未来のインフラを「消費」する側から「創る」側へ
ソフトウェアの力で、AI社会の舞台裏を支える
関西大学 ビジネスデータサイエンス学部 教授
市川 昊平 先生
ハードの限界をソフトの工夫で超える
私たちが生成AIをスムーズに使えたり、動画や音楽アプリに「おすすめ」が瞬時に表示されたりするのはなぜでしょうか。その背後には、膨大なデータを処理するために、クラウドをはじめとする大規模な計算基盤(インフラ)が稼働しています。現代社会の多くのサービスは、複数のコンピュータを繋いだ巨大な「分散システム」なしには成り立ちません。そして、このインフラを「いかに効率的かつ安定して運用するか」という課題に対して、私が研究しているのが「ソフトウェア定義技術」です。これは、ハードウェアの性能向上だけに頼るのではなく、ソフトウェアの工夫によって柔軟に制御する、というアプローチです。
具体的には、大容量のデータを国際間で高速に転送するネットワークや、生成AIをより軽く・速く動かす技術、データを分散させてプライバシーを守るシステム、さらには、それらの技術を太陽光発電の予測や集中治療室での医療AIへと応用し、社会課題の解決や新しいビジネスの創出へとつなげる研究を行っています。
データを運び(ネットワーク)、蓄え(ストレージ)、分析・活用する(計算処理)ための高効率・低コスト・高信頼の技術をソフトウェアで構築していくことは、AIの消費電力を抑える「グリーンIT」や、災害時にも通信やサービスが途切れない強い社会づくりにも貢献できると考えています。
中学生の「プログラムで動かす楽しさ」が、世界規模の研究に
私がコンピュータ科学の道を志した原点は、家庭用にパソコンが普及し始めた1990年代半ば、中学生の頃に遡ります。初めて触れたコンピュータで、自分が書いたプログラムが実際に目の前で動作する様子を見て、その面白さに深く心を動かされたことが最初のきっかけでした。
大学・大学院時代は、インターネットの急速な普及期と重なり、多数のコンピュータを協調させて問題を解決する研究に夢中になりました。現在のテーマへシフトしたのは大阪大学の助教をしていた2010年頃、当時の恩師である下條真司教授から「SDN(ソフトウェア定義ネットワーク)という新しい技術概念に、研究として取り組んでみてはどうか」と声をかけられたのが始まりです。大阪大学、産業技術総合研究所やタイのカセサート大学の3拠点を結ぶ小さな実験からスタートした取り組みは、その後、フロリダ大学などと共同で立ち上げた「PRAGMA-ENT」と呼ばれる国際的な大規模実験ネットワークへと発展しました。中学生の頃に抱いた「プログラムで動かす楽しさ」が、世界規模のネットワークインフラをソフトウェアで制御する現在の研究へと繋がっています。
社会を動かす仕組みを自ら設計し制御する
この分野の大きな魅力は、目に見えないところで社会を動かしている仕組みそのものを、自らのソフトウェア技術によって設計し、制御できる点にあります。スマートフォンや生成AIなど、現代のインフラとなっているサービスの舞台裏を支える技術開発に貢献できている実感は、研究者として非常に大きなやりがいがあります。
また、自分が記述したソフトウェアによって世界中に分散するコンピュータやネットワークが効率的に動き、パフォーマンスが向上していくプロセスを直接測定し、検証できることも醍醐味です。工夫した結果が比較的早く確認できるため、次の新しいアイデアへと繋げやすいサイクルがあります。さらに、アメリカや台湾など世界各国の優秀な研究者や学生と日常的に議論を交わし、国籍や専門領域を超えて知恵を出し合い、最先端のシステムを共同開発できることも、大きな魅力の1つです。
高校時代の学びと経験は、未来を支える土台
私たちは、データとビジネスの知識を活かして社会課題の解決に挑みたいという強い意欲を持った学生を求めています。便利なサービスを単に消費するのではなく「技術の裏側」に関心を持つ探求心や、厳しい制約を前に知恵を絞る柔軟な思考力、そして文理の枠を超えて多様な仲間と協働する姿勢を期待しています。その第一歩として、高校時代には日々の生活で使うスマホアプリやAIが「なぜスムーズに動くのか」に関心を持ち、関連ニュースを読んだりプログラミングに触れたりして自ら探求してみてください。
また、部活動や学校行事などを通じて、多様な仲間と目標を達成する経験も積んでほしいと思います。他者を尊重する対話力は、大学でのグループワークや実践的な学習において必ず大きな強みになります。そして、そのような専門的な学びや、変化の激しい社会を生きるための「土台」となるのが、皆さんが日々向き合っている受験勉強です。例えば数学は、AIの仕組みを理解し「作る側」になるための論理的思考力の基礎となります。国語や社会で養われる人間や社会への洞察力は、データに意味を与え実社会の価値へと変換するために不可欠です。さらに英語力は、最先端の技術情報の取得や、国際的な協働の場面で重要な基盤となります。日々の学習を単なる合格の手段とせず、未来を支える土台として大切に取り組んでください。
市川先生からのメッセージ
受験勉強で壁にぶつかって試行錯誤した経験は、現状を打破する力として大学での研究や将来の仕事に必ず活き、皆さんの大きな自信になるはずです。
関西大学ビジネスデータサイエンス学部のある吹田みらいキャンパスには、最新の学習設備や豊かな協働スペースが整い、産業界や世界と繋がった実践的な教育の場が用意されています。ここで他者と協働して新たな価値を生む「考動力」を磨いてみませんか。AIやITを単に消費するのではなく「作る側」として未来の基盤を創りたい皆さんの挑戦を全力で応援します。ぜひ自分を信じてこの受験期を乗り越えてください。キャンパスで共に学べる日を楽しみにしています。









