生命の根幹を成すタンパク質の
構造と機能の相関を解き明かす

山梨大学 生命環境学部教授
大山 拓次 先生


タンパク質は命の担い手

タンパク質は地球上のあらゆる生命にとって最も重要な生物分子です。タンパク質は機能を持った分子であり、その機能を発揮するためには、立体構造が重要です。私は、構造生物学と呼ばれる手法を使い、原子レベルの立体構造からタンパク質の機能を明らかにする研究をしています。
生き物は様々な分子から作られていますが、水以外の固形成分のうち半分またはそれ以上をタンパク質が占めています。タンパク質はバリエーションも豊富で、20種類のアミノ酸が分子によって決まった順番(アミノ酸配列)で繋がって作られています。我々ヒトの場合、平均サイズのタンパク質は約300個のアミノ酸が結合していて、単純計算で20の300乗通りものタンパク質を作ることが可能です。
ヒトゲノム(染色体)上には、約2万2千種類のタンパク質のアミノ酸配列が設計図、つまり遺伝子として保存されています。この原子レベルの緻密な設計図に基づく生産物がタンパク質であり、それらが固有の機能を発揮して初めて我々は健康に生きることができます。極端な場合、たった1個のタンパク質のたった1個のアミノ酸変異が生命の危機をもたらすこともあるのです。一方で、遺伝子とタンパク質の変異が新たな命を生み出す可能性もあります。地球で生命が誕生して以降、生き物は親の遺伝子を原則そのまま引き継ぎながらも突然変異や遺伝子組換えにより様々な生物種を生み出しました。その壮大なドラマの実行役こそ、新たな構造と機能をもったタンパク質と言えるのです。

タンパク質の立体構造を原子レベルで解析

タンパク質がそれぞれの分子ごとに固有の働きを持つ本質は、分子ごとに決められた特定の物質を認識し、特異的に結合することです。ここで重要になるのが、タンパク質分子の立体構造です。アミノ酸が繋がったタンパク質はたいていの場合、機能を発揮するために特定の形に折りたたまる必要があります。その時の分子表面のでこぼこやアミノ酸に由来する表面電荷の分布はタンパク質ごとに異なり、これが機能を決めています。私が専門とする構造生物学では、X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡解析などの特殊な解析法を使って立体構造を原子レベルで決定し、構造と機能の相関性を解明しています。

様々な医療や産業に応用される可能性

タンパク質は生き物が生きていく上で欠かせない分子ですから、遺伝あるいは環境によって特定のタンパク質が正常な機能を失った時、深刻な病気を患う危険があります。しかし現代医科学は進歩が目覚ましく、病気の原因となるタンパク質が特定され、その立体構造情報を利用して治療に有効な薬の開発が迅速に進められたケースも数多くあると言われています。また、細胞から取り出したタンパク質や遺伝子工学を利用して試験管内で作ったタンパク質は様々な産業で利用されています。古くから食品業界で活躍している多糖類を分解する酵素はその一例です。私も現在SDGsに貢献すべく、シロアリ共生微生物群が持つ木質分解能を利用し、作物や樹木の非可食部に含まれる多糖から効率的に単糖を取り出し、食糧と競合しない第二世代バイオエタノールの生産に繋げる研究を行っています。
この研究は、生物が生きている仕組みを原子レベルで詳しく知ることができるだけでなく、医療や産業へ応用される可能性を多く秘めています。基礎および応用の両面で少しでも貢献できることを目指し、日々研究を進めています。

タンパク質を通して感じる生命観

かつてはタンパク質と聞いても筋肉しか連想できなかった私が、構造生物学にのめり込むようになったのは大学4年生の時です。タンパク質構造のステレオ図を立体視することに苦労していたある日、眠りに落ちる寸前に突如成功し、「タンパク質の機能には、その立体構造が重要である」というシンプルかつ重要な事実を、実感を持って(三次元構造上で見て)理解できたことがきっかけでした。
タンパク質の働きを意識しながら構造を眺めていると、地上最小にして最高精度の精密機械だと感じます。そして、ふと「タンパク質は生きていて、生き物に生死があるのはタンパク質に生死があるからだ」と考えることもあります。生物の進化はランダムな遺伝子変異と自然選択の結果と言われていますが、それにしてはあまりにもでき過ぎていて「誰かが知恵を絞り、苦労して設計したのかもしれない」とさえ感じます。そうでなければ、生き物は生きているだけで驚くほど奇跡的です。そんな妄想をしていると、いつまでも飽きることなくタンパク質の構造を眺め続けられ、タンパク質の新たな個性や驚きを発見したいという気持ちが研究へのモチベーションを生みます。

大山先生からのメッセージ

大学には様々な専門分野で研究する教員、教員と学生の活動を支える職員、そして学びの主役である学生が1つの大きなコミュニティを形成しており、キャンパスで多様な方々と触れ合う中で刺激的な学びに繋がることが期待されます。社会では専門分野の知識が直接活かされるケースもあると思いますが、文系理系に関わらず、専門分野を探究する力に加え、その探求の中で培われる論理的思考力が社会に役立つ力となるでしょう。いずれにしても、自ら積極的に学ぶ姿勢が、有意義な大学生活を過ごすために最も重要な要素です。大学での経験は、卒業後の人生の大きな糧になると思います。

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