次世代コンピュータの開発と応用で、未解決の課題に挑む

東北大学 大学院情報科学研究科 情報基礎科学専攻 教授
小林 広明 先生


デジタルの限界を超え、量子が可能にする高性能コンピュータの実現

私は高性能なコンピュータシステムの設計とその応用に関する研究に取り組んでいます。現在のコンピュータは「0」と「1」の2値で記憶、制御、計算を行っており、これを実現するために「トランジスタ」と呼ばれる半導体の構成要素(半導体素子)が使われています。半導体の微細化技術の発展により、コンピュータを構成するプロセッサ(CPU)やメモリ素子には、10億個を超えるトランジスタが集積されています。高性能なコンピュータを設計するために、これらの素子を大量に使って、大量の計算を一度に行える処理方式や、メモリとCPU間における効率的なデータ転送方式などを研究しています。また、大量の素子を動作させるためには多くの電力が必要であり、コンピュータの膨大な消費電力が大きな社会問題になっています。従って、高性能な計算やデータ処理を低消費電力で行う技術開発も重要な研究テーマです。
加えて最近では、これまでのデジタルコンピュータの原理とは異なる新しい計算原理に基づく量子コンピュータの研究開発にも取り組んでいます。量子コンピュータでは、デジタルコンピュータの「0」または「1」(デジタルビット)という決定的な値ではなく、量子効果(量子力学に特有の効果)を利用して「0」と「1」を重ね合わせた状態(量子ビット)で計算を行います。「0」でもあり「1」でもあるという状態をもつことができることにより、デジタルコンピュータでは指数関数的に計算が複雑になり解決が難しい、あるいは十分な速さで解決できない問題も、量子コンピュータでは桁違いの速さで解決できる可能性があります。現時点では、まだ応用範囲が限定されているので、従来のデジタルコンピュータと量子コンピュータを組み合わせ、様々な問題に対して適材適所で使える新しいコンピュータシステムの研究開発にも取り組んでいます。

「とにかく速い計算機を作りたい」という夢の実現を支える半導体技術の進歩

私が高校生の頃、いわゆるコンピュータというのは、一つのボードの上に配線むき出しのマイコン(マイクロコンピュータ)でしたが、プログラムを通じて様々な計算が行え、またそれを使って絵を描いたり、人と簡単な対話ができたりすることに不思議な魅力を感じ、その中身を理解してもっと高性能なコンピュータを作りたいと思いました。当時、東北大学の西澤潤一先生が半導体技術の分野で大きな成果を上げられており、加えて、通信技術、コンピュータシステム構成方式、ソフトウェア技術など、コンピュータに関わるあらゆるテーマで研究を行っている東北大で学んでみたいと思いました。入学した頃は、まだ専用のカードに穴をあけてプログラムを書いていましたが、研究室に配属され、学部・大学院での研究を通じて、この分野の研究者として「とにかく速い計算機を作りたい」という思いでコンピュータシステムの設計をしてきました。現在の高性能なコンピュータは半導体技術の進歩と革新的なコンピュータ構成方式の発明に支えられています。例えば、私の大学院時代最初の研究テーマは写実的なコンピュータグラフィックス(CG)をリアルタイムに生成するためのコンピュータ設計方式でしたが、当時は大規模なシステムを想定して研究開発していたものが、30年たった今では、小さな半導体チップで実現できています。

津波浸水被害をリアルタイムに計測し政府に提供

この研究の面白さは、まだ解決できていない課題を自らのアイディアで解決し、それを実際にシステムとして組み上げて、誰も知らない世界を一番初めに垣間見られることでしょうか。さらには、その成果が社会に実装され、世の中に役立つことに大きなやりがいを感じます。例えば、企業(NEC)との共同研究の成果が取り入れられたスーパーコンピュータが開発・製品化され、東北大を始めとする国内外の大学や研究期間に導入されて、最先端の研究開発に利活用されています。また、私たちは東北大学のスーパーコンピュータを使ってリアルタイムで津波浸水被害を推計するシステムの研究開発を行いました。東日本大震災では多くの方が津波によって命を落とされました。私たちは被災地の大学として、研究成果を活用し、自然災害による被害を少しでも減らすことに貢献できないかと考え研究に取り組んできました。その成果として、大規模地震発生時に直ちに6時間分の津波の浸水被害状況を10メートル四方の精度で計算し、結果を政府や自治体に提供できるようになりました。今では、政府の防災システム機能の1つとして24時間365日運用されています。少しでも我が国の安全安心に貢献できることが、私たちの研究を進める上での大きなやりがいとなっています。

小林先生からのメッセージ

できるだけ高校生のうちに、自分の興味を見つけ、その分野で学べる大学を選んで受験勉強に励んでほしいと思います。大学では、高校と違って、未解決の課題を解決するために、アイディアを出し合い、それを具体化し、未開の分野を切り開くことを学びます。また、日本人学生だけでなく、様々な文化の中で育った留学生と共に学び、多様性を理解・尊重する国際性豊かな教育環境が整っています。学生の皆さんには、そのような環境を十分満喫し、大学での教育を通じて個性豊かな研究者として育っていってくれること期待しています。皆さんと一緒に未知の世界を切り拓く研究ができることを楽しみにしています。

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