必要がありそうですね。

そうですね。それから、大学では論理的に考えたり表現したりする力が求められますから、ただ「暗記する」「早く解く」という段階から一歩踏み込んで、「深く考える姿勢」を持ってほしいと思います。

――今からそういう姿勢で学んでおくと、大学での学びもスムーズになりそうですね。

あとは、目標から逆算し、日々の達成度を評価しながら進める「努力の仕方」も大切です。これは大学だけでなく、社会で求められる「プロジェクトのマネジメント」にも通じる、ずっと役立つスキルになりますよ。

――受験勉強を通して、一生モノの武器が手に入れられそうです。

なんて言っていますが、実は私自身は、高校で数学や化学を怠り、物理は挑戦すらしませんでした。少し後悔しているんです。大学で苦労しましたからね。もっと勉強していれば、今頃キュリー夫人か安藤忠雄を超えていたかも?!なんて思いますよ(もちろん冗談です)。

――悔しい経験があるからこそのアドバイス、ありがとうございます。

人生に後悔しないためには、今できることは最大限にやっておくことを強くお勧めします。今、皆さんが将来のためにできることは、やっぱり勉強なんですよね。勉強以外では本をたくさん読んでおくこともお勧めします。

――読書は、読解力を身につける、という点で受験にも役立ちそうです。

読解力、それから想像力、言語化力。これらは、文系、理系問わず、どんな場面でも必要です。英語力も大事ですが、日本語力はより重要かな、と思いますね。

――貴重なお話をありがとうございました。最後に、受験生へメッセージをお願いします。

少し背伸びして挑戦している自分を、時々ちゃんと褒めてあげてください。そして、最後まで頑張った経験は、その後の人生に必ず活きます。自信をもって頑張ってください!

毎日の食事の積み重ねが健康をつくるように、日々の学習や努力の積み重ねが皆さんの未来をつくります。高地先生からの「いまできることを最大限に」というメッセージを胸に、ぜひ後悔のないよう、目標に向かって日々、全力で取り組んでみてください。そして、大学という新たなステージで、みなさんも科学的根拠をもとに真実に迫る研究に挑んでみませんか?
(取材日:2026年9月)

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