更新日:2026年05月21日

「なじむ」を科学する――感性工学で日常生活を快適に

信州大学 繊維学部 先進繊維・感性工学科 教授
吉田 宏昭 先生


“ひと”と“もの”の調和が生み出す「経年優化」

私たちは今、「なじむ感性」の研究に注力しています。たとえば新しく買った服は、最初は少し硬く、どこか違和感があるかもしれません。けれど、しばらく着続けるうちに生地が柔らかくなり、「自分になじんだ、着心地のよい服」へと変化していきます。衣服を“もの”として見れば、使うほど「経年劣化」しているはずです。それでも私たちは、使うほど自分になじんだ、つまり「経年優化」したと感じます。こうした感覚は、寝具・椅子・靴などにも共通しています。時間の積み重ねによって“ひと”と“もの”が互いに調和し、経年優化したと感じる―——この「なじむ感性」は、非常に面白い研究テーマです。
こうした「ひとが、ものをどう感じるか」を科学的に捉えるのが「感性工学」です。私たちの研究室では、寝る・座る・歩く・着るといった日常行動における感性を計測・評価しながら、産学連携で、寝具、座面シート、靴のインソール、衣服のインナーなどの製品開発にも携わってきました。

自身の幸せから多くの人の幸せへ

感性工学では“ひと”を扱います。私が“ひと”に関する研究に興味を持ったきっかけは、高校3年生の夏休みに読んだ、ある受験雑誌のコラムでした。そこに紹介されていた生体医療工学研究センター(現在は医生物学研究所)の研究に憧れて京大へ進学しました。その後も“ひと”を対象にした研究への関心は一貫しており、現在の研究に至っています。
私たちの研究室のコンセプトは「いかに幸せになるか?」です。快適に眠りたい、良い姿勢で座りたい、加齢後も歩き続けたいなど、私たちが幸せに生きるための知識や、将来困らないための方法を見つけ出すことを目指しています。まずは私たち自身の生活をより良くするために研究し、その成果を社会に広めることで、多くの人の幸せにもつなげていきたいと考えています。

今の学びが、未来の研究の土台に

高校時代に力を入れてほしいのは、勉強を「面白い」と感じられるように工夫することです。たとえば、数学の問題が解けたら「レベルアップした」と捉えるなど、ゲームのように成長を実感できる形にすると学びが続き、将来「研究が面白い」と感じる土台になります。また、大学受験での学びは、今後の大学生活でも活きてきます。たとえば、現実世界の現象を表現する物理の考え方は、人間関係にも応用できます。プラス同士が反発しやすいなら一方が相手の話を聞く側に回る、反発係数が大きいほど衝突しやすいなら受け止め方を工夫して反発係数を下げる、といった見立てです。感性工学は“ひと”も研究対象になるため、学生同士の良い関係づくりが重要です。こうした考え方を日常で活かし、相手を気遣う思いやりを持てることが求められます。その姿勢は“もの”にも広がり、講義後に消しカスをきちんと捨てるといった小さな行動の積み重ねが、心地よい研究環境をつくり、結果として良い学びと研究につながっていくのです。

吉田先生からのメッセージ

グローバル化が進む現代だからこそ、日本文化に興味を持ってほしいです。私がそのように思うようになったきっかけは、共同研究先の企業から、日本の布団作りの基本は「腰を厚く打て」だと教わったことです。これは、「敷き布団は、おしりが当たる部分を少し厚めに作れ」という意味です。実際に、おしりのあたりを少し厚めにした敷き布団で睡眠実験をしたところ、寝たときに体が沈みすぎず、寝返りもしやすくなり、寝心地も向上することが確認できました。先人たちが、寝心地の本質を理解していたという事実に驚きました。普段何気なく触れている“もの”には、さまざまな意味や知恵が込められています。その潜在的な価値に思いをはせ、豊かな感性を磨いていきましょう。頑張れ、受験生!

(取材日:2026年5月)

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