小学校の教材ですら難解なものがあるからこそ、
小説を深く「考察」する

武庫川女子大学 文学部 日本語日本文学科 教授
山本 欣司 先生


映画やドラマの「考察」サイトで行われていることを小説でする

私の専門は日本近代文学です。なかでも小説の解釈について研究しています。映画やドラマを観て、ストーリーや人物像がうまく理解できずモヤモヤしたとき、ネット上の「考察」を参照したことはありませんか? 誰かの説明を読んでようやく落ち着く。いくつかの「考察」を読み比べて、自分自身でも掘り下げてみる。みなさんにとって、そんな楽しみ方は当たり前かもしれません。小説について私がこれまで取り組んできたことは、「考察」サイトで行われていることと似ています。
私は現在、武庫川女子大学文学部、日本語日本文学科に勤めていますが、高校で「国語」を教えたり、大学の教育学部で国語教員養成に携わったりした経験があります。しかし正直に告白すると、中島敦「山月記」についてうまく理解できないまま、高校で授業をしたことがあります。また、教育実習に行く学生から小学6年生の国語教材、立松和平「海の命」についてアドバイスを求められたのに、自分でもストーリーやテーマが把握できず、学生をますます混乱させたことがあります。もちろん研究者として様々な文献・論文を読むわけですが、それでも従来の、定説と呼ばれる説明が納得いかない、疑問が解消しないことがあるのです。そういう壁にぶつかったとき、研究がスタートします。うまく理解できない口惜しさをバネに、納得いくまで何度も本文を読み返し、隠れていたストーリーラインを見つけ出していくのです。そして根拠を示しながら、多くの人に納得してもらえるように、解釈をわかりやすい論理で言語化し、論文として発表します。

圧倒的説明不足の樋口一葉作品を解明していくワクワク感

私の研究の中心は、明治20年代に活躍した樋口一葉という女性作家です。大学入学後すぐの講義で初めて代表作の「たけくらべ」を読み、情景描写の鮮やかさに魅了されました。卒業論文で「にごりえ」を研究して以来、ずっと取り組んでいます。樋口一葉の小説の特徴は、何度読んでもうまく理解できないところです。古文のような雅俗折衷の文章がわかりにくいのもありますが、ストーリーに関しての説明が圧倒的に不足しています。たとえば「にごりえ」の場合、ラストシーンの真相(無理心中か合意心中か)すら解釈がわかれます。読み終えたあと、呆気(あっけ)に取られるレベルです。私の場合、そんなつかみ所のなさが研究意欲を高めたようです。一葉作品を理解したいと願い、読み込み、自分なりの解釈を論文としてまとめてきました。初めのうちはわからなかった小説も、線を引いたり書き込みをしたりしながら分析するうちに、しだいに把握できてきます。そのワクワク感が研究の原動力となりました。研究のやりがいは、わからなかったことが、わかるようになるところにあります。
私は子どもの頃から小説をたくさん読んできました。でも、好きなのに誤読したり、わからないまま読み終えたりするのは残念です。玄人向けの文学作品のみならず、小学校国語教材ですら難解なものがあるので、読み方がわかったとき、ホッとします。また、多くの読者や学生たちに、「こう読むといいよ」とアドバイスできたとき、やりがいを感じます。

山本先生からのメッセージ

私はセンター試験「国語」の問題を作った経験もあるのですが、みなさんには本文をじっくり読み深めていくプロセスを大切にしてほしいと願います。大学の文学研究も受験の「国語」も、感性に頼らず、論理的に本文を理解する力(リテラシー)が最重要です。小説読解においては、先入観を排除することを心がけて下さい。問題作成者は、よくあるストーリー(テンプレ)に当てはめて本文を理解しようとする受験生を罠にはめるため、それっぽい「誤答」を必ず準備します。思い込みを捨て、必ず本文に根拠を求めるようにして下さい。

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