防災教育から“ご当地たこ焼き” まで!
「生きる」を学ぶ家政学

「家政学」と聞くと、みなさんは、どのようなイメージを持ちますか?ただ料理や裁縫を学ぶ学問だと思ったら、それは大間違い!今回は、家政学の視点から「防災教育」や「消費者教育」の研究に取り組まれている吉井先生に、学問の魅力や、学生たちが生き生きと学ぶゼミの様子、そして、実は大学受験にも役立つ「家庭科」の授業についてお話を伺いました。

武庫川女子大学教育学部 吉井美奈子

武庫川女子大学
    教育学部 教授
吉井 美奈子先生

人と人とがつながる
地域のコミュニティづくりを支える

――先生がご専門とされている「家政学」とは、どのような学問なのでしょうか?

家政学は「家庭科」教育の背景となる学問ですが、私はその中でも特に「防災教育」や「消費者教育」に力を入れています。

――「防災教育」と「家庭科」の繋がりに、いまいちピンとこないのですが・・・

実は、家政学は「日常生活」そのものを研究テーマにしています。そのため、防災教育を通して普段の生活を見直したり、地域のつながりや身の回りの課題に向き合ったりすることに繋がっていくのです。

――研究のために、被災地に足を運ばれることもありますか?

東日本大震災のときは、宮城県や福島県に何度も足を運びました。被災者やボランティアの方々からお話を聞き、地震が起こったときや、その後の生活の中で、どのようなことが課題となったのか、調査・分析してきました。その時にできたご縁を大切にしていて、今でも年に1、2回は個人的に被災地を訪問しています。

――避難生活の中で、孤立したり居場所を失ったりして苦しむ方も多いと聞きます。

だからこそ、心の支えとなるコミュニティづくりは大切です。そうした機会をつくるために、仮設住宅の方々と、さまざまなイベントを行ったり、地域の食材を使ったコンテストを開催したりもしました。

――研究や調査にとどまらず、さまざまな取り組みをなされているのですね。

震災の記憶を風化させないためにも、ゼミ生らを東北に連れていき、現地の学生と交流することで、人と人とのつながりを作り、被災地に思いを寄せる活動を続けています。

研究と実践の両立
「教材開発」と「子ども食堂」

――他にも、学生と一緒に取り組まれている活動はありますか?

例えば「子ども食堂」の活動に参加しています。これは私の研究というより、学生の学びのため、という側面が強いですね。彼らが活動を通じてどのように成長し、変化していくかを見守っています。

――子どもたちと触れ合うことは、研究においても貴重な機会になりそうですね。

そうですね。実は今、衣食に関わる企業とコラボして家庭科の「教材作り」も行っているのですが、開発した教材を子ども食堂や小学校でも活用してもらっています。

――どのような教材を開発されているのでしょうか?

ゲームなどを取り入れて、子どもたちが楽しみながら学べる教材を目指しています。教育現場や企業が抱える課題を、さまざまな方向から考える良い機会になっています。

――子どもたちのリアルな反応を直接見ることができますね。

そうですね。「面白かった!」「分かりやすかった!」という反応が返ってきたときや、「知らなかった!」と新しい発見をしてくれたときは、とても大きなやりがいを感じます。

――実際の教育現場でも、既に活用されているのでしょうか?

はい。先生から「授業で使いたい」と言っていただけたときや、企業の出前授業などに採用していただける機会に恵まれたときは、研究を続けてきて良かったと心から実感しました。

命の大切さを伝えたい
親友の事故をきっかけに家政学の道へ

――先生は、もともと数学教師を目指されていたそうですね?

中高生の頃から教師という仕事に関心があったのですが、当時は、答えがはっきりしていて分かりやすく、得意科目でもあった数学の先生になりたいと思っていました。

――数学から家庭科に大きく方向転換されたきっかけは何だったのでしょうか?

高校3年生のとき、親友が事故にあい生死をさまよう出来事がありました。そのとき、「生きること」や「命」についてじっくり考え、それを子どもたちに伝えられる教師になりたいと思うようになったのです。

――それをできるのが「家庭科」だと考えられたのですね。

そうです。「家庭科」こそが、命の大切さや、普段の生活を主体的に生きる術を学べる教科だと思い、家庭科教育や家政学を研究しようと心に決めました。

――その強い想いが、防災教育の研究にもつながっているのですね。

振り返ってみれば、高校時代に阪神・淡路大震災を経験し、友人を亡くしたことも大きなきっかけです。当時は何もできず歯がゆい思いをしましたが、東日本大震災のとき、自分にできることを真剣に考え、本格的に研究へ踏み出しました。

「楽しく学ぶ」がいちばん!
多彩な実践とゼミ活動

――先生の研究室には、どのような特徴がありますか?

ゼミ生たちがとても明るく、仲が良いのが特徴です。研究も「楽しくなければ身につかない」と考え、できるだけ楽しく学べる環境づくりを意識しています。今年は「たこ焼き」をテーマに楽しく研究しています。

――たこ焼きですか!(笑) たこ焼きが、どのような研究になるのでしょうか?

