「普通」の家族って何!?
―― 国内外の比較から家族の「当たり前」を問い直す

専修大学 人間科学部 教授
永野 由紀子 先生


人は女に生まれるのではない、女になるのだ

私が社会学に関心をもつきっかけとなったのは、ボーヴォワールが『第二の性』で残した「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という言葉です。男性や女性という性差が、生物学的に自然に決まるものではなく、社会によって構築されるという視点は、当時の私にとって鮮烈でした。自分が求めていた言葉に出会ったことで、「社会的なもの」への関心が一段と深まったのです。
「女らしさ・男らしさ」を問い直すジェンダー研究やフェミニズム研究に加え、近年はLGBTQと総称される性的マイノリティの研究も活発です。こうしたテーマに目を向けることは、性的マジョリティが自分の価値観を「当たり前」だと思い込まず、多様な性のあり方の1つとして客観視するきっかけにもなります。人間の意識や価値観が社会によってどう形づくられるのかという関心は、やがて家族と地域社会の編成原理を探る現在の研究へとつながっていきました。

東南アジアとの比較から見える日本家族の独自性

現在の専門は「農村社会学」と「比較家族研究」です。社会学を学び始めた当初は、自分が農村の研究に進むとは想像していませんでした。
これまで農家へのインタビュー調査を通して、日本の農村社会の現実や歴史を明らかにしてきましたが、大きな転機となったのはインドネシア・バリ島での農村調査です。日本と東南アジアの家族を比較したことで、それまで日本で「当たり前」だと思っていた家族のあり方が、アジア全体で見ると決して普遍的ではないことに気づきました。日本の家族というものは、生活や労働の必要性と深く結びつき、さらに江戸時代の政策や明治国家の家族制度の影響を受けながら、独特のかたちをとってきたものなのです。

現場のリアリティに迫るインタビュー調査

私の研究テーマは、さまざまな社会学との出会いや偶然が重なって変化してきましたが、どのようなテーマであっても「社会と人間のリアリティに迫る」という社会学の根本的な課題は、研究領域を問わず共通しています。その意味で、私は「インタビュー調査」という方法に強い魅力を感じています。一般的に「調査」と聞くと、国勢調査や世論調査のようなアンケートを想像しがちです。しかし、インタビュー調査は、調査者と語り手との「対話」を通じて、現場のリアリティに直接近づく手法です。農村調査に限らず、人々の行動の背景や、彼らが生きる「生活世界」の意味を理解するうえで、不可欠な方法の1つだと考えています。

誰もが作り上げられる「自分自身の社会学」

社会学は、「社会学者の数だけ社会学がある」と言われるほど、社会の変化に合わせて柔軟にテーマが広がる学問です。社会や人間に関心がある学生であれば、誰でも自分の興味に合った社会学を見つけ、さらには「自分自身の社会学」をつくり上げていくこともできます。
学生の卒業論文のテーマも実に幅広く、性的マイノリティや子どもの貧困、血縁にとらわれない新しい家族のかたち、SNSの影響など、時代を反映した新しいテーマが人気です。扱うテーマは多様ですが、法制度や政策よりも「社会の中で生きる人々の心情や意識、価値観に目を向ける」という点では共通しています。私にとって、社会学を学びたい学生との出会いは何よりの喜びです。世代や年齢、性別は違っていても、皆さんの関心や研究テーマから、「同時代を生きる者」として私自身も多くのことを学んでいます。

「好き」は社会学の学びにつながる

「自分自身の社会学」を見つけるためにも、高校時代には何か「夢中になれる好きなこと」があれば、中断せずにぜひ続けてほしいと思います。読書でも、スポーツでも、音楽でも、映画でも、漫画でも、どんなことでもかまいません。実は、好きなことに打ち込む経験が、社会学の学びにもつながっていきます。
社会の変化はとても速く、専門的な研究だけでは追いつけないことも多いため、社会学のリアリティ感覚を磨くには専門書を読むだけでは不十分です。フィクションや映像作品は、社会で起きている新しい現象をいち早くキャッチして表現してくれる大切な素材になります。 私自身も中学生の頃から小説や漫画を読むこと、映画やドラマを見ることが大好きでした。その「好き」が今も続いていて、現在の研究につながっていると感じます。皆さんもぜひ自分の「好き」を大切にしてください。それはきっと、将来の学びや仕事につながる、大事な力になっていきます。

永野先生からのメッセージ

私は、押し付けられた勉強への反発があり、受験勉強に熱心に取り組むタイプではありませんでした。しかし今振り返ると、中学・高校での基礎的な学習は、すぐに役に立たなくても、確実に「物事を考える力の土台」になる大切なものだと痛感しています。当時はやりたいことも明確でなく、基礎的な学び(特に英語や歴史)をおろそかにしたことを、今では後悔しているほどです。皆さんにはぜひ、基礎的な学習にしっかりと向き合ってほしいと思います。
大学生活は、人生の中で一番自分の時間を自由に使える時期です。その時を充実させるためにも、まずは“今の自分”を大切にして、目の前の学びを一日一日積み重ねていってください。

(取材日:2026年6月)

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