たこ焼きは、家庭や地域によって入れる具材が違うので、「地域の特徴を活かした新しい“ご当地たこ焼き”を考えよう!」と、みんなでユニークなアイディアを出し合って試作・試食・改良を重ねています。

――とても楽しそうですね!これまでに、どんなアイディアが出たのでしょうか?

例えば、北海道ならカニカマとコーン、徳島ならスダチ、山梨ならお餅を入れて黒蜜をかける、とかですね。最終的には、研究資料としてまとめる予定です。

――研究が楽しいからこそ、ゼミの雰囲気も明るく楽しくなるのでしょうね!

私たちの研究室は、常に人が集まってきて賑やかです。学生が気軽に相談や雑談に訪れ、企業の方や学校の先生方が訪問されることも多く、とても活気がありますよ。

――先生のお話から、家政学に興味をもった高校生に、おすすめの入門書はありますか?

『育もう家政学』(開隆堂出版)をおすすめします。衣食住や家庭科教育など、幅広く解説されています。私も一部執筆していて、「出生前診断」や「選択的夫婦別姓」といった話題を取り上げています。

「教育の武庫川」を強みに
多様な業界へ羽ばたく優秀な人材に

――ところで、調理や裁縫が苦手でも、家政学部や生活環境学部は目指せるのでしょうか?

中には、そういうのが苦手な学生もいますよ。でも、そういう人でも、さまざまな教材を活用しながら、大学の4年間でしっかり学んでいけるカリキュラムになっています。

――それは安心ですね。やはり、将来的に教職を目指す学生が多いのでしょうか?

そうですね。教員や保育士を目指す学生は多いです。実習前に、緊張や不安で相談に来た学生が、「子どもたちがすごく可愛かった!」と、意欲を高めて帰ってくる姿は印象的です。

――実際、「教育の武庫川」と呼ばれるほど、優秀な人材がたくさん活躍されていますよね。

関西エリアの小学校であれば、校内に1人は卒業生がいるのではないかと思えるほどです。教育実習に赴く学生にとって、後輩として温かく迎えてくれる教員が多いことは、とても心強い環境です。

――教職以外では、どのような進路がありますか?

公務員、警察官、キャビンアテンダント、ウエディングプランナーなど、多様な分野に進路を広げたゼミ生もいます。どの業界へ進むとしても、ここで培ったスキルは、強力な武器になると思います。

――幅広い業界で役立つスキルとは、具体的にどのようなものでしょうか?

「相手にわかりやすく伝える力」「相手の話を聴く力」「協力して課題を解決する力」といったスキルです。チームで協力する学びを重ねているため、どんな職場でも重宝される人材に成長してくれています。

――ゼミ内だけでなく、学部・学科・学年を超えた交流も多いと聞きます。

先ほどの「子ども食堂」にも、いろんな学部の学生が参加しています。武庫川は学部が多く、他学部との交流は魅力的だと思います。他にも、地域のケーキ店とのコラボや、子どもたち向けの算数教室など、社会とつながる実践的な学びがたくさんありますよ。

――学内外で、たくさんの人々と交流できるのは、とても貴重な経験になりますね。

自分とは違う価値観をもつ人々との出会いを刺激として楽しんでほしいですね。さまざまな人と協力し合う力を磨いて、社会へ羽ばたいていってほしいと願っています。

生涯役立つ家庭科の知識は
大学受験の武器にもなる

――やはり、高校時代から家庭科の勉強に力を入れておくべきでしょうか?

そうですね。家政学の道に進む学生に限らず、家庭科の知識は、将来、結婚や子育て、就職など人生の節目で必ず活きてきますから、しっかり学んでほしいと思います。それに、実は、受験勉強にも役立つのですよ。

――受験科目にはなりにくい科目だと思いますが、それはどういうことでしょうか?

英語の長文読解では、ジェンダーや環境問題、子育て、防災、貧困といった「家庭科」に関連するテーマが頻出します。あらかじめ背景知識があると、英語も読み解きやすくなるはずですから、ぜひ授業を大切にしてください。

――他に、高校生活のうちにやっておいたほうが良いことはありますか?

何よりも、高校生活を思い切り楽しんでほしいですね。友達と遊ぶ、部活動に励む、校外活動に挑戦するなど、「今しかできないこと」に全力で打ち込み、深く考える経験を大切にしてください。

――最後に、進路に向かって頑張る高校生へメッセージをお願いします。

大学は「自分で問いを立て、考え、行動する場所」です。皆さんが今積み重ねている基礎知識は、将来自分の考えを深めるための大切な土台になります。苦しいときこそ前向きな言葉を交わし、楽しいキャンパスライフを思い描いてみてください。体調にはくれぐれも気をつけ、毎朝しっかりご飯を食べて頑張ってくださいね。応援しています!

私たちが「どう生きるか」という根源的なテーマに向き合う家政学。それはただ知識を得るだけでなく、多様な人々と関わりながら「生きる力」を育む実践的な学びです。今回のインタビューからは、そんな学問が社会と直結している面白さが伝わってきたのではないでしょうか。皆さんも、毎日の生活や家庭科の授業に少し視点を変えて向き合ってみることで、きっと新しい世界が広がるはずです。
(取材日:2026年9月)

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